雪也の想い(5)

 町には1つの高校しかなかった。


 あの日雪也の双子の妹である少女が着ていた服はその高校の制服だった。


 転入初日、クラス全員の好奇の目に晒されながら担任教師に紹介される中、雪也はすぐに來夢を見つけた。


 來夢の周りだけ空気の色が違った。


 雪也が自分から來夢に話しかけることはなかった。


 來夢に自分が双子の兄だと言うつもりなどさらさらなかった。


 そんなことをしにこの町にやってきたわけではなかった。


 ただ近くにいたかった。


 それだけだった。


 転校して間もなく、ときどき耳に入ってくるクラスメイトや來夢の会話から、來夢の母――自分の母親でもある――が、すでにこの世にいないことを知った。


 そして來夢自身、何も知らないことも知った。


 來夢は今の自分の父親が本当の父親だと信じていた。


 祖父母に十分な愛をもらい育てられた雪也だったが、來夢はそれ以上にまっすぐに普通の女の子として生きてきていた。


 それを壊したいなどとは少しも思わなかった、それよりも來夢がこれからもずっと知らないでいるように守ってあげたいとさえ思った。


 それは來夢が血を分けた妹であるからでもあったが、それ以上に雪也にとって來夢はひとりの守りたい少女だった。


 頭では双子の妹だと分かっていても、一緒に育ったわけでもない、そればかりかつい最近その存在を知ったばかりなのだ。


 初めて來夢を見たあの瞬間に生まれた恋心が消えることはなかった。


 いや、ずっと昔から抱き続けていた恋心。


 写真の中の会ったことのない母親に生き写しの來夢。


 頭で心を支配することなどできなかった。


 だからいい、このままでいい、このまま黙ってそばにいるだけでいい、雪也はそう思った。


 來夢がクラスのリーダー格の男子生徒と付き合い始めたのを知った時、平静さを装った下で雪也は狂わんばかりに嫉妬した。


 それでもある日雪也は気づいた。


 來夢が自分を見ていることを。

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