第9話 依頼の達成と身代わり?


 アヴラムが持ってきた素材が、これまでギルドに登録されていない新素材だということで、一騒ぎになってしまった。しかしアヴラムの名前で登録することは、所属している場所を公開するということであり、その事で聖騎士団から嫌がらせをされる可能性が考えられるので断った。

 しかし誰かがギルドに登録をしないことには、新素材として認められることは無いので解決策を見出ださなければいけない。

 三人で話し合うもなかなか良いアイデアが思い浮かばないので、それならばとルインが思い出したことをアヴラムに聞く。


■■■


「そういえば依頼の方はどうしましょうか? 依頼の品であるゴブリンの角は十本しかなかったので、依頼達成にならないんですけど……」


「えっ!? ならあの新素材とやらでなんとかならないんですか?」


「依頼主が了承すればなんとかなるとは思いますけど勿体無いですよ! 質が上などころか素材としての価値が遥かに上と思われるのに、それをタダ同然で納品するなんて──もったいなさ過ぎます!」


 ルインが必死に説得するように迫ってくる。

 自分にとっては必要ないものなので、一向に構わないのだが、ここまで言われてしまうと断念せざるを得ない。


「ではもう一度取ってくるしか無いんでしょうか?」


 確かに依頼を受けたにも関わらず、同じ角でも別名の物をを持ってきた以上は、どうにかしてゴブリンの角を集めてこなければいけないだろう。


「そうですね……それでも良いですが残りは普通に仕入れてみてはどうですか?」


「そうしたいとは思うのですが、先ほど市場を見てもどこにも売ってなかったんですが……」


 市場で普通に仕入れられなかったから、わざわざ街の外にまで行き、ゴブリンから直接回収してこなければいけなかったのだ。

 ゴブリンの素材どころか、他の魔物の素材も市場に出回っていなかったので、『これでは魔物を倒せなければ誰も依頼を達成できないのではないのか?』と聞こうと思っていたぐらいである。


「もしかして普通に外に出てる市場を見て回ったのではないですよね?」


 ルインはまさかといった表情で聞いてくる。


「えっ! 普通はそうするのではないのですか?」


「はぁー、そうでした……アヴラムさんは商業系の仕事は初めてなのでしたね。この仕事をしている人にとっては常識なのですが…………」


 ルインが説明してくれた話によると、普通の市場に出回るものはギルドに納められなかった物か加工されずに余ったものなどで、仕入れには向かないらしい。

 そしてそもそも魔物の素材が出回ることすらも少ないとのことで、魔物の素材が欲しいときに仕入れに使うルートは主に2つだそうだ。


 一つは冒険者ギルドからで、これが直接手に入れてくれるので最も確実らしい。だが魔物の討伐を行う為の費用もかかるので費用が高く付くし、それなら依頼者が直接的に冒険者ギルドに頼めば良い。

 商業ギルドに頼んでくる場合はもう一つのルートで、冒険者ギルドから素材を直接仕入れる契約を結んでいる業者から買い付けるという方法だ。


 ギルドは冒険者から仕入れた素材を特定の業者に安く素材を納めて、逆に業者から優先的に加工されたアイテムを仕入れる相互契約を結んでいる。なのでその特定の業者を探して取引することで、冒険者ギルドに直接頼むより遥かに安く素材を手に入れられるそうだ。

 依頼者が直接買い付けに行けばいいのではないかと思うかも知れないが、どこの業者に目当ての品物があるのかは分からないので、探す労力を省く為に商業ギルドに代行して集めてもらう依頼をか掛けているそうだ。


 業者がギルドから安く素材を仕入れて、他の人に売りつけるのは横流しではないのかとも思うが、冒険者ギルドとしてはしっかりと要求したアイテムを毎月納めてくれれば問題ないという見解らしい。

 それぐらいの旨味を用意しなければ、貴重なアイテムを商会からギルドが買えない可能性も出てくるので、容認せざるを得ないのだ。


 しかしこういう事情があるならば、依頼を受けた時に教えて欲しいものである。


■■■


 [ゴブリンの角]を買うためには特定の業者を見つけさえすれば良いとのことなので、早速行くことにしよう。

 特定の業者とやらは、大概アイテムの作製も担っている商会だろうから、街を見渡しただけで見当がつくので、意気揚々と部屋から出ようとすると。


「ちょっと待ってください! もう一つ提案があります!」


 そういえば新素材の登録の件をどうしようか話していたのだった。ということで話してくれたもう一つの提案の内容は、#従者__サポーター__#として奴隷を雇ってはどうかという話だった。

 そしてその従者をギルドに登録し、その名前を使って新素材登録してはどうかと。


 デミスが遠くで『それだっ!』と言っているが、確かに聖騎士団では禁止されていたから失念していたが、この世界では亜人と犯罪者の奴隷は合法とされているのでそういう手もあるのだろう。

 街にそういう場所があることは知っていたが、これまで近づくことのなかった場所だ。


 アヴラムは『実際に見て検討します……』と言い残しギルドの外へ出た。

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