來夢の決意(8)
たいした意味はなかった。
会話を埋めるためになんとなく思いついただけだった。
『どうもしないよ、來夢は來夢だよ』
雪也は躊躇なく答えた。
『えー、なんともないの?』
『そりゃ働いて欲しいとかは思わないけど、そんなことで來夢と別れる方がもっといやだ。それにそうするには何か理由があるんだろ』
雪也は言った。
ああいう店で働いている女の子たちだってみんな最初の時は傷ついたはず。
もしそうじゃなかったらもっと前の最初の時、彼女らすら覚えていない最初の時に傷ついたんだ。
最初から平気な女の子なんてはいない。
そんな子たちを差別したり見下したりできないと。
『優しいね』と言うと『優しくないよ』と雪也はすぐに返した。
『優しくなろうとしてるだけ、だから僕は本当には優しい人間じゃないんだよ。本当に優しい人間はなろうとなんて意識しないもんだよ』
『そうかな、優しいかそうじゃないかは自分が決めるんじゃなくて他人が決めるものだと思う。だから他の人が雪也を優しいと思ったら雪也は優しいんだよ、それに本当とか嘘とかはないよ。わたしにとって雪也は優しい。それは真実だよ』
あの時雪也が見せた顔は今でも忘れない。
最初の戸惑った表情、そしてそれがゆっくりと穏やかな笑みに変わった。
夢から覚めるように來夢の意識が今に戻ってくる。
視線を感じた。
将樹が來夢をまっすぐに見ていた。
「彼のこと想い出してた?」
來夢が応えないでいると「そんなに好きだったか」と将樹は來夢にではなく独り言のように呟いた。
皿にチーズケーキを残したまま将樹はそろそろ行こうかと席を立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます