Page94:ハグレ操獣者

 森の奥から飛び出てくるのは、狼、熊、飛竜といった魔獣の数々。

 それを従えているのは、当然盗賊たちだ。


「テメェら、よくも仲間を!」

「ただで済むと思うなよ!」

「わーお。典型的な小悪党のセリフだな」


 レイが僅かばかり関心していると、盗賊たちはボロボロのグリモリーダーを取り出した。


「「「クロス・モーフィング!」」」


 盗賊たちは見た目地味な魔装に身を包む。

 操獣者そうじゅうしゃへと変身したわけだが、あまり強そうには見えなかった。


「なんか、見た目シンプルすぎない?」


 フレイアも思わず疑問を口にしてしまう。

 だがレイにはおおよその見当はついていた。


「多分どっかで奪ってきたグリモリーダーをそのまま流用してるんだろ。基本的にグリモリーダーは所有者の専用器になるよう設定されているからな」

「あっそっか。本来の所有者じゃないから、基本装備しか出ないんだ」

「そうだ。だから地味なんだよアイツら」


 何度も地味と言われて黙っている盗賊ではない。

 盗賊たちは各々の魔武具まぶんぐを取り出し、レイ達に襲い掛かった。


「舐めてんじゃねーぞ! ガキがぁぁぁ!」

「遅い」


 剣型魔武具を振り下ろしてくる盗賊。

 だが今のレイからすれば、脅威ではない。

 軽々と剣を躱し、レイはコンパスブラスター(剣撃形態ソードモード)の峰を叩き込んだ。


「グフッ。て、てめぇ」

「変身するなら魔本の整備くらいちゃんとしとけ。もう魔装が破けてるじゃねーか」

「うるせぇぇぇ!」

「インクチャージ」


 激高する盗賊を無視して、レイはコンパスブラスターのグリップに獣魂栞ソウルマークを挿入する。

 そのまま逆手持ちに変え、コンパスブラスターの峰を叩き込んだ。


銀牙一閃ぎんがいっせん


 やる気のない声で、最小威力の必殺技。

 しかしその性質故、盗賊の体内には破壊エネルギーが侵入。

 次々に内側で炸裂していった。

 喰らった盗賊は、短い声をあげて、その場に倒れこんだ。

 当然変身も強制解除である。


「な、なんだコイツら」

「変身してるのに、一瞬で!?」


 仲間が一瞬で倒された異に驚いたのか、盗賊たちの間に動揺が走る。

 できればこのまま自首して欲しいと思うレイだったが、そう上手くもいかない。


「お、おめぇら! 数で押し切れ!」


 やはり先ほどの盗賊たち同様、退くという選択肢は捨てているようであった。

 残っている盗賊は約十人。いずれもハグレ操獣者である。

 盗賊たちはいっせいに襲い掛かってきた。

 

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

「数が多いわね。アリス」

「うん。まかされた」


 フレイアに言われて、一番前に出るアリス。

 その右手には、ミントグリーンの魔力が溜まっていた。


「まずはそのチビから相手かァ!?」

「コンフュージョン・カーテン」


 舐めてかかる盗賊たちに、アリスは淡々と右手に溜めた魔力を散布する。

 強力な幻覚魔法が込められた霧。それをまともに受けた盗賊たちは身動きが取れなくなった。


「な、なんだこれ!?」

「身体が、動かねえ」


 混乱する盗賊たちを放置して、アリスはフレイアに話しかける。


「じゃあフレイア。後はおねがい」

「オッケー! ブレイズ・ファング!」


 フレイアは右手の籠手に炎を溜めて、盗賊たちを次々に殴り飛ばしていった。

 当然身動きが取れない盗賊たち。

 回避する事もできず、全員大きな的となって吹き飛ばされていった。

 変身が強制解除され、気絶する盗賊たち。

 レイは逃げられないように、全員をマジックワイヤーで縛っておいた。


「さて、洞窟方面に行くか」

「そうね」

「うん」


 レイ達は盗賊たちが来た方向。洞窟方面へと駆け出した。

 当然その道中にもハグレ操獣者たちが襲い掛かってくる。


「銀牙一閃!」

「エンチャントナイトメア」

「ブレイズ・ファング!」


 ハグレ操獣者を軽々と倒していくレイ達。

 そうこうしている内に森を抜け、洞窟の入り口前まで到達した。

 

