Page40:君は、幽霊を見たか!?①

「そーらよッ!」


 大鎌を携え浮遊している幽霊相手に、レイは剣撃形態ソードモードのコンパスブラスターを振るう。

 武闘王波で強化された一撃だ、まともに食らえばただでは済まない攻撃。

 だが振り描いた一閃は、幽霊の身体をすり抜けてしまった。


「なッ!?」

「「――――――!」」


 攻撃がすり抜けた事実に衝撃を隠せないレイ。

 幽霊達は何事も無かったと言った様子で、レイに向けて大鎌を勢いよく振り下ろした。


 レイはそれをギリギリで躱し、続けざまにコンパスブラスターの刃を幽霊達に叩きつける。

 横一文字、縦一文字。

 様々な挙動でレイは斬りつけるが、その悉くが幽霊達に通用しなかった。


「オイオイ、幽霊らしく物理攻撃は無効ですってか? 冗談じゃねーぞ!」

『無駄口を叩いている暇はないぞ』

「わーってるよッ!」


 レイを取り囲み攻撃の手を止めない幽霊達。

 物理攻撃が効かない以上、剣撃形態ではどうにもならない。

 ならば……


形態変化モードチェンジ、コンパスブラスター銃撃形態ガンモード!」


 銃撃形態に変形させたコンパスブラスターに魔力と術式を込める。

 同時に、武闘王波によって強化された感覚神経が背後から襲いかかる幽霊の挙動をレイに知らせる。

 瞬時に振り向き流れるような動作で、レイは幽霊に向けて引き金を引いた。


――弾ッッッ!――


「!?」


 幽霊の腹部に命中する魔力弾。

 着弾と同時に、幽霊が断末魔を上げる事もなく爆散し消滅した。


「なる程、魔力攻撃は有効なんだな」

『では話も早いな』


 レイはグリモリーダーから獣魂栞を抜き取ってコンパスブラスターに挿入する。

 魔法術式の構築を超高速で頭の中で済ませると同時に、コンパスブラスターの中で大量の魔力弾を形成していく。


「全部まとめて爆散しやがれ!」


 動体視力強化、反射神経強化。

 幽霊の大鎌が到達するより早く、レイは弾込めを終えたコンパスブラスターを構える。


――弾弾弾弾弾弾弾弾ッッッ!!!――


 身体を回し、円を描くように魔力弾を連射する。

 高速で放たれた魔力弾は、レイを取り囲んでいた幽霊達の身体へ次々に着弾していった。


 悲鳴を上げる間もなく爆発霧散していく幽霊達。

 だがその後ろから、難を逃れた幽霊が隙を作る事なく責めてくる。


「攻略法が分かれば!」

『どうという事はない』


 一体、また一体と銃撃していくレイ。

 攻略法が判明したおかげか、少し心と頭に余裕ができたレイは幽霊が爆散した箇所から漂ってくるその臭いに気がついた。


「(この臭い……もしかしなくても)スレイプニル、この臭いって!」

『うむ、昼間のアンピプテラから漂っていた臭いと同じものだ』

「やっぱりインクか。幽霊なんて言ってるけどコイツら身体が霧状のインクで出来てる何かじゃねーか」

『それも唯の魔力ではない。随分と混じり物の多い奇怪で不純なソウルインクだ』

「ソウルインクなのに純度低いとかそれだけで軽く矛盾してるだろ!」

『事実を述べたまでだ』


 スレイプニルと言葉を交わしながらも、レイは幽霊に魔力弾を撃ち続ける。

 撃ち抜かれて、霧散して消えていく幽霊達。

 その消えた跡から、何やら小さな光が空へと消えていく瞬間をスレイプニルは見逃さなかった。


『(あの光は……もしや)』

「クッソ、コイツら後何体いんだよ! ボーツ並のしつこさだぞ!」


 討っても撃っても出てくる幽霊に、レイは少し余裕をなくしていた。

 後から後からレイを狙ってくる幽霊達。

