雪也の想い(6)

 それはいつも本当に一瞬だった。


 流れるような來夢の視線は雪也をそっと撫でて去っていった。


 それでもそんな些細なことが1日に何度もあった。


 何も見ていないような來夢の視線は確かに雪也を探していて、雪也を見つけると慌てて逃げていく。


 來夢のそんな視線をいつも雪也は來夢に向けた横顔で、肩で、背中で、感じていた。




 來夢が町からいなくなるあの日、雪也は1駅先のホームで來夢の乗った電車がやってくるのを待った。


 最後に來夢に会いたかった。


 まっすぐに來夢を見つめたかった。


 それで終わりにしようと思った。


 お互いを見つめる目が全てを語っていた。


 1つのことを除いては。


 電車がホームから見えなくなった後、雪也は叫んだ。


『來夢』


 そしてその後に続く言葉を雪也は飲み込んだ。




 東京で來夢と偶然再会した時、雪也はその偶然を呪った。


 少女だった來夢は美しい大人の女性へと変わっていた。


 でも雪也を見つめるその瞳は少女の頃と同じだった。


 來夢の瞳は語っていた。


『あなたが好き』と。


 來夢のその気持ちを拒絶するほど雪也は強くなかった。


 一線さえ超えなければ流されるまま流されてしまえばいい、そう思った。


 そしてこれも運命なのだと。


 それでも、もし自分たちが一線を超えてしまうことがあるならば、それは、その時は、自分だけが地獄に落ちればいい。


 そう思った。


 でも、もし、もしも來夢が全てを知り、それでも自分をまだ愛していると言ってくれるのであれば、


『僕と一緒に死んで欲しい』


 身勝手な雪也の告白だった。


 その言葉の本当の意味を知らずに來夢は頷いた。

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