「ここが賊のアジトってやつか?」


 軽く見渡しただけでもよろしくない物が見える。

 どこからか略奪したであろう宝石や金に鉄。

 そして縄で縛られ身動きが取れない女と子供。


「うわぁ。今時人攫いとか趣味悪~」

「同意だな。悪趣味すぎる」


 フレイアとレイが仮面の下で顔をしかめていると、門番をしていた盗賊がこちらに気が付いた。


「ちっ、ここまで来やがったか!」

「馬鹿にしやがって」

「悪いけど、アンタたちも戦闘不能になってもらうから」


 ファルコンセイバーを構えながら、フレイアが言う。

 だが門番の盗賊は落ち着いたものだ。


「馬鹿言え! やられるのはそっちだ!」

「俺たちはお頭から褒美を貰っている」


 そう言うと門番の盗賊二人は、一つの小瓶を取り出した。

 小瓶の中にはどす黒い粘液が見える。


「アイツら、まさか!?」


 レイが驚愕する。

 だが門番の盗賊たちは止まらない。

 小瓶の蓋を開けて、その中身を飲んだ。

 見る見る二人の盗賊は目つきが変わってくる。


「レイ、あれって」

「間違いなく魔僕呪だ。最悪、敵味方関係なく攻撃してくるぞ」

「それは最悪ね。アリス! 捕まってる人たちを守って!」

「りょーかい」

「レイはアタシと一緒に、あのバカ二人を倒すよ!」

「了解だ、リーダー!」


 レイも腹に気合を入れる。

 門番の盗賊二人はグリモリーダーを取り出し、変身した。


「「クロス・モーフィング!」」


 二体の蛇型魔獣の力で変身した盗賊たち。

 先ほどまでのハグレ操獣者とは明らかに違う。

 魔装がきちんとしたものだ。


「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」


 興奮した様相で、二人のハグレ操獣者が攻撃を仕掛けてきた。

 一人は腕から生やした刃でレイに襲い掛かってくる。

 レイはそれを寸前で躱しながら、コンパスブラスターを操作した。


形態変化モードチェンジ銃撃形態ガンモード!」


 銃撃形態にしたコンパスブラスターに、レイは魔力を込める。


――弾ッ弾ッ弾ッ!――


 三発の魔力弾がハグレ操獣者の身体に命中する。

 しかし魔装に少し傷をつけた程度で、大打撃には至っていない。


「無駄ァ!」

「危ねっ!?」


 ハグレ操獣者の腕から生えた刃。そこから紫色の液体が飛び散った。

 地面に落ちた液体が、煙を上げて土を溶かす。

 強酸性の毒だ。


『レイ、敵の攻撃に当たるなよ』

「言われなくてもそうする!」


 ではどうするべきか。

 近接戦では毒刃の餌食だ。

 中距離でも、毒液を飛ばされてしまう。

 迂闊に距離を取りすぎて、捕まって人たちを狙われるわけにもいかない。


「(だったら、こうだ!)」


 レイは銃撃形態のコンパスブラスターでハグレ操獣者の足元を狙撃した。

 何度も何度も撃ち続ける。

 そうすれば砂埃が舞い散って、ハグレ操獣者の視界を一時的に奪うことに成功した。


「野郎ッ! 逃げる気か!?」


 砂埃がが消える。ハグレ操獣者の眼前にレイの姿はない。

 逃げたのか。だが無駄な事だ。

 ハグレ操獣者は蛇型魔獣特有の熱探知で居場所を探した。


「ん? 上?」


 ハグレ操獣者が真上を向く。

 そこには、脚力強化で高く跳躍しているレイの姿があった。

 コンパスブラスターには、獣魂栞を挿入済みだ。


「出力上昇、流星銀弾りゅうせいぎんだん!」


 狙いを瞬時に定めて、高出力の魔力弾を撃つ。

 ハグレ操獣者は咄嗟に防御態勢を取ろうとしたが、無駄であった。

 体の前に出した両腕の刃に魔力弾は着弾。大爆発を起こして、刃を粉々に砕いた。

 その衝撃で尻から落ちるハグレ操獣者。

 同時に着地したレイは、コンパスブラスターを剣撃形態にする。

 そのまま駆け寄り、怯んでいるハグレ操獣者のグリモリーダーを破壊した。


「あ、あぁ……」


 変身を強制解除され、おびえる盗賊。

 レイはコンパスブラスターの切っ先を突きつけ「まだやるか?」と聞く。

 すると盗賊は強い恐怖を感じたのか、その場で失禁し気を失ってしまった。


「そんなに怖がるなよ。まぁ縛るの楽だからいいけど」


 レイはマジックワイヤーで盗賊を手早く縛り上げる。

 さて、フレイアの方はというと。


「ブレイズ・ファング!」

「グアぁぁぁぁぁぁ!」


 右手の籠手に大量の炎を溜めて、ハグレ操獣者を殴り飛ばしていた。

 そのハグレ操獣者の腕にはやはり毒刃が見える。が、すでに壊れた後だ。

 おそらくフレイアが力任せに壊したのだろう。


「フレイア、大丈夫か?」

「ん? 楽勝だったけど」

「そうじゃなくて毒とかだよ」

「えっ、アイツ毒持ってたの!?」


 どうやら気づいてすらいなかったらしい。

 これなら大丈夫だろうと、レイは安堵した。


 さて、これで入口前は静かになった。

 レイとフレイアは捕らえられていた人々の元に行く。


「アリス。捕まってた人たちは?」

「大丈夫。レイは?」

「俺は大丈夫だし、フレイアもだ」


 アリスがナイフで女性や子供を縛っていた縄を切る。

 これで全員解放された。


「あの、ありがとうございます」

「いいのいいの。放っておけなかっただけだから」

「現在地はわかりますか?」


 レイの問いに首を横に振る女性と子供たち。

 恐らく遠い地から連れ去られたのだろう。


「ここに放置するのも危険だな。アリス、この人たちをサン=テグジュペリの街に連れて行ってくれないか」

「うん。レイとフレイアはどうするの?」

「アタシたちは当然」

「洞窟の中へカチコミだ」

「わかった。危なかったら逃げてね」


 アリスはその場で融合召喚術を発動。

 鎧装獣カーバンクルとなって、捕らわれていた人たちを背に乗せ、街へと連れて行った。

 それを見送るレイとフレイア。

 戦力は減ったが、まだ洞窟の中にも捕らわれた人たちが居るかもしれない。


「さて、アタシたちも行こっか」

「そうだな」


 レイとフレイアは魔武具を握る力を強め、洞窟の中へと入っていった。

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