 最小の消耗で魔力弾を作り反撃をするレイ。

 スレイプニルの武闘王波で魔力総量も強化されているとは言え、このままでは状況が改善する見込みもない。


 するとその時、街中の方からカランカランと鐘の音が鳴り響いてきた。

 教会に備えられた巨大な鐘の音ではなく、人が手に持って鳴らすカウベルのような音だ。


「誰だよこんな状況で呑気に楽器鳴らしてんのは!」

『待てレイ、何か様子がおかしい』


 スレイプニルに指摘されて周りを見渡すレイ。

 鐘の音が聞こえたと同時に、幽霊達が攻撃の手を止めて街の方角を眺め始めていた。

 いや、それも奇怪だが自分以外に人間の気配を感じないこの状況で聞こえてくる鐘の音にも疑問が生まれる。


 カランカランともう一度鐘の音が鳴り響くと、幽霊達はそれに従うように街の中へと一斉に移動し始めた。


「マズい、アイツら街の中に入る気だ」

『追うぞレイ』

「言われなくても!」


 空を浮遊しながら、鐘の音が鳴った街中へと進む幽霊。

 レイは走りながらそれを追いかける。


「クッソ、幽霊のくせして足速えーんだよ!」

『レイ、幽霊に足は無いぞ』

「比喩表現だ比喩表現!」


 思いの他移動速度が速い幽霊に不満をぶちまけるレイと、淡々とそれに突っ込むスレイプニル。

 気が付けば街道を走り始めていたレイ。

 上を飛ぶ幽霊から目を離さないようにしていると、自然と空の様子が写り込んできた。


「なぁスレイプニル……なんか幽霊の数多くね?」

『我々が来た浜辺以外からも来ているようだな』


 追いかけている幽霊とは別に海のある方角からやって来て、バミューダの空を散り散りに飛ぶ幽霊達の姿。

 どうやらレイが応戦した場所以外からも出現して、街に侵入したようだ。


「知らなかったなぁ、幽霊って海に巣作りするんだ~」

『そんな訳なかろう。だが、それに類する何かは有るであろうな』

「どの道この量じゃあ俺一人で対処しきれねー!」


 街の中に進む程に粘り気すら感じる霧が出てくるが、今は気にせず走り抜ける。

 レイは幽霊を追う足を止めることなく、グリモリーダーの十字架を操作する。


「アリス! 聞こえるか!」


 宿にいるであろうアリス達に通信を繋げるレイ。

 返事は一秒も待たずにきた。静かながら若干の怒気を含んではいたが。


『レイ、今どこにいるの?』

「お説教は後にしてくれ、緊急事態だ!」

『緊急事態ならこちらもですわ!』


 グリモリーダーの向こう側からマリーの叫び声が聞こえる。


「何かあったのか?」

『鐘の音が聞こえたと思ったら、宿の人達がみんな急に倒れちゃったんです!』

『宿の中だけではありませんわ。外にも倒れている人が何人も見えます』


 慌て声で状況を伝えるオリーブ。

 そう言われてレイは改めて街道の中に目線を向けてみると、確かに何人かの人が不自然に行き倒れている。


「なぁスレイプニル、あれ全員生きてるよね?」

『生命の気配は感じる。大丈夫だ生きている』


 スレイプニルの言葉に一先ず胸をなでおろすレイ。

 だが安心してはいられない。


「けどこの様子じゃ、街中こんな感じなんじゃねーの?」

『多分正解。霧の中に幻覚魔法が混じってる』

「分かるのかアリス」

『一つは催眠、もう一つは微弱だけど記憶消去』

「記憶消去って……お前ら大丈夫なのか?」

『お恥ずかしながら、アリスさんに解除魔法をかけて頂かなければ、わたくし達も危なかったですわ』

『少しぐっすりしてました』

「それフツーにピンチじゃねーか」


 アリスはロキと契約していたおかげで無事だったのだろう。

