雪也の想い(1)
「雪也は來夢の双子の兄さんだよ」
來夢の肩に何かが触れた。
空を仰ぐと白いものが舞い落ちてくる。
ひとりでいる公園はさっきよりも広く感じた。
大丈夫だからと、心配する将樹を先に家に戻らせた。
ひとりになりたかった。
将樹は来た道を振り返った。
來夢をひとり残した公園はもう見えなかった。
将樹の母が離婚する前の夫、将樹の父は医者だった。
小さな田舎町にあるクリニックではおたふく風邪から妊婦までなんでも診た。
來夢と雪也はそこで生まれた。
将樹がそのことを知ったのは、まだ來夢と出会う前の中学生のときだった。
その頃から喧嘩が耐えなかった両親は、その夜も将樹がいるにも関わらず激しく口論を始めた。
喧嘩の理由はいつも父の浮気が理由だった。
町のスナックの女の子が相手の時もあったし、クリニックの看護師に手をつけたこともあった。
母がそのことを責め立てると、決まって父はいつも同じことを言い出した。
そういう時の父はたいがい酒に酔ってはいたが。
『そういうお前だって、今でも昔の男が忘れられないんだろう』
ここまでくるといつも2人の間から出てくる名前があった。
由美さん、桂司さん、來夢ちゃん、雪也くん。
『本当に将樹は俺の子なんだろうな』
その言葉を浴びせられると母は狂ったように父に物を投げつけた。
何度も聞く両親の喧嘩から、将樹はだんだんとその内容を理解していった。
來夢と雪也の父親は、來夢の母、由美が大事に持っていた写真の男だった。
『お母さんの初恋の人なのよ』
來夢の前で由美がいつも愛おしそうに指先で撫でる、雪也そっくりの写真の男。
2人は結婚の約束をしていた。
由美にとっては運命の出会いだった。
そして最初で最後の恋だった。
男は由美を残してあっけなくこの世からいなくなった。
事故だった。
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