雪也の想い(3)


 母親なのか赤の他人なのか。


 どことなくすっきりしないもやもやとした気持ちで写真を眺めながら育った。




 雪也が成長するにつれ、祖父母は死んだ息子にそっくりだと目を細めた。


 雪也は成長するにつれ、写真の女性が自分の母親でないことを願うようになっていた。


 いつしか雪也は写真の中の女性に恋心に近い感情を抱くようになっていた。


 幼い頃母として慕い眺め続けてきた女性は、思春期になって不安定な異性への恋心と変わっていった。


 もともと母親か赤の他人の女性なのかはっきりとしないだけにその想いは複雑だった。




 雪也が中学を卒業して間もなく祖父が他界した。


 それから1年もしないうち、跡を追うように祖母も亡くなった。


 雪也は天涯孤独になった。


 もし、写真の女性が赤の他人だったら。


 祖父母がいなくなって、どこかでかけていた雪也の心のブレーキが外れた。


 雪也は全力で自分の母親を、写真の女性を探し始めた。


 一目見るだけでいい、それだけでいいから。



 戸籍からどこで自分の戸籍が移されたのかを調べた。


 それは遠く離れた小さな田舎町だった。


 その町の役場で改製原戸籍というものを取り寄せれば、出生の詳細や母親の名前が分かるとのことだった。


 郵送で取り寄せることもできたが、雪也は直接その町の役場に行ってみることにした。




 初夏の風が瑞々しい、気持ちの良い日だった。


 電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、長い時間がかかった。


 町に近づくにつれ、電車の本数が減り、待ち時間も長くなった。


 2両編成の車窓から眺める無人駅は雪也には物珍しかった。


 目的の駅もやはり無人駅だった。


 電車から降りたのも雪也ひとりだけ、ホームにも誰もいない……、と思ったら、木陰のベンチに1人の少女が座っていた。


 雪也は雷で打たれたようにその場から動けなかった。


 少女は雪也が探している写真の女性そのものだった。




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