 同じ系統の魔法を使うロキは幻覚等への耐性がある。それが契約者のアリスにも影響したのだろう。


『簡単な術式だったから解除も簡単。ついでに抗体もかけといた』

「そりゃナイスプレーだな」

『レイの方は?』

「さっきも言ったけど緊急事態。本当に幽霊出やがった!」


 グリモリーダーの向こうから驚き声が聞こえてくる。

 どうやら三人とも変身はしていないようだ(アリスは解除と抗体の魔法をかけた後に一旦解除したと思われる)。


『……本当にでたの?』

「変身して見ればお空が地獄絵図だよ!」


 上を見上げれば変わらず飛翔している幽霊の大群。

 そのまま視線を下に降ろしてみる。レイの視界に映ったのは異形の幽霊が街を徘徊する恐怖の図。

 空を飛ぶ幽霊とは別に地上をフワフワと移動する幽霊もいるようだ。


「悪い、地上も大概だった」

『幽霊だらけ?』

「その通り。しかも性格は攻撃的ときた」

『それは、友好的解決とはいかなさそうですわね』


 レイはコンパスブラスターの銃口を目の前の幽霊に構え、引き金を引く。

 着弾した幽霊は爆散したが、銃声に気が付いた幽霊がレイに狙いを定め始めた。


「とりあえず俺は宿の方に向かう。その間アリス達は倒れた人の介抱をしてくれ」

『りょーかい。マリー、オリーブ手伝って』

『はい!』

『わたくしに出来ることでしたら』

「頼む。俺もすぐにそっちに行く」


 アリス達が各々行動に出始めたのか、通信が切れた。

 だがこれで目の前の敵に集中できると、レイは冷静に魔力弾を生成していく。


――弾弾弾ッ!――


 走りながら、すれ違いざまに幽霊を銃撃していくレイ。

 次々に撃ち抜かれた幽霊が爆発霧散していくなか、レイはアリス達がいる宿屋に向かって進み続ける。


「どんだけいんだよ! 全員まとめて墓に帰れ!」


 思いの他数の多い地上の幽霊を撃破しながらか駆け抜ける。

 するとまた何処かからカランカランと鐘の音が街に鳴り響いた。


 先程と同じように鐘の音に合わせて動きを変化させる幽霊達。

 レイに攻撃を仕掛ける幽霊の数は減ったが、何体かの幽霊が逃げたとも言える。

 レイは一先ず目の前の幽霊を撃ち抜いて、更に街の奥へと駆け出す。


「またこの音か」

『敵が音に合わせて動きを変えている以上、何かしらの関係が有るのは間違いないな』

「じゃあ後でソレも見つけ出す!」


 街道を徘徊する幽霊に足止めを喰らいながらも、魔力弾で撃破していくレイ。

 すれ違っていくのは徘徊する幽霊と昏睡している人々と魔獣ばかり。

 どうやら幽霊以外は軒並み気絶させられているようだ。


 いや、例外もある。

 魔装を身に纏っているレイや抗体を得ているアリス達。

 そしてレイの視界に入ってくる千鳥足の老人だ。


「ウィ〜……ヒック……」


 ヨロヨロとおぼつかない足取りで歩いてくる老人。

 どう見ても幽霊が徘徊している現状を認知できているとは言い難い様子だ。


『生身の人間でも影響を受けない場合がある、か』

「そう言う話は後だ! おい爺さん、そこは危ねーぞ!」


 レイが老人に叫ぶのも無理は無かった。

 変身しているレイの視界には、今にも老人に狙いを定めようと近づく幽霊の姿がはっきりと映っていた。


「どいつもコイツも……ジジイの話と、聞き流しおって……」

「爺さんも俺の声を聞き流すなー! 左に避けろー!」


 既に老人の背後では、幽霊が大鎌を振り下ろす手前まで来ていた。


「あぁもう!」


――弾ッ!――


 瞬時に念動操作の術式を組み込んだ魔力弾を生成して、レイはコンパスブラスターからそれを放つ。

