雪也の仇(2)


 來夢はスマホで時間を確かめると店の名前と場所をもう1度確認しビラ配りに戻った。


 焦る必要はない。


 男は見つけた。


 これからの計画を慎重に練らなければいけない。





 その夜來夢は興奮してなかなか寝つけなかった。


 見つけた、男をついに見つけた。


 これで雪也の汚名が晴らせる。


 でもあの警察の態度を考えると、まず信じてはくれないだろう。


 今度こそ自分が狂人扱いされるとも限らない。


 男が自白しない限り無理だ。


 でもそう簡単に男は自白なんてしないはずだ。


 何か証拠を掴むのだ。


 ターゲットは定まったのだ、男のボロを探し出すのだ。


 そのためにももっと男に接触する必要がある。

 

 でももし男が自白しなかったら?なにも証拠が掴まめなかったら?


 その時は……。


 わたしがあの男に天罰を下してやる。


 窓の外がうっすらと明るくなってきた。


 窓際に置いたマネキンの手のシルエットが浮かびあがる。


『これって地獄で阿鼻叫喚する死者の手みたいだね』


『えー、わたしには拍手喝采してるように見えるよ』


 雪也が微笑む。


『來夢らしいね』


 雪也……。

 

 窓から朝日が差し込んだ。




 将樹に電話で男の話をすると、絶対にひとりで男に接触するなと何度も念を押してくる。


「大丈夫だよ、わたしその男の趣味じゃないから」


『そう言われて、はいそうですかっていうと思うか』


「じゃあどうすんの?」


『俺も行く』


 確かにあの飲み屋は女ひとりで入るには、はばかられる感じで、來夢がひとりだと他の男性客たちから注目を浴びそうだった。


 将樹と一緒の方が自然で男をよく観察できるかも知れない。


 來夢は承諾した。


 その時休憩室に人が入ってきた。


「あ、また電話するね」


 來夢は電話を切ると入ってきた人と入れ違いざまに休憩室を出る。


 すぐに手の中のスマホが震えたので見ると将樹からのメッセージだった。


——絶対に1人で無茶しないように!


 來夢は短く返信する。


――分かった。

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