ep6.寝相の悪さと夢の話。そしてメロウシティへ到着です!
くはー くはー
大きな、林檎がモチーフであろう赤くて丸いベットで、緑色の枕に足を乗せ大の字になりながら、マルルは眠っている。ミズネの口から白いネグリジェを出して着替えたかと思うとまさに、こてん、と眠ってしまったのだ。それにしても寝相が悪い。ネグリジェはお腹の上までまくれ上がり、可愛いおへそとピンクのちょうちんパンツが丸みえだ。けれど赤頭巾だけはかぶったまま、そんなに大事なものなのだろうか?
ミズネもベット横のサイドテーブルの上で、小さな毛糸の寝床で大の字になって眠っている。まったく、二人ともまるで緊張感がない。私が悪者だったらどうするのだ。
私は窓際の青い椅子に座り、ガラスの向うを見つめた。
夜明けが近いのか、ラベンダーや群青が混ざったような空を、同じ色に染まった雲が流れてゆく。流れ星はもう見えなくなっていて、混沌とした未来を占っているかのように思えた。
けれど美しい。
このガラスの飛行船も、それに映るこの空の色もー。
もし夢を形に変えたならば、こんなに美しい世界なのかもしれない。
そう思うと、また少し胸がちくりとした。
私は確かにこんな美しい夢を、見ていたはずなのだ。
いつか、までは……。
けれど、いつしかそれが恐怖や概念に囚われ始めると、いとも簡単に諦めと言うゴミ箱に捨ててしまったのだ。一度ゴミ箱に捨てたものを取り出しても、もうこんなに美しくはいられないのではないだろうか。
そんな私に、助けることができる?
さっき見た、絵画に閉じ込められた王子様を思い出しながらいつしか、うとうとと眠りに落ちていった。
***
『メトロポリタン・メロウシティまで、あと10分ほどで到着いたします。忘れ物などがないようにお気をつけ下さいませ…なお、ガラス気球内では観光バス、電車のチケットも販売しておりますので…』
「……っ!」
アナウンスの声で目が覚める。
『ヨダレ垂らしてんぞ、きったねぇなぁ』
するとすかさずミズネがそう言った。
「……うるさいわね、あんただってでぶっとしたお腹丸出しで寝てたわよ」
腕で涎を拭きながらそう言い返すと、『うるせーやい、その二の腕に言われたくないね』と、なんとまぁ憎たらしい事を言ってきて、私の目は完全に覚め、椅子から立ち上がりミズネを追いかけた。ミズネは楽しそうに逃げている。
「今度そんなこと言ったらスープに入れてあげるんだから!」
「おい、遊んでないでもう降りる仕度をしろよ。歯磨いたか。洗面所でハミガキも洗面も……できますわよ」
マルルがすっかり元の黒ワンピース姿で、洗面所から出てきた。
「あ、おはようマルル。あの…っていうか、私が日本人だからって、わざわざ時々いろんなパターンの日本語入れなくても…」
「……でも、この子いろんな日本語使えるんだ、すごーいって思わなかったか?はっきり言って、こっそり私の博学さを自慢していただけだ。気づいていたのならばそれでよい。満足だからもう言わない」
「……ああ、さいでしたか……」
この飼い主にあのペットあり。
私が洗面と歯磨きを終え洗面所から出てくると、すっかり朝が来た明るいガラスの向うに、とんでもなく大きな街が見えていた。
「うわーっ!すごーい!!」
それは宝石箱のようにキラキラした都市だった。
色とりどりのビルや家、それも地球のように四角ばかりではない。まず黄色とオレンジと青の大きな風船型のビルが目に止まった。次に虹色の螺旋状の高いビル、宝石ような輝く蝶が縦に連なったビル、それから遠くに見える巨大な、たぶん猫と犬の像、は、機械なのか規則正しく動いている。そして空に道路があるかのようにたくさん飛ぶ気球や飛行船ー。
「メロウシティに到着だ!さあ、私の仲間に会いに行こう!」
頬をピンクに染めガラスに張り付いている私に向かい、マルルはそう言った。
「仲間?」
「うん、私と同じ護衛の者が先にこちらへ来ているのだ。犯人は恐らく、このメロウシティに潜伏していると思われるのでな!」
「えっ!そうなのっ」
「……三日後、この街で開かれる闇のオークションに三つの秘宝の中の一つ、”定規”が出品される事を嗅ぎつけたのだ。わざわざ王の秘宝をそんなオークションに出品するなど……犯人は愉快犯の可能性が高い」
「愉快犯って、そんな…それじゃあただの遊びってこと?王子様を絵に閉じ込めたのも、大事なものを盗んだのも」
「まあ、まだわからんがな」
「さあ、早く降りよう」とマルルが言って、私達は足早に部屋を出た。
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