新たな事実(1)


「まだ一緒にいたいけど今日はもう帰るよ」


 将樹は別れ惜しそうにして電車を降りていった。


 窓の向こうで将樹が手を振っているのが見えた。


 來夢も小さく手を振り返す。


 電車がまた動きだした。


 來夢は肩で息をついた。


 今日1日を振り返る。


 佐藤という名前のあの男。


 そうだ、将樹の言う通りあの男はまた事件を起こすかも知れない。


 それを捕まえることができたら雪也の事件もひっくり返せる、きっと。


 それができたら……。


 來夢はさっきホームで将樹が言ったことを思い出していた。


『だから來夢、これからを俺と一緒に生きて欲しい』


 雪也と正反対の愛の告白。


 來夢の胸の奥がほんのりと温かくなる。


 ちゃんと将樹と向き合ってみようか。


 雪也が死んだ時、來夢の心の時計は壊れて止まってしまった。


 時間を刻むことを止めてしまったそれが今、再び動きだしたがっているのを來夢は感じた。

 



 夜の1時まで営業しているスーパーに立ち寄る。


 最後に家のキッチンに立ったのはビラ配りを始める前だ。


 惣菜コーナーの前に立つ。


 すっかりこのコーナーの常連になってしまった。


 かなりの割引になっていたが時間が経って油でしなびた天ぷらとドロッとしたレバニラが売れ残っていた。


 どっちにしようか迷っていると視線を感じた。


 振り返る。


人がまばらなフロアを見渡す。


  気のせいか、と來夢は買い物かごにドロッとしたレバニラを入れるとレジに向かった。


 スーパーを出て暗い道を家の方へと歩く。


 気配を感じて振り返る。


 誰もいない。


 気を取り直してまた歩き出す。


 今度ははっきりと背後で物音がして振り返る。


 落としたスマホを拾いあげ顔を上げた男と目があった。


  思わず声を上げそうになった。


 あの男だった。

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