雪也との想い出(3)


 雪也に東京で再会した時、來夢は運命だと思った。


 雪也も同じように感じたようだった。


 雪也の愛の告白は独特だった。


『僕と一緒に死んで欲しい』


 キャンドルの灯りで食事をするような店でデザートを食べている時だった。


 來夢にはその言葉が何よりもロマンティックに聞こえた。


 『付き合って欲しい』とか『ずっと好きだった』などの言葉が安っぽく薄っぺらに感じた。


 手で触れなくとも雪也の真剣さが來夢には強く伝わってきた。


 そして同時に小さな不安が來夢の中に生まれた。


 雪也は自分の能力を知ったらどう思うだろうか?


 気味が悪いと思うだろうか?


 雪也の告白が取り消されたりはしまいか?


 壊れるのであれば早い方がいいかもしれない。


 そっちの方がきっと傷も浅い。


 半分はその理由、半分は雪也だったら受け入れてくれるという願いを込めて來夢は雪也に自分の手のことを話した。


『だから手袋してんだ』


 雪也はまるで、だから今日は寝癖隠すために帽子かぶってんだ、みたいな調子で來夢の告白を返した。


『気持ち悪くないの?』と尋ねると『ぜんぜん』と眉毛を上げた。


 雪也の額にうっすらと横ジワができた。


『じゃあ僕を触ってみてよ、僕の気持ちが本当かどうか分かるから』


 雪也は両手の平を來夢に差し出した。


 來夢は首を横に振った。


 十分だった。


 雪也はその時から來夢にとって1番触れたくて触れたくない人になった。


 雪也に触れるということは雪也の心を疑うということ。


 それは自分たちの関係が揺らいでいるということだった。


 そんな日は絶対に来て欲しくない。


 その後雪也の告白がただの変わった愛の告白なだけではないと分かっても、來夢の雪也への気持ちは全く揺らぐことはなかった。

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