将樹の告白(9)

 ずっと口にしなかった食べ物を口にした。

 

 なくなっているおにぎりに気づいた将樹は嬉しそうな顔をした。


 トイレに行きたいから手足の紐を解いて欲しいと懇願したが、将樹は承知しなかった。


 いくら恋人同士のような関係だったとはいえ、他人に手伝ってもらい用を足すのは女の來夢にとって屈辱だった。


 その代わりではないが浴室からは解放され、來夢は将樹の寝室に移された。


「仕事先に電話していい?このままだと大事になるから」


「大事?今でも十分大事だよ?來夢自分の置かれた立場が分かってる?」


 将樹は意外な顔をして來夢の顔を覗き込んだ。


「わたし将樹を信じてるから」


「どうしたの急に?」


「将樹は本当はひどい人なんかじゃない、雪也のことは事故だったし、少女のことだって、将樹じゃなくても男だったら誰でも同じことをしたかもしれない、現に3人の男たちもそうしようとしていたんでしょ」


 将樹は來夢に横顔を見せた。


「信じられないな」


 そう言うと部屋を出て行った。





 それでも数時間すると将樹は気が変わったのか、來夢のスマホを持って来た。


 仕事先になんとかそれらしい嘘をつく。


 将樹はその間來夢をじっと見つめていた。


「将樹は仕事は?行かなくていいの?」


 将樹が仕事に行っている間、逃げ出すチャンスがあるに違いないと思った。


 将樹は來夢のいるベッドに片膝を乗せた。


 わずかにベッドがきしむ。


「仕事は辞めた」


 四つん這いになり來夢の方に這い上がってくる。


「だから、朝も昼も夜も、ずっと來夢と一緒だ。さっきの続きをしようよ」


 來夢の体に触れる前から将樹にスイッチが入っているのが分かった。


 來夢の縛られた腕は頭上にあげられ、足だけ解かれる。


 來夢は固く目を閉じた。


 赦して雪也。

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