雪也の想い(4)
まさかそんなはずはない、十数年以上前に撮られた写真なのだ。
雪也は祖母の言葉を思い出した。
『今はその人も別の人と結婚して家庭があるから邪魔をしてはいけないよ』
あの少女はあの人の娘に違いない。
黒目がちな大きな瞳。
ふいに少女が雪也の方を見た。
雪也の胸が早鐘のように高鳴る。
だが少女が見たのは雪也ではなくその背後からやってくる電車だった。
のんびりとホームに止まった電車に少女は乗り込んだ。
少女は1度も雪也を見ることはなかった。
いや見たかも知れない。
でも少女の位置からでは逆光で黒い影としてしか見えなかっただろう。
役場までの道のり、雪也は祈った。
どうか写真の女性が自分の母親ではありませんように。
あの少女が赤の他人でありますように。
祈りながら雪也は自分の愚かさを笑った。
亡き父の部屋に飾られた写真。
その写真の中の女性。
自分が生まれただろう町にいるその女性そっくりの少女。
きっとあの少女は父親違いの自分の妹だ。
雪也は立ち止まり空を仰いだ。
いつからか恋心が強くなっていた写真の中の女性。
ベンチに座るあの少女を見た瞬間、雪也ははっきりと自分が恋に落ちたのが分かった。
会いたくて、会いたくて、会った瞬間自分の心を鷲掴みにした少女は半分血の繋がった妹。
半分。
そう思っていた。
役場に着くまでは。
受け取った紙に書かれた事実を知った雪也は絶望で叩きのめされた。
少女は半分どころか全く同じ血を分けた、それも双子の妹だった。
祖父母は雪也に十分なお金を残していてくれた。
祖父母がいなくなった今、雪也がどこで暮らそうが自由だった。
自分を愛し育ててくれた祖父母との想い出にしがみついて生きていくのは嫌だった。
ここでなければどこでもいい、どこでもいいなら……。
自分の生まれた小さな田舎町。
雪也が選んだのはそこだった。
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