 レイのイメージによって操作された魔力弾は、曲線を描いて老人を回避し、背後の幽霊を貫いた。


 霧散する幽霊。

 レイの銃撃によって、何体かの幽霊は標的をレイに定めた。


「なんじゃ〜、敵艦からの砲撃かぁ〜?」

「味方からの援護射撃だクソ酔っ払い!」


 このままではラチが開かない。そう考えたレイは老人を引きずってでも避難させる為に近づこうとするが、幽霊が大鎌を振り回してその行手を阻む。


「邪魔なんだよ!」


 目の前の幽霊達の攻撃を回避しつつ、レイはコンパスブラスターで正確に銃撃していく。

 一体、二体、三体……次々に仕掛けてくる幽霊を撃破していくが、倒せば倒しただけ幽霊はレイの周りに集まってくる。


『レイ、後ろだ』

「どらぁッ!」


 スレイプニルのサポートによって自身は無傷だが、レイはその場から録に進むことが出来なくなっていた。

 酔っ払いの老人は幽霊が見えていないからか、レイの様子を不思議そうに見ている。


 その時であった。

 老人の背後で、一体の幽霊が大鎌を振り上げ始めていた。


「爺さん! 逃げろ!」


 必死に叫ぶレイ。

 だがその叫び虚しく、幽霊の大鎌は勢いよく振り下ろされて、老人の身体を斬り裂いた。


 一連の光景がスローモーションでレイの脳に入り込んでくる。

 一通りの理解が進んだ瞬間、レイは幽霊に向かって高出力の魔力弾を炸裂させて強引に突破口を開いた。周辺の道路が砕けるが気にしている余裕は無かった。


 石畳に倒れ込む老人にレイは駆け寄る。

 大鎌で斬られたように見えたが、奇妙なことに老人の身体からは血の一滴も垂れていなかった。


「おい爺さん、生きてるか!? おい!」


 レイが老人に声をかけるが、返事どころか呼吸も心音も聞こえてこない。


『ダメだレイ、この肉体は既に空だ。もう死んでいる』

「……」


 スレイプニルの断言によって、老人の死を理解してしまったレイ。

 老人の身体をそっと石畳の上に寝かせると、レイは無言で立ち上がって頭上を飛ぶ幽霊を睨みつけた。


 大鎌の先に青白い光球をくっ付けて、ケタケタと笑う幽霊。

 その小さな光球を見たスレイプニルはある一つの確信を得た。


『(やはりあの光は……間違いない)』


 スレイプニルがある種の焦りを覚えている一方で、レイの頭の中は驚くほどにスッキリとしていた。

 身体の中で血の流れが急加速するのを感じるが、レイは落ち着いて必要な術式を組み上げる。


 愉快そうに空中をくるくる回る幽霊に無言でコンパスブラスターの銃口を向け、そして……


――弾ッッッ!――


 放たれた魔力弾は空中で戯れる幽霊の腕を貫通し、引き裂いた。


「安心して成仏できると思うなよ」


 腕が消失した事で動揺したのか、幽霊は空中でグネグネともがき苦しむ。

 静謐に冷徹に、レイの頭に怒りが込みあがってくる。

 レイが追撃の引き金を引こうとした瞬間、スレイプニルがそれを静止した。


『待てレイ、威力を弱めろ』

「珍しいな、嬲り殺し肯定か?」

『違う。あの幽霊が持つ鎌の先を見ろ』


 言われてレイはもがく幽霊の鎌を注視する。


「なんか光ってるのついてるな」

『魂だ』

「はぁ!? 魂って霊体の一部だぞ、目視なんて――』

『恐らくはあの幽霊の影響だろうな。そもそも通常の肉眼で視認できなかった者達だ、霊体に干渉する何らかの術を持っていると見て正解であろう』

「マジかよ……」

『気をつけろレイ。もしもあの魂を傷つければ、取り返しがつかなくなるぞ』


 暗に死ぬぞと告げられて、レイは緊張で気が引き締まる。

