将樹の告白(7)

 靄がかかったような視界の先に何かが光っている。


 頭を動かそうとするとズキンと痛みが走った。


 何度か瞬きをすると次第に目の霞が取れ視界がはっきりとしてくる。


 來夢は水の入っていない浴槽に寝かされていた。


 手足は紐で頑丈に縛られている。


 光っていたものは洗面所の鏡の前に置かれた香水の瓶だった。


 RAIN


 瓶にはそう書かれていた。


 自分は殺されてしまうのだろうか?


 今更ながら無防備に将樹の家にひとりで訪れたことを後悔した。


 相手は少女を犯し雪也を見殺しにした男なのだ。


 咽び泣きながら來夢に詫びた将樹のあれは演技だったのだ。


 乾いた笑いが出てきた。


 自分の愚かさに。


 死ぬのは将樹ではなく自分だ。

 

 心のどこかで将樹を信じていた。


 自分の知る将樹の全てが嘘ではないと。


 少女を犯し雪也を殺すような男では将樹はないと。


 それが事実だとしても、何か切実な理由があるのではないかと。


 大きな体を震わせて「怖かった」と泣く将樹を見て、來夢の心は少なからずとも揺らいだ。


 でもまさか、自分が手足を縛られ、狭い浴室に閉じ込められようとは。


 自分はどんな風に殺されるのだろう。


 すぐに殺される?


 それともしばらく監禁されてじわじわと殺される?


 恐怖を感じた。


 殺されるならさっさと殺されてしまった方がいい。


 過去に十数年と監禁され目を背けたくなるような惨い殺され方をした事件が頭によぎり、狂ったように体を激しく動かした。


 誰か助けて!


 その時浴室の扉が開いた。


「來夢気がついたかい?」


 将樹が顔を覗かせた。


 まるでベッドの上で目覚めた來夢を愛しむような優しい声と目をして。


 別の恐怖が來夢の全身に走った。


「わたしをどうするつもり?殺すの?」


 将樹は浴槽の前でかがんだ。

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