Page103:極付眩キ合体

 サン=テグジュペリの空に、巨大な凶獣体となったウァレフォルが現れた。

 街の住民達がパニックに陥る。

 そしてレイ達は少し焦っていた。


「不味いな、またデカくなりやがった」

「どうしよう。ライラとジャックが居ないから、Vキマイラになれない」

「そもそもマリーとオリーブが鎧装獣がいそうじゅうになれないだろ」


 そもそも的な問題がある。

 だが現状を見過ごす訳にはいかない。

 ウァレフォルを止める事もそうだが、まだ街には盗賊達がいるのだ。


「フレイア、オリーブ! 二人は街の盗賊を退治してくれ。マリーは安全な場所へ!」

「レイはどうするの!?」

「俺とアリスは鎧装獣になれるからな。あのライオン野郎をぶっ飛ばしてくる!」

「……分かった。アイツは二人に任せる」


 レイを信じて、フレイアはウァレフォルを二人に任せた。

 それはマリーも同じ。


「レイさん、アリスさん。お願いします」

「うん。まかせて」


 方向性は決まった。

 フレイアとオリーブは街の中を駆け出す。

 マリーは避難。

 そしてレイとアリスは。


「行くぞアリス!」

「うん」


 二人はグリモリーダーの十字架を操作した。


「融合召喚! スレイプニル!」

「融合召喚、カーバンクル」


 二人の頭上に巨大な魔法陣が展開される。

 その魔法陣に飛び込むと、二人の身体は契約魔獣と一体化していった。


『キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥイィィィィィィィィィ!!!」

『はァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 魔法陣が弾け飛び、二体の鎧装獣が降臨する。

 全身が金属と化した、スレイプニルとロキだ。


「行くぞ、レイ」

『あぁ! アリスはサポート頼む!』

『りょーかい』

「キューイー!」


 蝙蝠の羽を羽ばたかせて、空を制するウァレフォル。

 スレイプニルとロキも飛行して、立ちはだかった。


「ほう? 王獣かァ、相手に不足はねェなァ」

「では早々終わらせてやろう」


 スレイプニルは前半身に装備された大槍、ショルダーグングニルをウァレフォルに向ける。


「レイ、頼むぞ!」

『分かった。インクドライブ!』


 スレイプニルの中で魔力が加速する。

 加速した魔力はショルダーグングニルに行き渡り、破壊エネルギーを纏わせた。

 後半身に装備されたスラスターの推進力を使って、スレイプニルはウァレフォルに突撃する。


「『螺旋槍撃グングニルブレイク!』」


 凄まじい勢いで突撃するスレイプニル。

 幽霊船をも破壊した必殺技だ。

 しかし……


「無駄だァ!」


 ガキン!

 スレイプニルのショルダーグングニルは、ウァレフォルの手によって掴まれてしまった。


「なに!?」


 いとも簡単に必殺技を防がれてしまい、スレイプニルは驚愕する。

 何より、受け止めたウァレフォルの手がほとんど無傷なのが恐ろしかった。


「そーらよッ!」

「ヌゥ!」


 ウァレフォルはそのままスレイプニルを投げ飛ばす。

 スレイプニルはなんとか空中に魔力の足場を作り出して踏ん張ったが、その凄まじいパワーに戦慄していた。


「なんというパワーだ」

『凶獣体になったせいで、更に強くなってやがる』


 レイもスレイプニルの中で戦慄していた。

 頼みの綱であるVキマイラは出てこれない。

 今はスレイプニルとロキの力で対抗するしかないのだ。

 何か策はないか、レイは必死に思考を巡らせる。

 だがどうしてもパワー不足が決定打を消してしまう。

 そんなレイとスレイプニルの事など関係なく、ウァレフォルは次にロキに狙いを定めた。


「次はテメーだ。ウサギちゃんよォ」

「キュイキュイ!」

『ロキ、気をつけて』


 ウァレフォルは空中で蠍の尻尾振るい、ロキを攻撃する。

 ロキはそれらを縦横無尽な起動で、回避していく。

 だがロキには攻撃力が足りない。

 決定打にはならないのだ。


『リライティングアイ!』


 ロキの耳の裏に描かれた紋様が光を放つ。

 強力な幻覚魔法がウァレフォルを襲う。

 これで動きは止まる、そう思われた次の瞬間であった。


「効かねェェェ!」

「キュ!?」


 幻覚魔法を無力感したウァレフォルは自由に動けていた。

 その姿を見てスレイプニルも驚愕する。


「なんという事だ。強力な精神感応耐性を持っているのか」

『厄介なんてレベルじゃねーぞ!』


 これではロキの魔法で動きを止める作戦が使えない。

 レイは焦った。攻略法が見えてこない。

 だが今は攻撃しなければ何も始まらない。


『スレイプニル!』

「うむ!」


 スレイプニルは空中を駆け出し、ウァレフォルへと接近した。


「スラッシュホーン!」


 白銀に輝く一本角で、ウァレフォルに斬りかかるスレイプニル。

 だがそれも、大したダメージにはならなかった。


「だからよォ、無駄無駄無駄ァ!」

「くっ。これでもダメか」

「キューイー!」


 スレイプニルが苦戦している様子見て、ロキが声を上げる。

 再び幻覚魔法をウァレフォルに放つが、やはり無効化されてしまった。


「鬱陶しいなァ。まずはそこのウサギからやってやる」


 ウァレフォルは獅子の爪を振りかざし、ロキに襲いかっった。

 鎧装獣化しているとはいえ、ロキの防御力はそこまで高くはない。

 このまま攻撃を受けてしまっては、融合しているアリスも無事では済まない。


 動きがスローモーションに見えた。

 そこから先は、レイの無意識が動かした。

 スレイプニルの中で、レイの手から虹彩色の光の帯が伸びたのだ。


『(これは……あの時同じ)』


 そうだあの時同じように。

 レイは光の帯をロキに繋げると同時に、思いっきり引いた。


「キュ!?」

「あん?」


 ウァレフォルの攻撃は不発に終わる。

 光の帯によって、ロキはスレイプニル方へと強引に引き寄せられていた。


「大丈夫か、ロキ殿」

「キュ〜」

『アリスは!?』

『うん、大丈夫……レイ、これって』


 光の帯は、まだロキの中に繋がっている。

 それはロキと融合しているアリスにも感じ取れたようだ。

 光の帯が消える。

 だがレイの中では、一つ策が浮かんでいた。


『そうか……俺にも指輪の力はあるんだった』

『レイ?』


 フレイアもぶっつけ本番の必殺技成功させたのだ。

 自分もやってやると、レイは決心した。


『スレイプニル、ちょっと派手にやるぞ』

「なにか策はあるのか?」

『ある。とっておきが一つな!』


 レイは必死にブライトン公国でのフレイアを思い出す。

 真似をすればいける筈だ。


『アリス! 力を貸してくれ!』

『うん。でも何するの?』

「キュイ」

『決まってるだろ……俺達で合体するんだよ!』


 レイの衝撃的な発言に、スレイプニルとロキが驚愕の様子を見せた。


「合体だと。フレイア嬢と同じ事する気か」

『あぁ。俺も指輪は持ってるんだ。できない筈はないだろ!』

「……勝算はあるのか」

『ブライトン公国でVキマイラを見ただろ。凶獣体に対抗するには、合体するしかない』

「そうか……ならば我も挑戦してみよう」

『アリスも頑張る』

「キュイキュイ!」


 全員了承は得られた。スレイプニルとロキは、ウァレフォルに向き合う。


「ハハハ。何をしても、今の俺様には勝てねーよ」

「そうかもしれんな。だが、まだ可能性を試していない」

「可能性だァ?」

「貴様には分からんだろうな。未来を奪う事しかできない貴様などには」


 スレイプニルの挑発に些か苛立ちを覚えるウァレフォル。

 だがそれでも余裕を持っていた。


「レイ、頼んだぞ」

『あぁ……行くぞみんな!』


 レイは自分の中にある王の指輪に念を入れる。

 指輪から虹彩色の光の帯が見えた。

 レイはそれを勢いよく、外に出す。


『ソウルコネクト! カーバンクル!』


 光の帯がロキの中に入っていった。

 それは融合しているアリスも感じ取る。


『これ……温かい』

 

 スレイプニルとロキ、二体の鎧装獣魂が繋がる。

 これで準備は完了した。


『行くぞ! 魔獣合体!』


 レイが合体を宣言した瞬間、ロキスレイプニルに変化が始まった。

 ロキは両手足が収納され、頭部が背中に移動する。

 反転し、巨大な胴体と化した。

 そしてスレイプニルは……


「むむ!?」

『うわッ!? 首が取れた! 頭も!』


 首が取れ、頭部も分離する。

 更に胴体からショルダーグングニルとスラスターが分離。


『あっ、胴体割れた』

「レイ、実況しないでくれ」


 前半身と後半身が分離、更に前半身が二分割。

 ここまでバラバラになったスレイプニルの身体は、次々に胴体となったロキに合体し始めた。

 スレイプニル後半身は変形して、巨人下半身になる。

 前半身も変形し、ショルダーグングニルが肩に合体、スラスターが拳となり合体。

 そして前半身は両腕となってロキと合体。

 スレイプニルの頭部は左腕に武装。

 首は大剣となった、腰にマウントされた。


「『うォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』」


 胸部アーマーが展開。

 騎士を彷彿とさせるデザインの頭部が出現して、合体は完了した。


 それは、気高き魂の具現化であった。

 それは、戦いを司る王の体現であった。

 そしてそれは、美しき白銀の鎧巨人ティターンであった。

 名前はまだ無い。ならば今つけるまで。


『名前は今考えた!』

「ほう、では盛大に名乗ってみよ」


 白銀の鎧巨人は大剣の切先をウァレフォルに向ける。

 そしてレイは、この鎧巨人の名を名乗った。


『完成! ロードオーディン!』


 白銀の鎧巨人――ロードオーディン誕生瞬間であった。

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