Pege29:あ、無免許操獣者!
ギルド長に呼び出されたレイはすぐにギルド本部へと足を運んだ。
現在ギルド長の執務室に向かって廊下を歩いている最中。
レイから少し離れた後ろではフレイアがグリモリーダーで誰かと通信を取っていた。
「え、足止め喰らって帰れない!? バミューダシティで? …………うん、分かった。また何かあったら連絡して」
がっくり肩を落としながらグリモリーダーの通信を切るフレイア。
「何かあったのか?」
「幽霊船の影響が思いの他デカかった」
「さよですか……てか何でお前ら全員ついて来てんだよ」
レイが後ろを振り向くと、そこにはフレイアだけでなくチーム:レッドフレアのメンバーが勢揃いしていた。
「アタシはレイが心配だから」
「僕はフレイアからレイが心配だから来てって言われて」
「ボクはお父さんに様子見てきてくれって言われたっス」
「アリスはレイのお目付け役」
「子供の授業参観じゃねーんだぞ!」
過保護にも程がある。
そうこうしている内に、レイ達の目の前に大きく威厳のある扉が現れた。
扉には『ギルド長執務室』と書かれている。
「言っとくけど、あんまり気持ちの良いもんは見れないと思うぞ」
「大丈夫大丈夫、ただの様子見だから」
ヘラヘラ軽く笑うフレイアに少し呆れを覚えつつ、レイは執務室をノックした。
「失礼します」
扉を開けて執務室の中に入る。
部屋の中は華美な装飾などは見受けられない。来客用の椅子とテーブル、資料を収めた本棚の数々と一番目に付く場所に設置されている重厚な机。シンプルな部屋だが不思議とギルドの頂点に君臨する者の威厳を兼ね備えていた。
机の向こうには腰に優しそうな皮の椅子に座ったギルド長、そのそばには秘書のヴィオラの姿があった。
「おぉ来たかレイ……と、何故フレイア君達も?」
「俺が心配だって言って勝手について来たんですよ」
「えっとギルド長、もしかして僕達は席を外した方がいいですか?」
「いや構わんよ。どの道同じチームであるお主達の耳にも入る話じゃ」
ギルド長の言葉に疑問符を浮かべるフレイア達。
だがレイはこの後の展開が予測できたせいか、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「その様子じゃと、レイは大方予想がついとるようじゃな」
「えぇ、最高に胃が痛い話ですね」
「え、何々どんな話っスか?」
「長々前置きするより、単刀直入にいった方が分かりやすいじゃろう。ヴィオラ頼んだぞ」
「了解しました」
状況を今一理解できていないフレイア達をよそに、ヴィオラはツカツカとヒールの音を鳴らしながらレイの前に出て来た。
そして一枚の書類を手に取り、こう告げた。
「ギルド絶対法度第五条と第六条に基づき、ミスタ・クロウリーのグリモリーダーを没収処分とします」
シンと静まり返る執務室。まるで時間が停止したかのような静寂が数秒続いた後、ヴィオラが告げた内容を理解したフレイア達の驚愕は一気に噴火した。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」」」
「やっぱり」
フレイア達とは打って変わって、レイはこの展開が予想通りだったのか納得した様子を見せていた(アリスは終止無言無表情)。
「ではミスタ・クロウリー、グリモリーダーを提出して下さい」
「はいよ」
淡々と事務的にレイのグリモリーダーを没収するヴィオラと、素直に渡すレイ。
その様子を呆然と見ていたフレイアだったが、すぐに我に返って声を荒げた。
「ちょっとちょっと待って! 何でレイのグリモリーダーが没収されてんの!?」
「そっスよ! レイ君やっと操獣者になれたのに何でそんな事するんすか!」
「ギルド長! レイはキースを倒して街を守ったのよ! なのに何で!」
今にも掴みかからん勢いでギルド長に詰め寄るフレイア。
だがそれを制止したのは他ならないレイであった。
「フレイア、落ち着け」
「落ち着いてられないよ! 何でレイが処分されなきゃなんないのさ!」
暴れ出すフレイアを羽織い締めにして抑えるレイ。ライラも若干噴火しそうになっていたがギリギリの所で堪えていた。
その一方でジャックはブツブツと考え事をしていた。
「絶対法度の五条と六条って確か…………あっ!」
