ep3.赤頭巾ちゃんが可愛すぎて困ります。あと、ガラス気球がすっごく綺麗です!


 マルルが胸元から赤くて細長い石のネックレスを引っ張り出すと、よく見たら左の方に突き出ている石版にそれを翳した。すると石板に、蓮の花のような幾何学模様が浮かび上がり、それから今度は古代文字らしきものが浮かび上がった。マルルはそれを読んでいるようだ。それから腕時計を見る仕草をして、


「よし、あと十二分後に到着するぞ、急ごう」


 と言って、小走りで歩き出した。黒いスカートがひらひら揺れる。

 

「あ、ちょっと待ってよう」


 彼女の足が早いのでこっちは走らなければいけない。

 美術館に行くというのでちょっとはお洒落していたのだ。スカートの部分に所々水色の入ったノースリーブのフレアワンピースに、赤いパンプスという出で立ちだ。パリジェンヌを意識していたのだ。しかし今、猛烈にジャージとスニーカーが恋しい。

 カツカツヒールを鳴らしながら、巨大なクリスタルの像の間を通り抜けていく。


(わぁ……きれい……)


 見上げると、その透き通った大きな像はとても美しく、夜空の色とりどりの流れ星が映っては、更にその美しさを増していた。見とれてしまい、通り過ぎてもまだ振り返ってまで見ていた。


「そこ階段になってるからなー!」


 マルルの声が聞こえて、はっとして前を向く。「ひゃあ!」あと二メートル先に階段があった。水色のレンガの階段だ。もう少しで勢いよく転がり落ちるところだった。きっとこの下はプラットホームになっているのね。


「よしあと三分だ。ちょうど良かったな」

「ハァハァ……はや……い……」


 思ったよりも百倍長い階段だった……。息が切れる。

 しかしやっぱり、プラットホームだった。けれど線路がない。

 所々に観葉植物のような電気が光っていて、マルルの立っている場所に3と書いてあり、線路がないだけであとは地球の駅と変わらないけれど…ガラス気球と言ってたから、気球の駅なのだろうか。


「なんだー?人間は体力がないでござるなー」


 マルルがそう言って、腕を組みにやりとした。

 初めて近くでちゃんと顔を見たけれど、パッツン前髪に頬のあたりで毛先がくるんとカールしたブロンドの髪の毛にお人形のような青い瞳と白い肌、それに赤頭巾がよく似合っている。可愛い。まさに赤頭巾ちゃん。年齢は小学3年生くらい?透けているブーツと手袋から見える手と足がまだ小さくて可愛い。そしてわざわざ、どこで覚えたんだ?って感じの日本語ちょいちょい入れてくるところが可愛い。可愛い。可愛い~~~。ぎゅっとしたい!これが母性!?


「な、なんだ、気持ち悪いな、なにをじろじろ見ている……んだざます」


 マルルが頬をピンクにしてちょっと動揺していると、肩のネズミが叫んだ。


『変態!変態!』


「変態違うわ!」


 (くぅ、本当に憎たらしいネズミね、後で串焼きにしてやろうかしら。)


「あ、来たぞ」


 その時、遠くの方から何か音が聞こえそちらを振り向いた。


「わ、わあ……」


 それは遠くの空から、徐々にこちらへ近づいてきた。

 

 ガラスでできた何個もの気球、それが幾つもの通路で繋がっている、城のような乗り物が。 


「な、なんて素敵なの……!」


 私は暗闇から現れた、輝くその気球のお城を、ただ呆然と見つめていた。衝撃と興奮と感激が津波のように胸に溢れて、言葉も出ないのだ。

 徐々にこちらへ近づいてくると、乗っているたくさんの人影も見えてきた。


 ぽっぽーーーーー!!


 大きな音を鳴らしながら、ガラス気球が目の前まで来ては徐々に下降する。


「す、すご……」

「すごいだろう。全部本物のガラスでできているんだ。グリーンという鉱石を研磨したガラスでね。一機に14の気球が使われているのだ。火航ひこうという柔らかな石を炭にしてそれを燃やして飛んでいるのだ。とんでもないエネルギーのある石でね…」

『三番線~三番線ご乗車下さい。ご乗車下さい』

「さ、乗り込もう!」

「う、うん」


 入り口のドアがゆっくりと前に倒れ、私達はガラス気球に乗り込んだ。






 


 

 



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