Page102:トリニティ・プロミネンス

 ボロボロの身体を急速に再生するウァレフォル。

 ひとまず戦えるレベルまで回復させたというところか。

 その表情はお世辞にも余裕とは言い難かった。


「これしきのォ……ダメージで、倒せると、思うなよ」

「チッ、回復力だけは王様並みってか? 冗談じゃねーぞ」


 レイが悪態をついた直後、マリーが突然膝から崩れ落ちた。


「うぅ……」

「マリーちゃん!」


 オリーブが心配して駆け寄る。

 マリーの変身は強制解除されてしまった。

 元々ダメージの残っているローレライが無理をして変身していたせいだ。ここで限界が来たらしい。


「ハハハ。戦力が一人減ったらしいなァ?」


 これ幸いと笑い声を上げるウァレフォル。

 実際問題ピンチではあった。

 マリーは変身不能。オリーブもあまり無茶はできない。アリスは攻撃力に欠ける。

 となれば、残るはレイとフレイア。二人で討つ他ないのだ。


「ちょっと、不味いかもね」

「でも、戦わなきゃ……レイ?」


 仮面の下で冷や汗を流すフレイアとアリス。

 だが一方でレイは冷静であった。

 静かに策を練る。決め手に関しては既に考えがあった。

 あとは確実に決めるまでの手順のみ。


「……アリス、マリーとオリーブを回復してやってくれ」

「レイはどうするの?」

「考えがある。フレイア!」

「なに? 勝てる作戦?」

「その通りだ。これしかない」

「じゃあ乗るわ。どうすればいいの?」


 フレイアはファルコンセイバーを構えて、警戒を解かない。

 それはレイも同様であった。コンパスブラスターを棒術形態ロッドモードに変形させながら、フレイアに策を伝える。


「俺が時間を稼ぐ。その間に、ロキとゴーレムの獣魂栞ソウルマークをファルコンセイバーに挿れろ」

「王の指輪を使った同時チャージ? でもあれは」

「ぶっつけ本番。無理か?」

「冗談? やってやるわよ」

「よし。じゃあ作戦開始だ」


 レイはコンパスブラスターを構えて、ウァレフォルに立ち向かっていく。

 最初の獲物が来たと言わんばかりに、ウァレフォルも獅子の爪を振るってくる。


「まずは、テメーかァァァ!」

「甘く見るなよ!」


 ウァレフォルと絶妙に距離を取り、レイは棒術形態のコンパスブラスターで翻弄していく。

 その間にフレイアはアリスとオリーブから獣魂栞を借り受けた。


「オリーブ、アリス! 獣魂栞を貸して!」

「はい! ゴーちゃん、お願いね」

『ンゴォォォ!』

「うん。ロキ、頑張って」

『キュイー!』


 手にした二枚の獣魂栞を、フレイアはファルコンセイバーのスロットに挿し込む。


「ブラックインク!」


 黒色の獣魂栞。ゴーレムの力がファルコンセイバーに充填される。


「ミントインク!」


 ミントグリーンの獣魂栞。ロキの力がファルコンセイバーに充填される。

 そして最後に……


「レッドインク!」


 中央スロットに、フレイアは赤色の獣魂栞を挿し込んだ。

 イフリートの炎の力がファルコンセイバーに充填される。

 フレイアは赤色の獣魂栞を回し、最後の行程を実行した。


「トリオ! インクチャージ!」


 フレイアの中にある王の指輪が呼応する。

 魂を繋げる力で、三色のソウルインクが混ざり合わさっていく。

 黒色、ミントグリーン、赤色。

 三つの色の魔力が炎の刃と化して、ファルコンセイバーの刀身を覆い尽くしていった。


「ぐっ……!」


 凄まじい力が、フレイアの中に逆流しそうになる。

 しかしフレイアは耐える。

 この必殺技の絶大な力を感じ取ったからだ。

 この必殺技なら、必ずウァレフォルを倒せる。


「レイー! ソイツを縛って!」

「了解だァ!」


 時間稼ぎをしていたレイは、フレイアの指示を聞き入れて、コンパスブラスターからマジックワイヤーを伸ばした。

 そして銀色の獣魂栞をコンパスブラスターに挿入する。


「インクチャージ! いくぞスレイプニル!」

『了解した!』


 魔力が充填され、マジックワイヤーが強化される。

 あとは縛りつけるのみ。


「天地縫合バインドパーティー!」


 複雑な軌道を描き、マジックワイヤーがウァレフォルの身体を強固に縛り付ける。

 ウァレフォルは抵抗するが、落ちたパワーでは拘束から逃れる事はできなかった。


「クッ! このッ! 鬱陶しいッ!」


 必死に身体を捻るが、ウァレフォルは解放されない。

 そしてこれだけの隙ができれば、もはや巨大な的同然でもあった。


「フレイア、今だ!」

「言われなくてもォ!」


 フレイアは三色の炎を纏ったファルコンセイバーを構え、一気に駆け出す。

 足し算ではなく乗算。

 曇りなき魂の怒り。

 ある種の神聖さすら感じる業火の刃が、ウァレフォルに襲いかかった。


「必殺! トリニティ・プロミネンス!」


――業斬ァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!――


 圧倒的なパワー。全てを焼却する炎の一閃。

 三色の魔力を使った必殺技は、ウァレフォル身体を斬り裂いた。

 

「グ……ア……」


 ウァレフォルの中で大量の魔力が暴走していく。

 それを察して、レイとフレイアは瞬時に距離を取った。


 瞬間、凄まじい轟音立ててウァレフォルの身体は爆発した。

 爆風が街に広がる。

 しかしそれも数秒。爆風が止む同時に、レイ達の中には喜びの感情が芽生えた。


「終わったんだよな?」

「うん、終わった筈……というかレイ! 今の必殺技スゴくなかった!?」

「はいはいスゴかったから。近づくな熱苦しい」


 自分の新必殺技が想像以上の凄まじさだったフレイア。

 思わずレイに絡んでしまう。

 そんな二人のやりとりを、マリーは優しく見守っていた。


「終わったのですね」

「うん。やっぱりフレイアちゃん達はすごいなぁ」

「でも今日はマリーとオリーブも大活躍」

「ふふ。そう言って頂けるのでしたら幸いですわ」


 笑みをこぼすマリー。

 オリーブも釣られて仮面下で笑顔になった。

 これで終わったのだ。後は盗賊の残党を捕まえれば事件解決の筈だ。

 だが……レイスレイプニルは、警戒を解く事ができなかった。

 レイの脳裏に浮かぶのは、ブライトン公国で戦ったガミジンの姿。

 あの悪魔が最後にした事といえば……


「グ……うぅ……」


 ガサガサ音を立てて、何かが立ち上がる。

 レイ達は慌ててその方向に向いた。

 そこにいたのは……完全に虫の息になりつつも、執念で立ち上がっているウァレフォルの姿であった。


「ちょっと、まだ立てるの!?」

「でも、もうボロボロ。戦えるとは思えない」


 驚くフレイアに対して冷静なアリス。

 それもその筈。今のウァレフォルは翼も尻尾も無くなり、全身から骨が飛び出ている有様だ。

 とても戦える状態とは言い難い。

 しかしウァレフォルには、戦闘継続する意志があった。


「大した……ガキどもだ……俺様をここまで追い詰めたのは、テメーらが、初めてだ……尊敬してやる」


 ボロボロになりながら、ウァレフォルは何処からか一個の小樽を取り出した。

 小樽からはどす黒い禍々しさが漏れ出ている。


「まさか……俺様が、これを使うなんてなァ」


 レイはその小樽を見た瞬間、戦慄した。

 忘れる筈もない。あれは恐らくブライトン公国でガミジンが使ったものと同じ。


「まさか、魔僕呪の原液か!?」

「そうだ……命を削っちまうが、テメーらを殺せるなら構わねェ」


 ウァレフォルは小樽の線を抜き、その中身を呷った。

 瞬間、ウァレフォルの身体が見る見る肥大化していく。

 皮膚を突き破り新たな肉と骨が形成される。

 破壊と再生が凄まじいスピードで繰り返されていき、ウァレフォルの身体を巨大な凶獣へと変質させていった。


「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


 魔僕呪原液。

 ゲーティアの悪魔が服用すれば、巨大な凶獣体へと変化できる。

 だがそれは自らの命をも縮める、まさに最後の手段でもあるのだ。

 数秒もかからず、ウァレフォルの傷完全に治り、巨大な凶獣体へと変化してしまった。


「テメーらも、この街も! まとめて全部喰らってやる!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る