将樹の告白(12)

 來夢は鏡に寄り添った。


 火照った胸がヒヤリとする。


 冷たいシャワーを浴び体もろくに拭かずに寝室に戻った。


 将樹はまだ静かな寝息を立てている。


 男らしい体つきに不釣り合いな幼い寝顔だった。


 通った鼻筋に薄い唇。


 開くと鋭い眼光を放つ目は今は軽く閉じられている。


 この男のしたことは決して許されることではない。


 けれども、


 愛おしい。


 そう感じた。


 将樹の瞼がわずかに痙攣する。


 開けられた目と目が合った。


 しばらく2人は見つめ合う。


「なんでそんなに見てんの?」


「なんとなく」


「俺、いい男だろ」


「そうだね」


 将樹は何度か瞬きをするとじっと來夢を見た。


「來夢の瞳に俺が映っているのが見える。やっと來夢が俺を見た」


「いつも見てるよ」


「そうじゃなくて、本当に來夢が俺を見てる」


 うん、とだけ來夢は短く返事をした。


「それで、今、來夢はそれでも俺を覚えてない?」


「どういうこと?」 


将樹はゆっくりと起き上がった。


「俺はずっと前から來夢を知っている」


「ジムで会う前から知ってたってこと?」


 将樹は寂しそうに笑うと、來夢の手首を掴んだ。


「違うよ、もっとずっと昔から」


 來夢のはめた薄い手袋を脱がせる。


 まるで來夢の服を脱がせるときのように、それは淫乱に見えた。


「あの時……雪也はどうして来なかった?」


「あの時って?」


 将樹は來夢の手を自分の胸に近づける。


「來夢が町からいなくなる日」


 來夢の手が将樹の厚い胸に触れる。


 手が痺れて頭に白い光が駆け巡る。


17歳の來夢が見えた。見送りに来た人たちに囲まれて別れを告げる來夢の姿が見えた。人だかりの輪から外れたところからひっそりとカメラを回したような映像だった。


「雪也はどこにいた?」


 将樹は自分の胸から來夢の手を離した。

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