将樹の告白(8)

「俺を殺そうとしたのは來夢の方だろ。俺は1度だって人を殺そうなんて思ったことはない、雪也だって事故だった。そう説明したのに來夢が俺に死んでくれなんていうから、だからこうせざるを得なかったんだよ」


「自分のやってることが分かってるの?」


「分かってるよ、來夢お腹空いてない?」


「解いてよ」


「なにか買ってくるよ」


「将樹!」


 将樹は浴室から出て行った。


 來夢はどうにか浴室から這い出ると扉の鍵を開けようともがくが上手くいかない。


 しばらくすると外で物音がし、浴室の扉が開いた。


「逃げようったって無駄だよ」


 浴槽の外にうずくまっている來夢に将樹は言った。


「サンドイッチとおにぎりどっちがいい?」


 白いビニール袋の中から食べ物を取り出す。


「いらない」


「食べないと体に悪いよ」


 将樹はコンビニのおにぎりにきれいに海苔を巻くと、來夢の顔の前に差し出した。


 來夢は顔を背ける。


「本当にいらないの?」


 來夢が無言でいると将樹は、じゃ、ここに置いとくから、とおにぎりを浴槽の淵に置いて出て行った。


 浴室に窓はなかった。


 逃げ出すには扉からしかない。


 もし逃げ出すことができたら、今度こそは真っ先に警察に駆け込もう。


 でももし逃げ出すことができなかったら?


 浴槽の淵に置かれたおにぎりが、この事態が長期戦になることを暗示していた。


 将樹は狂っている。


 まともそうに見えるけど狂っている。


 何日間ぐらい自分はこの狭い浴室に閉じ込められることになるのだろう?


 何日?何週間?何ヶ月?何年?


 ぞっとした、自分も狂いそうになる。


 雪也、助けて……。


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。


 いつから自分の人生の歯車はおかしくなってしまったのだろう。


 こんなことになるのなら、雪也が死んだあの時、自分も雪也のあとを追っていればよかった。


 狂った男に殺されるぐらいなら、自ら命を絶ったほうがよっぽどました。


 でも死ぬ前に、将樹に少しでも報いてやりたい。


 そのためにも、今度は自分が将樹を欺くのだ。


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