将樹の告白(6)
背後から捕まれ投げ飛ばされたのはその時だった。
ドラックストアーの前にいた長身の男だった。
カッと頭に血が上った。
男と揉み合いになる。
事故だった。
殺すつもりなんてこれっぽっちもなかった。
低い手すりだけで安全対策がまるでできていないあのビルのせいだ。
だからあやまって男が落ちてしまった後、すぐに俺は男の元に駆けつけたんだ。
男はまだ生きていた。
なぜそんなことをしたのか今でも分からない。
俺は救急車を呼ぶ代わりに自分の持っている少女たちの写真を男のポケットにねじ込んだ。
そして俺はそのままその場を立ち去った。
話し終わると将樹は深くうな垂れた。
「どうしてそんなことをしたの?どうしてすぐに救急車を呼ばなかったの?そうしたら雪也はもしかしたら死んでなかったかも知れないのに」
「多分、すぐに呼んでも無理だったと思う。気が動転してた。それに怖かった、怖かったんだ。自分のしてしまったことが全てが」
将樹は体を震わせていた。
大きな体が小さく見える。
「どうしてずっと黙ってたの。わたしが雪也の話をした時から、どうして自分も一緒に犯人探しをするなんてそんな嘘をついたの」
将樹はいきなり体を突っ伏すと吠えるような大声を上げた。
「分からない、分からない、ただ怖かった、怖かったんだ。來夢すまない、本当にすまない。あれ以来酒もやめた、すまない、すまない」
自分に伸びてくる将樹の手を來夢は激しく払った。
ずっと抑えていた感情が爆発した。
「人殺し!」
來夢は叫んだ。
将樹を拳で叩いた。
何度も何度も叩いた。
将樹はされるがままうずくまっていた。
來夢、すまない、すまない、と将樹は小声で唱え続ける。
「すまないと思うのだったら死んでよ、そして代わりに雪也を生き返らせて」
來夢はキッチンに走った。
ナイフスタンドの包丁を掴む。
リビングに戻ると将樹の姿が消えていた。
「将樹?」
その時來夢は背後から口を抑えられ、何かを嗅がされた。
目の前が真っ暗になる。
來夢の意識はそこで途切れた。
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