雪也の仇(1)
その日來夢は短すぎるスカート丈のセーラー服を着させられていた。
年齢的にだいぶ無理があるのではないかと思ったが、制服を着ていることが大事なのだそうだ。
少しでも屈むとパンツが見えそうだった。
その男は向こうから來夢に近づいてきた。
來夢を頭からつま先まで舐め回すように見ながら。
その異様な視線さえなければ普通の男だった。
ビラを手渡すとき男はねっとりと來夢の手を触ってきた。
湿った冷たい手だった。
見えた。
あられもない少女たちの姿が。
それに欲情する男の感情が。
そして見えたのだ。
あの少女の顔と雪也の顔が。
來夢は男の跡を追った。
男の足取りはやけに遅かった。
用事もなくただぶらついているだけなのか、それとも入る店を探しているのか、少女たちが出迎えてくれる、それらしき店の前で立ち止まって看板を食い入るように見る。
でも店に入ることはせずにそのまま通り過ぎ、また同じような店の前で同じことを繰り返す。
ついに男が入った店は今まで物色してきた系統の店ではなく昼から飲めるただの飲み屋だった。
こんな街にもこんな店があるのだと、少し意外だった。
開けっ放しの店の入り口を男が跨ぐと奥から「お、のんちゃん、らっしゃい」と店員らしき男の声が聞こえてきた。
そのあと何人かの男たちの声で「よぉ」とか「こっち座れよ」とか聞こえる。
さすがにセーラー服姿で店に入るわけにいかず、それでもしばらく來夢は店の中の様子をうかがった。
のんちゃんと呼ばれた男は店の奥にあるテーブル席の方に歩いていくと來夢のいる外からはよく見えない位置に座ってしまった。
テーブルにいる男たちは年齢も格好もさまざまだった。
「のんちゃん毎日毎日ありがとうね〜」
店員が焼酎のボトルとグラスをテーブルに置いた。
それに手を伸ばす男の手だけが見えた。
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