ep2. はじまりの神殿


「はっ はっ」


 なんだったんだ、今のは。

 体がスパゲッティのように伸びたかと思ったら、ジェットコースターなんかよりずっと早く暗闇とスプラッシュな光線の中を移動して、今、今、ここどこ!?


「ひっ鳥人間ー!」


 まず目に飛び込んできたのは、もの凄く大きなクリスタルの像。

 頭が人間で、体が孔雀、そして手がライオンのような……。

 それが二体、青白く光り輝き立っているのである。

 それを見上げた先は夜空、そこには無数の流れ星が流れ、それは色とりどりで、さっきのスプラッシュ光線を連想させ少し吐き気をもよおした。

 それから地面にはクリスタルの像と同じように、緑や桃色やオレンジや黄色の、色のついた透明な、飴細工のような草花が生えていて、赤いパンプスを履いた足を少しだけ動かすと、シャラランという音と共に脆く崩れ、それはやがて胞子のようにきらきらと舞い上がった。


 それから、果たして自分は生きているのかを確認する。

 上がる呼吸を整えながら、まず手の平を見て、それから腕、肩、顔を触った。

 

「い、生きてる、多分」


 どうやら生きている、ちゃんと生きているようだ、多分。

 体温はしっかり感じる。 


「あー」


 声も出してみた。 

 ちゃんと出る。


「ふふふ」


 それから首筋を自分でこちょがしてみた。

 案の定笑えなかったから無理矢理笑ったけどちょっとだけ現実逃避ができた。


 現実逃避、そう、これが現実なのだから、受け入れるには少しばかり時間がかるでしょう。落ち着いて、深呼吸して、まずどうして私はこんな場所にいるのでしょうか……。


 ……ネズミ……。

 

 そう、そうだ、思い出した、あのネズミ、あの変なネズミのせいだ。

 たしか最後にあのネズミ、「ひっかかったな」とかほざいてた。

 そんな憎たらしい台詞を吐いたあと、あの小さな手で私に何かを投げつけてきた、そしたらスパゲッティーになって、あの画の中に~~~。く~~~っ私ったら、あのネズミにハメられたのね!!


「もしもーし」


「まずはあのとんでもネズミを捕まえなきゃ!きっといるはずよね!」


「もしもーーーし」


「どこっどこなのっ!」


 きっとあの像の先、そんな気がする、いやきっとあそこにいるはずよ!

 私は全力で走り出した。


「おい、ちょっと、ちょっと待て!!」


 鳥人間の像の側まで走ったその時、その二体の像の顔がこちらを向いた。


「ひっ!!」


 私は息が止まり、立ち止まると、目だけを動かし左右のその顔を見た。

 ダビデ像のようなその顔は、あからさまに怒ったような顔をしている。

 おまけに透明だった目の部分が、徐々に赤くなり出してしまった。

 やばい、これは非常にやばい、と本能が告げている。


「か、カミサマ……」

「神に祈っている場合か!なんて馬鹿な人間なんだ!!」

「へ……?」


 その時、見知らぬ者が私をひょいと担いで、百メートルは後ろに飛んだ。

 

「きゃーっ」


 その瞬間、鳥人間の目から赤い光線が出て、地面にあった草花が一斉に壊れ、しゃらららららん、と大きな音と共にそこら一帯、真っ白になってしまった。


 (だ、誰?)

 高速で動く心臓が痛い。


「人間はここから先通る事はできないのだ。呼んでいたにも関わらず走り出すとは……間抜けか」

「え……呼んでました……っけ」


 その人はどさりと私を地面に降ろし、ひきつり笑いをしている間抜け顔を見てから、「こいつで大丈夫だろうか」と呟いた。 


 目の前に立っているのは、赤い頭巾を被った、黒いワンピースと膝までの透明なブーツに肘までの透明な手袋を身に纏った女の子ー。

 って、女の子でさっきの身体能力!? 

 やはり人に見えて人ではないのか。


「あ、あなたは……一体……」


 そういうと、その小さな女の子は言った。


「あっちは王の護衛の一人、マルルでござんす。おぬしはジャポンという国の幼女、アカリということはすでに知っている。説明は無用!」


 え……。


 え……っと……。


 どうしようかな、なんかちょっとづつ何かが間違っているような気がするんだけど……訂正したほうがいいのかな。でもあのおっきくて漆黒で真っ直ぐな瞳は凄く真剣なようだし、わざわざ日本っぽく喋ってくれてるし……。


「な、なんで知ってるんですか?私のこと」


 まぁいいや。乗っかれ。


「それはあっちがおぬしを選んだからだ」

「選んだ?」

「そうだ。リサーチ、事前調査、というやつでな」


 その時、マルルの肩に、チョロりとネズミが姿を現した。


「あ!バカネズミ!!」


 指を指してそう言うと、ネズミは手を口に当てて、

 

『シシシ、ちょろい人間だったぜ』


 と言い、私は目を疑った。


「あっちのペットは有能なのだ。今回もきちんと指令を果たしてくれた。後で溶けたチーズをやろう」

『溶けたチーズぅ!?嬉しいです、マルル様ぁ』


 そう言ってネズミはマルルの頬にスリスリしている。くっ。


「さて、細かい話は後だ。ここはメロウシティへの入り口、はじまりの神殿エミューダ。パスがなければ通れない、ガラス気球の駅なのだ。まずはガラス気球に乗り、メトロポリタン・メロウシティへ、いざ行かん!!」


 



 














 




 


 

 

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