雪也との想い出(2)


 雪也そっくりな男の写真を眺めて育ったせいか、それとも母と娘に流れる血のせいか、來夢が雪也に恋心を抱くようになるのに時間はかからなかった。


 それでも結局來夢は雪也に自分の想いを伝えることはなく、仲良くしている男子グループの男の子に告白されてそのまま付き合うことになった。


 來夢がその男子と付き合うことに雪也はなんの関心もないように見えた。


 そのとき來夢は小さく胸の内だけで失恋をした。


 どこかで少しでも雪也がショックを受ける様子を見れるとでも思ったのだろうか。


 いつもとなんら変わりのない雪也の平然とした表情に來夢は勝手に傷ついた。




 しかし來夢が地元を離れる最後の日、雪也はその後來夢の心に残る決定的な行動を起こした。


 あの日クラスの人気者だった來夢を見送りに来たクラスメイトたちで駅のホームはいっぱいだった。


 その中に雪也の姿はなかった。


 公認彼氏であった男子は人目を憚らず泣いていた。


 周りから煽られてお別れのキスをみんなの前で披露することになった。


 ほぼクラスの全員がいたのではないだろうか、雪也を除く。


 雪也への想いをホームに残し來夢は皆に手を振った。


 遠ざかっていくホームからいつまでも目が離せないでいた。


 電車が次の駅のホームに滑り込んだときだった。


 ぽつんと長い影がホームに立っていた。


 雪也だった。


 シューッと空気が漏れる音と共に電車の扉が開く。


 來夢と雪也は向き合った。


 雪也は何も言わなかった。


 來夢も何も言わなかった。


 ただ2人は黙って見つめ合った。


 何も語らないことが全てを語っていた。


 それで充分だった。


 來夢が抱き続けていた雪也への淡い恋心はその瞬間に成就し、そして同時に終わった。


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