新たな事実(2)


 來夢が今日1日跡をつけたあの男が今來夢の目の前にいる。


 どうして?アパートの部屋に入っていったのをちゃんと見届けたのに、なぜ?


 男はまっすぐに來夢に向かって歩いてきた。

 

  に、逃げなきゃ。


 そう思うだけで体が動かない。


 男は來夢を見据えている。


 暗く澱んだ目。


 男が間近に迫ってくる。


 誰か助けて!


 その瞬間、男は來夢の横をすり抜けて行った。

 

 全身硬直していた体から力が抜ける。

 

  な、ん、だ…。


 冷たくなった体に温かい血が巡るのを感じる。


 それもつかの間、


「どう?跡をつけられる気分って」


 再び硬直した体で振り返ると男が不気味な笑みを浮かべて來夢を見ていた。


「驚いてる?驚いてるよね」


 來夢は目だけを泳がせて周りを見たが細い路地にいるのは男と自分だけだった。


「怖い?怖いよね」

 

  男が近づいてくる。


「な、な、なん……」


 逃げなければ、大声を上げなければと思うのに來夢の両足は地面に括り付けられたかのように動かず、顔の筋肉が固まって声も出ない。


「ねぇ、なんで俺のこと今日つけてたの?ビラ配りのお姉ちゃん、もしかして俺のこと好きになっちゃったとか?」


 男は顎をさすった。


「俺の好みとしてはちょっと歳取り過ぎてるけど、でもいいよ、俺にやられたいんだろ?」


 今にも來夢に触れようとする男を來夢は思いっきり突き飛ばした。その反動で自分が地面に尻もちをついてしまう。


「そ、そんなことしたら今度こそ警察に捕まるからね」


 まさか男の次の犯罪の犠牲者が自分になろうとは。


「はぁ警察?なに言ってんだよ。俺はなんも悪いことしてないだろうが」


 少女の言葉を思い出した。


『きっとこれもそうだよ、自分の都合のいいように見えるんだよ。諦めて大人しくなったら男たちは合意って思うんだよ』


「それはあんたの勝手な解釈でしょうがっ」


 今も現に男は身勝手すぎる思い込みで突っ走っている。

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