「ほほ、このままでは話が進まんのう。ヴィオラ処分の詳細な理由を説明を」
「了解しました」
一先ずフレイアが落ち着きを取り戻したのを確認し、ヴィオラはレイの処分理由について説明し始めた。
「確かにミス・ローリングが仰る通り、ミスタ・クロウリーはセイラムシティを守り、ギルドに大きく貢献しました」
「だからさっきから言ってんじゃん、レイがキースを倒して――」
「そのキース・ド・アナスンとの戦闘が問題なのです」
キースとの戦闘が問題とはどういう事か、フレイアとライラは理解しかねていた。だがレイとジャックは何が問題なのか分かってしまっていた。
「レイ、君は確か戦闘終了後にキース先生のグリモリーダーを……」
「そうだな、目ぇ覚まして再変身出来ない様にぶっ壊した」
レイの言葉を聞いたジャックは酷く頭を抱えた。
「えっと、それ何か問題だったの?」
「大問題です。許可無きグリモリーダーの破壊行為はギルド絶対法度第五条に違反します」
「あ~、やっぱりマズかったか」
自分の短絡的な行動に嫌気が差すレイ。
【ギルド絶対法度】
それはギルドGODに所属する者が必ず守らねばならない規則である。
規則の内容は多種多様だが、これらを破った者はギルドから何かしらの罰則を受ける事となる(最悪の場合第一級討伐対象として全世界指名手配もある)。
今回レイが破ったのは第五条『許可無く同胞の魔本を破壊する事を禁ず』というものだ。
「ミスタ・クロウリーの事情も重々承知します。ですが許可無きグリモリーダーの破壊を見過ごす訳にはいきません」
「でもグリモリーダーを壊さなかったらレイ君だけじゃなくて街も危なかったんスよ。情状酌量の余地はないんスか?」
「我々もそうしたいのは山々なのですが……ミスタ・クロウリーの違反行為がこれだけではないのです」
眼鏡越しにレイをキッとにらみつけるヴィオラ。
レイはもう一つの違反が何かをよく理解している故に、さっと目を逸らした。
「ミスタ・クロウリー、自覚はありますか?」
「……はい。絶対法度第六条『資格なき者が魔装を身に纏う事を禁ず』です」
これこそレイが一番危惧していた違反行為だ。
魔獣と契約する事が普通の世界とは言え、むやみやたらに変身する事まで許されている訳ではないのだ。
「資格なきって、どういう事?」
「何の資格っス?」
「認定免許の事だよ、ほら僕達も養成学校の卒業試験で受けたろ」
「あ~、やったやった。何かでっかい魔獣と戦ったよね」
この世界で操獣者として変身し活動する事を許可する証明書、それが【認定免許】だ。
認定免許は世界各地の操獣者ギルドで発行される物だが、発行して貰うには認定試験をクリアする必要がある。
セイラムでは基本的に操獣者養成学校を三年在籍した後、卒業試験としてこの認定試験を受けるのが通例となっている。認定試験を合格すれば晴れて卒業、ギルドの操獣者の仲間入りだ。
「あれ? でもレイ君養成学校は飛び級卒業してるから、認定免許も持ってるんじゃないんスか?」
「認定試験と同じ課題は受けたけど、デコイモーフィングでやったから認定免許は貰えなかったんだよ」
「えっと、つまり今のレイって……」
「お察しの通り、無免許操獣者だ」
再び広がる沈黙。完全に言い逃れが出来ない違反を犯したと、皆認めざるを得なくなった。
「処分の理由はご理解いただけましたか?」
「まぁ、言い訳のしようがないですね」
平然とした様子で処分を受け入れるレイに、フレイアは強い不満を抱いた。
「本当にいいの? せっかく夢に近づけたのに」
「いや、良くはないんだけど……なーんか話に続きがありそうなんだよなぁ」
レイは目を細めてギルド長を見る。
長い交流関係から来る経験則とでも言うべきだろうか、レイは現在のギルド長から罪人を裁く者の気配を殆ど感じ取れなかったのだ。
ギルド長は机に両肘を乗せて、両指を口の前で絡めて口元を隠しているつもりなのだろうが、微かに口元が笑っているのをレイは見逃さなかった。
「俺の処分はグリモリーダーの没収だけですか?」
「そうじゃのう、それだけじゃ」
ギルド長の口から直接没収処分を認める言葉が出てきた事で、レイを除くレッドフレアの面々は大きく落胆した。
「何とかならないんですか? これじゃああまりにも――」
「なりません。この処分は決定事項ですので」
