第3章 明かされた全て・春の夜(1)

 月日は流れた。


 2人の間にできた1人娘も結婚して来年には子どもが生まれる。


 そうすればおばあちゃん、おじいちゃんになる2人だったが、2人は何年経っても仲の良い恋人同士のような夫婦だった。




 ある春の夜だった。


 夜中に喉が乾いた來夢はクリーニングに出そうと椅子にかけてあった上着を羽織った。


「家にあるやつじゃ駄目なの?」


「どうしても炭酸が飲みたいの」


 ふーん、と言いながら将樹は自分の上着を探す。


「いいよ、ひとりでさっと行ってくるから」


「一緒に行くよ、俺もなんか買う」


 家の外に出ると意外に暖かかった。


 春になったといえ、早朝や夜は冬に逆戻りしたように気温が落ちるものだが、この夜は違った。


 少し歩くと汗ばむほどの陽気だった。


「なんか一気に夏になったみたいだね」


「さすが南の果ての地だな、上いらなかったな」


「この陽気じゃ桜全部散っちゃうね」


「もう散ってるだろ」


 そんなことを話しながら2人は国道沿いを歩く。


 こんな時間でもまだ結構な車が走っていた。


 2人の横をスピードを出した車が追い越していく。


 車道側を歩く将樹は來夢の手を握った。


「わたしの手、しわしわでしょ」


「そんなことないよ、まるで生娘のように瑞々しい手をしてる」


「やめてよ、もういいおばさんなんだからさ」


 來夢は笑った。


 來夢の指先に将樹のはめた結婚指輪が当たる。


「なんかこういうのを幸せっていうのかな」


「急になんだよ」


「こうやって好きな人と手を繋いで歩く」


 将樹は少し黙った後に、ああ、と頷いた。


「あー、すっごい喉が乾いた。なんかこう甘くなくて炭酸がカッと強いやつが飲みたいな」


「ビールにすれば?」


「いいよ、それは」


 将樹は相変わらず一滴のアルコールも口にしようとしなかった。


 それに付き合ってではないが、來夢ももう何年も飲んでいない。

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