その七

赤毛の大男は、口元を引きつらせて、眼球を大きく開けて俺を睨みつけた。

 元海兵隊のプライドという奴か。

 早口の、その上巻き舌の酷い訛りだらけの英語でまくし立てた。

 探偵社に居た頃、何度か米国あっちに研修で行かされたからな。

 英語だって、堪能とはいわないまでも幾らかは理解できる。

 だから彼の言葉が単語を拾って分析してみただけでも、お世辞にもお上品な表現とは言いかねるくらいは見当がついた。

 どうやら『あれで決着がついたとは思わない。俺と勝負しろ』と言いたいらしい。

 おかしくて仕方がなかった。

 俺は後ろを振り返ると、ハリソン先生を呼び、

『分かった。じゃ、支度をしてくるからちょっと待っててくれと伝えてくれ』と言い、

『あ、これは危険手当に該当するからね。その点は忘れないように』

 と付け加えて更衣室に向かった。

俺が道衣に着替えて戻ってくると、コーチ氏もすっかり戦闘態勢が整っていた。

向こうが強硬に完全決着とやらを主張したので、なら『特別ルール』として、

『眼球と金的への攻撃、それと武器を使うこと以外は何をやってもいい。但しどちらかが参ったといったらそれでおしまい。試合の結果については一切の異議を挟まない』これだけをハリソン先生に伝えて貰った。

 流石は元ネィティヴの人だ(苦笑)

 もっとも、彼女も英国の出身だから、訛りの多いアメリカ英語には随分苦労したようだったが、

 ま、そんなことはどうでもいい。

 とにかく俺とコーチ氏(名前はジャックなにがしというんだそうだ)は、道場の中央で向かい合った。

 離れている時は何だかひどくデカブツに見えたが、近くに来てみると身長は俺とそんなに大差はない。

ただ、身体の厚みは相当なものだ。

 向こうは俺に対して相当な自信があるんだろう。

 まあ、俺も仕事だからな。 

『始め!』 審判の声が響いた。


 3日後、俺はいつもの『アヴァンティ!』の止まり木でバーボンを呑≪や≫っていた。

 え?

(試合の結果がどうなったか知りたい)って?

 何度も同じことを言わすなよ。

 俺は自慢話をするのもされるのも嫌いだってさ。

 面倒臭いな。どうしても知りたいか?

 じゃ、結果だけな。

 俺が勝ったよ。

 ジャックなにがし氏は、最初は少し距離を取っていたが、俺も同じようにしていたから、じれてきたんだろう。

拳を固めてがむしゃらに突いて出てきた。

 だが、俺はそれより早く、相手の顎に縦拳をくれてやり(といいたいところだが、一応寸止めにしといたよ)、そのまま得意の内股で投げ飛ばし、最後は逆十字でタップをさせたわけだ。

 危険手当分は働かないと、プロの名が泣くってもんだからな。

(鷹見が丘高校の柔道部は?)

 さあな。昨日別の用事で学校の側を通ったら、道場から偉く活気のいい掛け声が聞こえてたのは確かだ。

 きっと上手くいってるんだろう。

 俺にとってはどうでもいいことだけどな。

 ああ、腰が痛い。

 やっぱり齢かな?

 まあいいや、風呂も直ったことだし、今晩は温泉の素でも入れて、ゆっくりあったまるとしよう。

                               終わり


*)この物語は登場人物その他、全て架空の存在であり、ストーリーその他も且つ作者の想像の産物であります。



 

 







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