何とか処分を撤回出来ないかと考えたジャックだが、取りつく島もなく決定事項だと告げられるばかりだった。
「で、今日の要件って俺の処分だけですか?」
「いや、実は要件はもう一つあるんじゃよ」
もう一つの要件。ギルド長の口から出たその言葉を聞いて、フレイア達は顔を青ざめさせた。
まさかまた何か悪い知らせが有るのではないかと、警戒せざるを得なかったのだ。
一方当事者であるレイは、気を引き締めてギルド長の言葉に耳を傾ける。
恐らくこちらの要件こそがギルド長の本命だろうと、レイは思わずにはいられなかった。
「レイ……」
真剣な眼差しでギルド長は要件を切り出した。
「改めてになるのじゃが、認定試験を受けてみる気はないかのう?」
「「「…………へ?」」」
「あぁ……そう言う事か」
ギルド長が発した突然の提案にフレイア達は気の抜けた声を漏らし、レイはその意図を理解したが故の面倒臭そうな顔を露わにしていた。
「えっと、認定試験ってあの認定試験っスか?」
「そうじゃ。お主達も養成学校を卒業する時に受けたじゃろう」
「まぁそうですけど……何で今ここで?」
「レイは免許を持ってない。だから試験を受けて免許を取れ……合ってる?」
「ほほ、正解じゃ」
アリスがギルド長の意図を要約した事で、ジャックやライラも腑に落ち理解した。
「えっと……もしかして何とかなりそう?」
「なるかもしれないっス」
真意を理解できなくとも、フレイアは状況が好転しそうな事だけは(野生の直感で)解った。
「キース逮捕の功績を考慮すれば受験資格は十分に有る。どうじゃレイ?」
「そういう事なら認定試験を受けます……と言いたい所なんですが、俺グリモリーダーを持ってないんですけど」
「むむ、それはいかんのう。ヴィオラ、レイにグリモリーダーを渡してやってくれ」
「了解しました」
白々しいギルド長の指示を受けたヴィオラは、レイに一台のグリモリーダーを差し出す。それは先程レイから没収したグリモリーダーでもあった。
レイは何とも複雑な心境を抱えながらグリモリーダーを受け取る。
「このやり取り、心臓に悪すぎる」
だがこれでようやく、ギルド長が言っていた『チャンス』の意味が分かった。
「えっと、これは茶番劇ってやつっスか?」
「まぁ、そう見えなくもないね……」
「つーか結局返すんだったら何でわざわざ没収なんかしたのよ」
「本音と建前ってやつだ」
何故このような寸劇が繰り広げられたのか理解できない面々に、レイが説明をする。
どう言い訳しようともレイがギルドの法度を破った事は事実だ。となれば親交のある相手とは言え、ギルド長も立場上罰則を与えなくては他の者に示しがつかなくなってしまう。
本来なら二つの法度を破った事で罰金刑、悪ければ禁錮刑を科されてもおかしくはない。ギルド長はまずそれに対して、レイのキース逮捕の功績を理由に処分内容をグリモリーダーの没収に抑え込んでくれたのだ。グリモリーダーの没収は操獣者にとって最も屈辱的な刑の一つとされているので、上層部もレイの処分内容に合意したのだろう。
だがここで終わらせないのがギルド長の懐の深さだ。
認定試験の実施は時期など特に決まっていないので、希望者が居れば何時でも実施できる。
免許が無いなら取らせればいい。ギルド長の言っていた『チャンス』とこういう事だ。
認定試験実施を理由にレイにグリモリーダーを渡す(返す)。そしてレイが無事試験を突破すれば晴れて免許持ち、レイは合法の操獣者となる。
要するに法度違反の処分は既に終えており、その後に認定免許を取得したとなれば、誰もレイを咎める事は出来ない。そしてレイ自身も安心して操獣者活動が出来るようになるという寸法だ。
ジャックとライラは諸々の思惑も理解できたので一先ず安堵の息をついた。
「えっとねー……いろいろあってなんとかなりそう、であってる?」
「はいはい、合ってる合ってる」
フレイアは小難しい説明を理解しきれず頭から煙を出していた。
「で、試験内容は何ですか? 通例ならランクの低い依頼を一つ完遂すれば良い筈ですけど」
認定試験の内容はギルド毎に異なるが、GODの通例では難易度の低い(難易度F~Eの低ランク帯)依頼を一つ完遂する事が試験合格の条件となっている。
「ふぉっふぉ安心せい、通例通りこちらが指摘した依頼を完遂すれば試験合格じゃ」