 コンパスブラスターの銃口は幽霊に向けられたまま。今までに爆散した幽霊の状況と使用してきた魔力弾から、レイは適切な出力を瞬時に算出した。


「(出力調節……念動操作……軌道変化……)」


 必要な術式を組み込んで、細心の注意を払いながら魔力弾を生成する。

 一歩間違えれば後は無い。

 胃に重さを感じながらも、レイはコンパスブラスターの引き金を引いた。


――弾! 弾!――


 一発目の魔力弾が幽霊が手に持っていた大鎌の柄を粉砕する。

 魂が引っ付いた鎌部分が落下し始めた次の瞬間、二発目の魔力弾が幽霊の身体に着弾、爆発。

 小規模な魔力の爆破だったが、幽霊の身体に致命傷を与えるには十分な威力であった。

 もちろん、先の攻撃で逃がしてあった魂に影響は無い。


「よっしゃあ! っと、魂の方は?」


 落下しつつ消えゆく鎌から、青白く光る魂が解放されていく光景が見える。

 フワフワと波線の様な挙動を描きながら、魂はゆっくりと老人の身体に入り込んでいった。


 数秒の後、倒れている老人から呼吸と心音が聞こえてきた。


「もう、大丈夫だよな?」

『大丈夫だ。正しく生命の反応を感じる』


 とりあえずは一安心するレイ。

 だが一息つく余裕は与えられなかった。


 風を切り裂く音と共に襲い掛かる幽霊の大鎌。

 レイ達を狙う幽霊はまだ他にもいるのだ。


「あぁもう、少しくらい余韻に浸らせろよな」


 レイは足元で気絶している老人を左手で抱きかかえて、幽霊達から逃げ始める。

 幽霊が再びこの老人を狙う可能性は十分に考えられる。ならば一先ずは彼を安全な場所まで逃がさなくてはならない。

 レイは追ってくる幽霊をコンパスブラスターで撃ち落としながら街道を駆け抜けた。


『どうする気だ、レイ』

「とりあえずアリス達がいる宿屋まで行く。俺一人じゃ全部対処しきれねぇ!」

『賢明な判断だ』

「そりゃどーも」


 老人一人を抱えながらの状態では満足に戦闘は出来ない。

 幽霊に向かって魔力弾を撃つが、足止め以上の成果は上げられない。


 催眠魔法が含まれた霧も少し強くなってきた。

 後ろから追ってくる幽霊だけではなく、眼の前で道を塞ごうとする幽霊も撃ち抜いていくレイ。


 そんな中、レイはある事に気が付いた。

 空を徘徊していた何体かの幽霊が民家の窓に近づいて行くのだが、その悉くが寸でのところで踵を返していくのだ。


「(変だな、壁の一つくらいならすり抜け出来そうなのに) ――っと!」


 再び幽霊に囲まれたので魔力弾を連射して撃破するレイ。

 周囲を警戒しつつ、民家の様子に目を向けるレイ。

 やはり幽霊は例外なく、建物に近いた瞬間踵を返した。


 そしてレイは、先程聞いたメアリーの言葉を思い出した。


「お外にいたら捕まる……なる程な、詳しい条件は分からないけど屋内は安全っぽいな」

『その様だな』

「つまり宿屋に行く前にこの爺さんを適当な建物に放り込んでも良いわけだ」

『そうだな。ただしそれは、この幽霊軍団の隙を突くことができればの話だがな』


 周りを見渡せば、おびただしい数の幽霊がレイ達を取り囲んでいた。

 屋内が安全(?)とは言え、扉を開けて閉めるまでの間も安全とは限らない。

 老人を途中で逃がそうが逃がすまいが、どの道この幽霊軍団を突破しなくてはならなくなった。それも抱えている老人を守りながらだ。


「これは……ちょっとどころでなく、マズいかもな」


 それなりに無茶な事をしなくてはならないかもしれない。

 レイが覚悟を決めようとした次の瞬間――


――弾ッ! 弾ッ!――


 二発の銃声が街道に鳴り響くと同時に、近くにいた二体の幽霊が爆発霧散していった。


