雪也の想い(2)

 そしてその時、すでに由美のお腹の中に來夢と雪也がいた。


 何度も死んだ恋人の後を追おうとする由美がせめて半分の親権を取り戻せたのは、來夢が本当の親だと信じていた父、桂司のおかけだった。


 桂司と死んだ男は昔からの友人だった。


 結婚した2人は來夢を引き取り、雪也は息子の忘れ形見として死んだ男の両親に引き取られた。


 雪也と來夢が違っていたのは、死んだ男の両親が高齢なこともあり、最初から雪也にはある程度の真実が告げられていたことにあった。


 父親は自分が産まれる前に事故死したこと、死んだ父と結婚する予定だった母は、父の死がショックでとてもひとりで子どもを育てられるような状態じゃなかったこと。


 だから自分たちが雪也を引き取ったのだと。


 ただ來夢の存在が雪也に知らされることはなかった。


 雪也が母親に会いたいと言うと、今はその人も別の人と結婚して家庭があるから邪魔をしてはいけないと、やんわりと制された。


 真実は真実だった、限りなく。


 死んだ父の部屋はずっとそのままにされていた。


 雪也は1枚の写真を見るためにときどき部屋に入った。


 部屋にはグランドピアノがあった。


 父は将来を期待されたピアニストだったらしい。


 ピアノの上にその写真はあった。


 亡き父とひとりの女性が写っていた。


 瞳の大きな美しい人だった。


 ある日雪也はその写真を持って、夕飯の支度をしている祖母に尋ねたことがあった。


『ここに写っているのが、僕のお母さん?』


 祖母はちらりと写真を見ると『どうだろうね、その子だったかねぇ』と、はっきりと教えてはくれなかった。


 顔が分かると雪也が会いたがると思ったのだろうか。


 それでも雪也はきっとこの写真の女の人が自分の母親なのだろうと思った。


 そう信じることにしたところもある。


 でも時々、もしかしたらこの人じゃないかも知れない、本当のお母さんは他の人かも知れない、とも思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る