「こちらがミスタが受ける依頼となります」
そう言ってヴィオラは一枚の紙をレイに手渡す。
羊皮紙に書かれた依頼書だ。レイはその内容に目を通し、色々と腑に落ちていった。
「あぁ、だから『事件がチャンス』って言ってたのか」
レイが手に持つ依頼書にはこう書かれている。
『内容:幽霊船騒動の解決』『場所:バミューダシティ』
「色々と好都合な依頼じゃろう」
「そうですね。事件解決すれば免許も貰えて、剣の材料も手に入る」
剣の材料の下りで、背後からフレイアが目を輝かせる。
確かにギルド長が言うように、この依頼をこなせばレイにとって得しかないだろう。しかしレイは依頼書に書かれたある一節が気になっていた。
「ギルド長……この依頼、難易度Dとか書いてるんですけど」
「あぁそれはのう――」
「そのくらいの実力を示して頂かなければ、口煩い輩を黙らせる事が出来ないのですよ」
ヴィオラに台詞を取られて落ち込むギルド長。
なるほど、通例より高ランクの依頼なのもギルド長の思惑あっての事らしい。
「上等だ……受けてやるよ、この依頼」
せっかく作ってもらったチャンスだ、無下にしたくは無い。
「ところでギルド長、この依頼至急って書いてるんですけど……船が使えない今、セイラムからバミューダまで移動するには馬車を乗り継いでも結構時間かかるんですが?」
「ふむ、そうじゃのう。早馬車を使って四日と言った所かのう」
「至急って言われてるのに四日はかかり過ぎですよね?」
レイは何かを求める様に、ギルド長に手のひらを差し出す。
「許可証、出してくれるんですよね?」
「分かっとる分かっとる。ヴィオラ」
「どうぞ、大型魔獣による移動許可証です」
レイはヴィオラから一枚の許可証を貰う。
何処の地域でも、基本的に街中や街の上空での大型魔獣の召喚・搭乗には許可が必要となる。無闇な大型魔獣の召喚はトラブルの元になり易いのだ。
こうして許可証が出た今、レイはバミューダシティまでスレイプニルに登場して移動する事が可能となったのだ。スレイプニルの足なら一晩もあれば目的地に着く。
「通常は一名から二名程で試験に臨んで頂くのですが、今回は通例より高ランクの依頼ですので操獣者三名までの同行を許可します」
ヴィオラが試験内容の注釈を告げる。
基本的に認定試験を受けるのは新米操獣者ばかりなので、既に認定免許を持っている操獣者の同行が許可される事が多いのだ。
「はいはいはーい! アタシ同行しまーす!」
「ダメじゃ」
「えッ、なんで!?」
同行する気満々で手を挙げたのにギルド長に却下されて、フレイアは酷くがっかりする。
「認定試験に同行できるのはランクD以下の操獣者のみじゃ」
「あぁ、そう言えば僕達みんなランクCだったね」
「色々依頼こなしたから、ランクもどんどん上がっちゃったっス」
「ギルド長~、ランク下げて~」
「フレイア、お前なぁ……」
「ダメに決まっとろう」
フレイアの無茶な要求に呆れるレイとギルド長。
「とりあえずアリスは同行する。レイ、どうせまた怪我する」
「同行してくれるのは嬉しいけど、なんか棘を感じるんだが」
「あれ、アリスは同行できるの?」
「アリスのランクはE。救護術士だからランクは上がり辛いの」
基本的に救護術士は前線に出て戦う事が無いので、書類上のランクが上がりにくい職業なのだ。
「となると後二人まで連れてけるのか……アリス来てくれるならもういいかな」
「ダメ、後二人探して」
「いやでも、俺とスレイプニルと回復役のアリスが居れば」
「どうせ無茶するんだから、サポーターは最大人数必須」
アリスの言葉にレイ以外の者たちは一様に「うんうん」と頷く。
レイは思わず歯ぎしりしてしまうが、こういう場面での信用の無さに関しては自業自得である。
後二人の同行者をどうやって探そうか悩むレイ。
その近くでフレイアも何やら頭を捻らせて何かを考える。そして突然、フレイアは何かを閃いたように明るい表情を浮かべた。
「ねーねーギルド長、ランクDの操獣者ならレイを手伝ってもいいんだよね?」
「うむ、そうじゃな」
「それってさー、現地で見つけてもいいの?」
「まぁ、問題はないのう」
現地で同行者を見つけても良しと聞いたフレイアは「よっしゃ」とガッツポーズをする。
「姉御ー、何かいい方法でも思いついたんスか?」
「ふっふっふー……あの娘達、今バミューダシティで足止め食らってるんだって」
「……あッそうか、あの二人は両方ランクDだ」
「そうと決まれば通信通信~♪」
当事者であるレイの意見を聞き忘れながら、フレイアは上機嫌な様子で執務室から出て行った。
「あの二人? 誰だ?」
「レッドフレアのチームメイトっス。もう二人居るんスよ」
「あぁなる程、その二人に同行して貰うと」
初対面の相手になるが、フレイアが認めた人物なら大丈夫だろう。
レイは安心してその提案を受け入れる事にした。
「ちなみに二人の内一人は、レイもよく知っている人だよ」
ジャックの言葉が気になり、レイが誰なのか聞こうとした瞬間、大きな音を立てて執務室の扉が開けられた。
「レイ! 二人とも同行OKだってさ!」
「そうか、それは良かった。だが事前に俺の意見を聞きやがれ」
「いいじゃん、そんな細かい事」
「気にしやがれ!」
とりあえずフレイアの頬を抓って伸ばし、お仕置きするレイ。
途中で後ろからギルド長の咳払いが聞こえたので、そこでお仕置きは終了となった。
「あ~ゴホン、話は纏まったかのう?」
「えぇ、纏まりました」
「色々と準備も必要じゃろう、明日の朝に出立すると良い」
これにて要件は全て終わった。
最後にレイはヴィオラから一枚の栞をグリモリーダーに挿して貰う。認定試験の受験表の様なものだと説明された。
こうして諸々の用事を済ませたレイ達は執務室を後にした。
◆
翌朝、日が昇り始めた時間にレイとアリスはスレイプニルに乗ってセイラムシティを後にした。
その時のギルド本部屋上は見送りに来たフレイア達によって賑やかなものだった。
レイとアリスがセイラムを出発する様子を執務室の窓越しに見届けたギルド長。
「(エドガー、お前の息子は立派に前を進んでおるよ)」
今は亡きヒーローに少し哀愁を帯びた気持ちを抱くギルド長。
どうかあの若者達が進む道に幸有らん事を……ギルド長がそう願った矢先に、けたたましい足音と共に執務室の扉が開かれた。
「ギルド長、ミスタ・クロウリー達は!?」
慌てて入って来たのは秘書のヴィオラだった。珍しく余裕の無い様子を晒している。
「レイ達なら今しがたセイラムを出たばかりじゃが」
「ギルド長、落ち着いて聞いて下さい……今さっき依頼書の査定変更が出たのです」
そう言ってヴィオラはギルド長に一枚の依頼書を差し出す。
その内容を確認したギルド長は顔面を蒼白に染め上げた。
「こ、これは……」
「ミスタ・クロウリーの認定試験に使った依頼です」
震える手で依頼書を見つめるギルド長。
訂正された依頼書には『難易度:D→A』と書かれていた。
ギルド長は慌ててグリモリーダーの通信機能を起動させる。
「す、すぐにレイ達に知らせねば!」
「ギルド長、認定試験の受験中はグリモリーダーの通信機能に制限が掛かっています。今のミスタ・クロウリーには連絡できません」
「そうじゃったァァァァァァァァァ!!!」
昨日ヴィオラがレイのグリモリーダーに挿した一枚の栞。
あれはグリモリーダーの通信機能を一時的に制限するものだ。
認定試験中は通信機能を使って高ランク帯の操獣者から助言を得れない様にする為に、同行者以外との通信が出来ない様にする必要がある。今回は完全にその規則が裏目に出てしまったのだ。
「ヴィオラ、フレイア君達にレイの後を追わせるのじゃ!」
「よろしいのですか?」
「緊急事態じゃ、フレイア君達の同行をギルド長権限で許可する!」
ギルド長の指示を貰い、ヴィオラは急いでフレイア達の元へと駆け出した。
ヴィオラが執務室を出るのと入れ替わる形で、一人の男が慌てた様子で執務室に入って来た。
「た、大変ですギルド長!!!」
「今度はなんじゃ」
短時間でトラブルが続けて来たからか、少し不機嫌なギルド長。
しかし男のなりを見てギルド長は一気に気が引き締まった。
何故なら男は地下牢の看守だったのだ。
「何かあったのか?」
威厳に満ちた声色で看守に問いかけるギルド長。
だが返って来た答えは、想像以上に悪い知らせであった。
「キース・ド・アナスンが……何者かに殺害されました」
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