『この銃撃は……』


 レイは銃声が聞こえた方向に目を向ける。

 そこに居たのは赤と黒、二挺の銃型魔武具を構えた白髪の少女。

 そしてその横には二人の小柄な少女の姿があった。


「なかなか来て下さらないから、お迎えにあがりましたわ。レイさん」

「マリー!」


 両手に持った銃を優雅にホルダーへと仕舞うマリー。

 レイは彼女たちの突然の登場に驚くばかりであった。


「お前幽霊見えてんのか!?」

「残念ながらノーですわ。見えているのはわたくしではなくてローレライの方です」


 そう言ってマリーは一枚の白い獣魂栞を取り出す。

 どうやら獣魂栞越しに幽霊を視認したローレライに位置を教えてもらったようだ。


「レイ君が遅いから、また何処かで人助けをしてるのかと思ってたんですけど、やっぱりでしたね」

「良くも悪くもレイらしい」

「オリーブとアリスまで……宿の方はどうしたんだよ」

「大丈夫です。アリスさんが宿の人達全員に治療魔法をかけてきました」

「目を覚ますのも時間の問題。屋内は安全みたいだから、アリス達も外に出て来た」

「みんな……」


 アリスは安堵しているレイに近づいて、その腕にそっと手を添える。


「ここはアリス達に任せて、レイはそのお爺さんを宿に」

「フレイアちゃんと一緒に戦って色々ありました。今更幽霊くらい怖くありません!」

「少し不本意ですが、そういうことですわ」

「……わかった、俺もすぐに戻ってくる」


 レイはその場を三人に託して、一目散に宿屋へと向かって駆け出した。



「さて、じゃあアリス達は」

「幽霊退治ですね!」

「今は普通の夜道でも、変身すれば幽霊だらけになるんですね……そう考えると憂鬱ですわ」

「でも、倒さなきゃダメ」

「そう言うことです。それにマリーちゃん、私もついてるから大丈夫だよ!」

「……少し突破してかなりやる気が湧いてきましたわ」


 瞳に炎を宿して気を引き締めるマリー。

 フンスと鼻息を荒くしてやる気を漲らせるオリーブ。

 そして、変わらず眠そうなジト目をキープしているアリス。


 三人はそれぞれ、腰のホルダーからグリモリーダーを取り出し、もう片手に獣魂栞を握りしめた。


「アリスさんマリーちゃん、いきますよ!」

「はい!」

「りょーかい」


 オリーブの号令で、三人は一斉に獣魂栞に向けて呪文を唱える。


「Code:ブラック!」

「Code:ホワイト!」

「Code:ミント」


「「「解放!」」」


 黒、白、ミントグリーンの魔力インクが滲みだした獣魂栞を、三人はそれぞれ自分のグリモリーダーに挿入する。

 そして十字架を操作して、最後の呪文を叫んだ。


「「「クロス・モーフィング!」」」


 魔装変身。

 グリモリーダーから各自の契約魔獣が持つ色のインクが放たれる。

 インクは三人の身体を包み込み、黒、白、ミントグリーンの魔装へと姿を変えていった。


 変身を完了した三人は、魔力によって形成された仮面越しに夜の街道を目視する。


「わぁぁ、本当に幽霊さんだ~」

「これは少々、変身したのを後悔せざるを得ませんわ」

「……」


 変身時に発生する強力な魔力に反応したのか、幽霊達は一斉に三人に狙いを定める。

 アリス達は各々の獲物を手にして、すぐさま臨戦態勢へと入った。


「さぁ御二方、行きますわよ」

「がんばります!」

「お仕事、タイム」


 夜のバミューダシティで、三人の少女操獣者と幽霊軍団の戦闘が始まった。

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