Page112:ニンジャの実力①
模擬戦場に入って、まず最初にレイ達が耳にしたのは……悲鳴であった。
「逃げろぉぉぉ! レッドフレアが来たぞー!」
「いかん!
「命だけは助けてくれぇぇぇ!」
蜘蛛の子散らすように、逃げ出す
GODの操獣者もいれば、
いや、いたが正しいか。
綺麗にもぬけの殻と化した模擬戦場に佇むレイ達。
レイは無言でフレイアを、モモはラショウをジト目で見た。
「フレイア、あれほど模擬戦場では自重しろとだな」
「あ、アハハ……ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
「あの反応をちょっとと形容するのは無理があるわい!」
レイに叱られて、少しテンションを落とすフレイア。
一方ラショウはというと……
「兄様? ヒノワで何をしたんですか?」
「うむ。最近軟弱な操獣者が多くてな。勝手ながら皆に稽古をつけてやったんだ」
「はぁ〜……兄様の稽古は素人が耐えられる代物ではないと、何度言わせるのですか」
「そうです兄者! 私でも辛うじてなんですよ!」
「う、うむ……少しやり過ぎてしまったか」
「「少しではありません!」」
モモとサクラ。二人の妹に叱責されて、ラショウは目に見えて落ち込んでいた。
そんな様子を互いに目撃したレイとモモ。
二人は特別言葉を交わさなかったが「お互い苦労してるな」と意思疎通はできた。
「そうだな、では今日は少しだけ加減をした模擬戦を」
「兄様。加減ではなく普通の模擬戦をしてください」
モモの叱責が続く。
その後ろでレイはある事を思い出して、手に持っていた皮袋を開けた。
「そうだライラ。アレの整備できたぞ」
「えっ、もうっスか!?」
レイが皮袋から取り出したのは、ライラから預かっていたスクエアクナイだ。
三角定規を模した
「一応中身の術式を弄ったけど、専用器レベルにするにはトライ&エラーが大事だ」
「わかってるっス。この模擬戦も使って、調整をしろって事っスよね?」
「その通りだ。しっかりデータ取るぞ」
魔武具整備士の娘だけあって、話が早い。
ライラはスクエアクナイの持ち手を握り、気合い入れる。
レイは内心「フレイアもこのくらい理解力があればな」とぼやいていた。
それはそれとして、レイは整備中に気づいた「ある事」をライラに告げようとする。
だがそのタイミングで、モモのラショウへの叱責が終わったようだ。
「いやぁすまない。お叱りは終わったよ」
「見苦しいところを見せてしまったわね」
「いいさ。ウチのリーダーも暴走しやすいんだ」
「力こそパワー!」
アホな事を言うフレイアの足に、レイは無言で蹴りを入れた。
それはともかく。ようやく本題に入れる。
「じゃあ模擬戦を始めるわけなんだけど……どういう形式にするんだ?」
「わかりやすさ重視で行こう。先に全員戦闘不能にした側が勝利だ」
「良いねぇ。そういうわかりやすいルールは大好きだ。フレイアもそれで良いか?」
「なんでも来い! 負ける気ないもんねー!」
「だってよラショウ」
「ではこの形式で行こうか」
レイは一応他のメンバーにも確認したが、全員フレイアの決定に異議はなかった。
それはアクタガワ兄妹側も同じ。
「じゃあ最初は誰と誰がやる? 言っとくけどフレイアとラショウをぶつけるのは最後な」
「同意ね。兄様はきっとやり過ぎてしまうわ」
レイとモモやり取りに、フレイアは無言の抗議を送る。
だがラショウは何やら不敵な表情を浮かべていた。
「それならば……最初から最後にしてしまえば良い」
「んあ?」
「こちらは三人。そちらも三人ずつかかって来てくれ」
「なるほど。最初からチーム戦でやろうってわけか」
ラショウの意図を理解したレイも、少し笑みを浮かべる。
フレイアも理解したらしく、テンションが上がり始めていた。
「でも良いのか? こっちの方が人数は多いぞ」
「ハハハ。数に負けるほど、我々は弱くない」
「その言葉覚えとけよ」
話はついた。ならば次は誰が出るかを決めなければならない。
レイ達は輪を作って話し合う。
