雪也との想い出(4)


 雪也はことあるごとに死ぬときは自殺がいいと言った。


 老衰や病死、ましてや事故死など絶対に嫌なのだと。


『一番きれいな死に方で自殺するんだ』


 自殺したら天国に行けないよ、と來夢が言うと雪也は『地獄でも來夢と一緒だったら天国だよ』と答えた。


 一人で天国に行くより來夢と一緒に地獄に落ちたほうがいい。


 雪也はキスを交わしながらそんな言葉を紡いだ。


 來夢の頭のしんがくらくらして白く霞む。


 唇と離すとため息が出た。


『月がきれいな夜の湖面にボートを浮かべてさ、2人で手を繋いで死のう』


 來夢は本気でそれも悪くないなと思った。


『最後に歌ってね』


 雪也は休みの日は家に籠って曲作りをすることが多かった。


 イラストを描くのも好きで自分の作った曲にそれらをつけてネット上にアップしていた。


 高校の時からやっていたという曲作りは結構な数にのぼり少なくないファンも付いていた。


『プロになりたいの?』と訊くと『別にプロになりたいから曲を作ってるわけじゃないよ』と雪也は答えた。


 雪也の書く歌詞は難解なものが多かった。


 分からなくて意味を訊こうとするといつもキスで誤魔化された。


 そのうち雪也にキスして欲しい時は歌詞の意味を尋ねるのがおねだりの合図になった。


 雪也はキスだけで決してそれ以上來夢の体に触れることはなかった。


 小さな点だった不安と苛立ちが滲むように膨らんでくる。


 なぜ雪也は自分を抱かないのか?


 男だったら愛している女を抱きたいと思うのが普通ではないのか。


 そうしないのは本当は愛していないからではないのか。



 気づくと來夢は雪也に抱かれることばかり考えるようになっていた。


 まるで自分が淫乱な女になったようで戸惑った。


 本来の自分はこんなではないのに、そうさせているのは雪也だ。


 いつまでも何もしてこないから自分は朝から晩までセックスのことばかり考えるようになってしまった。


 雪也に対して怒りを感じた。


 もしこのままずっとセックスレスが続くようだったら浮気してやる!衝動的に怒りが頂点に達した時、そんなことを思ったりもした。


 でもすぐにその言葉を訂正する。


 雪也じゃないと駄目なのだ。


 自分が抱かれたいのは雪也なのだ。


 他の男では駄目なのだ。


 雪也以外の男には指1本たりとも触れて欲しくない。


 夜、ベットの中で自分で自分を慰める。


 雪也の唇、声、雪也の指を想像しながら。


 上りつめた快感の後に訪れたのは虚しさだった。


 体を震わせて來夢は1人泣いた。



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