将樹の告白(11)

 将樹は最初の頃みたいに急にキレたりしなくなった。


 それどころが突然思い出したように、こんなことをしてごめん、と來夢に謝ったりする。


 その日ずっと不眠だった将樹が初めて來夢の前で眠った。


 來夢はそっとベッドから降りる。


 静かな寝息を立てる将樹は起きる気配が全くない。


 寝室の扉を開けると廊下の向こうに玄関が見えた。


 振り返って将樹を見る。


 露出した上半身が呼吸に合わせてゆっくりと上下している。


 來夢はベッド脇に落ちたブランケットを拾うと将樹の体にかけた。


 将樹の目がわずかに開き、腕が來夢に伸びてくる。


 寄せてくる乾いた唇に來夢は自分の唇を重ねた。


 來夢はそのままベットに横たわる。


 無意識に将樹は來夢を抱き寄せると一瞬微笑みまた寝息を立て始めた。


 來夢の肌を通して感じる将樹の肌は温かくてしっとりと心地よかった。


 耳を当てると心臓の鼓動が聞こえた。






 來夢は浴室の鏡の前に立つ。

 

 疲れているのに肌に艶がある。


 乳房はふっくらと丸みを帯び張りがあり、ウエストはキュッとくびれて見えた。


 男に愛されている女の体だった。


 自分の体を抱きしめるといつもと違う匂いがした。


 将樹の体臭が混じったそれは濃く重く、そして温かかった。


 将樹は寝ている間ずっと來夢を抱きしめたままだった。


 來夢は雪也の背中を思い出していた。


 同じベッドに寝ていながら、いつも來夢に向けられていた背中。


 それは來夢への拒絶、だった。


 世界で1番抱いて欲しい男に拒絶され続けた自分。


 鏡の中の女らしい曲線を描く体は、愛された女の体だった。


 この体を作ったのは将樹だった。


 他の誰でもない、來夢が愛し続けた雪也を見殺しにした将樹だった。


 ほんのりとピンク色に上気し、明かりの下で艶やかに息づくこの体。


 それは美しかった。


 それは満たされていた。

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