「で、誰から出る?」
「はいはーい! アタシが最初に出る!」
「知ってた。じゃあ一人目はフレイアな」
まず一人目が半強制的に決定する。
誰も反対しないのは、諦めとも言えた。
「あと二人か……さっさと出たい奴いるか?」
「アリスは最後がいい。気絶したら治療ができない」
「僕も後がいいかな。まずはじっくりとニンジャ戦い方観察したいし」
「わたくしもジャックさんと同じですわ」
「わ、私はどこでも……」
各自自分の希望を述べていく中、レイはライラの方を見る。
「ライラはどうする?」
「ボクは……最初に出たいっス」
「じゃあ二人目はライラな」
あっさり決まる二人目。
だがライラの表情は、少し強張っているようにも見えた。
「となると、俺が余るわけか。じゃあ俺も最初でいいか? せっかく本場のニンジャと戦えるんだ。全力のやつと戦いたい」
反対意見は出ない。
これで三人目も決まった。
後の順番は残った面々に任せて、レイ達は三兄妹の前に出る。
「最初の三人が決まったぞ」
「ふむ……最初から全力を出す、と見て良いのか?」
「とーぜん! アタシ達はいつだって全力全開!」
「それは私達変わらないわよ。ヒノワの操獣者を甘く見ないことね」
パチパチと火花を散らす者達。
そんな中、ライラとサクラは静かに戦いへの覚悟を決めていた。
「ニンジャ……絶対に、勝つっス」
「ががが、頑張らなきゃ。兄者達の足を引っ張らないようにしなきゃ」
完璧に覚悟決まり切っていないのか、サクラは少し震えていた。
三人と三人は模擬戦場の中央に移動する。
少し距離を置いて対峙。互いに見据え合っていた。
「では、始めようか」
「いつでも良いぜ」
ラショウとレイがグリモリーダーと
それに続いて、フレイア達もグリモリーダーと獣魂栞を手にした。
余談であるが、ラショウ達のグリモリーダーは、ヒノワの国独特のデザインとなっている。
「フレイア。リーダーらしく火蓋切ってくれ」
「言われなくても。二人とも、いくよ!!!」
「「応ッ!」」
「モモ、サクラ! 我々も変身するぞ!」
「「はい!」」
六人の戦士が、同時にCodeを解放する。
「Code:レッド!」
「Code:イエロー!」
「Code:シルバー!」
「「「解放!」」」
赤、黄、銀の魔力が、獣魂栞に滲み出す。
「Code:
「Code:
「Code:
「「「解放!」」」
ラショウ、モモ、サクラも同じくCodeを解放する。
そして六人は同時に、獣魂栞をグリモリーダーに挿入した。
「「「クロス・モーフィング!!!」」」
魔装、一斉変身。
フレイア、ライラ、レイはいつもの魔装形態になる。
その眼前で、変身するアクタガワ兄妹。
ラショウは狐の意匠がある仮面をつけた鉛白色の魔装。
モモは鳥の意匠がある鴇色の魔装。
そしてサクラは、狸を彷彿とさせる桜色の魔装へと身を包んだ。
三兄妹の魔装には、袖無しで如何にも動きやすそうな外観という共通点もある。
その魔装は、どこかライラの魔装にも似ている雰囲気であった。
「影に隠れて敵を断つ……いかにもニンジャって感じの魔装だな」
「褒め言葉として受け取っておこう。だがレイよ、我々は甘くないぞ」
「だってさフレイア」
「ニンジャァァァァァ!!! ニンジャとバトルだぁぁぁ!!!」
仮面の中で目を輝かせているフレイア。
レイはそんな彼女に「お前は子供か!」とツッコむのだった。
だが憧れのニンジャを前にしたフレイアはこの程度では止まらない。
「二人とも、早く始めるっスよ」
「おっと、そうだな。俺らも結構強いってところ見せてやらなきゃな!」
「アタシは今日、ニンジャを超える!」
「お前はいい加減ニンジャから離れろ」
ツッコミ入れつつも、レイはコンパスブラスターを手にする。
それに続いて、フレイアはファルコンセイバーを、ライラはスクエアクナイを構えた。
「では……始めようか!」
ラショウの言葉で、模擬戦が始まった。
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