春の夜(2)
「飲めばいいのに」
「将樹も一緒に飲むならね」
「……俺は……いいよ」
遠くにコンビニの灯りが見えた。
しばらく2人は黙って歩く。
「もうそろそろ時効なんじゃない……」
1台のトラックが2人の横を通り過ぎていく。
油臭い生温かい空気になぶられる。
來夢は無意識に息を止めた。
トラックの窓からアイドルグループの歌声が聞こえてきた。
帰り道は国道沿いではなく、別の道を歩いた。
「なんか小さい公園があるはずなんだよね、せっかくだからそこで飲もうよ」
來夢の持ったビニール袋の中にはビールが2缶入っていた。
猫の額のようなとはまさにこんな感じだろうと思わせる公園のベンチに2人は腰を下ろした。
玩具は何もなく小さな砂場があるだけだった。
『猫に餌を与えないでください』と書かれた看板があることから、多分猫のフンだらけだろう。
「はい、冷たいうちに飲もう」
将樹に手渡したビールはすでに汗をかいている。
ためらう将樹にビールをしっかりと持たせると、來夢は自分のビールを開けた。
プシュッと空気が弾ける音がする。
「さぁ、将樹も早く」
待ちきれない來夢は将樹の手から缶を取りあげると、プルトップを開けてまた将樹の手に戻す。
「かんぱーい」
來夢はコツンと缶を合わせると、ゴクリと一口飲んだ。
「うっま」
今度はゴクゴクと喉を鳴らす。
横目で将樹を見ると缶を両手で握りしめたまま固まっている。
「そんなことしてるとビールが温まっちゃうよ」
「來夢は、俺と一緒にいて本当に幸せか?」
将樹は呟いた。
「幸せよ」
來夢は即答した。
「将樹と出会えて、結婚して、可愛い娘にも恵まれて、来年には孫までできる、これで幸せじゃないって言ったら、神さまに怒られちゃうよ」
「そっか」
「そうよ」
将樹は肩で息をすると「そうだよな」と、ビールの缶を持ち上げた。ゆっくりと缶に口をつけ傾ける。
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