第7話 ギルドとの契約と依頼


──アヴラムがフェブラの街にやって来てから、一夜が明けた。



 毎朝の鍛練を終えて朝食を食べていると、#亭主__プラトン__#がやってきたので雑談をする。


「お前さん、今日はどうするんだい?」


「うーん……とりあえず何か仕事を探したいですかね」


「冒険者ギルドに行くのではないのか?」


「そうですね、昨日も言いましたが冒険者ギルドには行かないですよ」


 冒険者ギルドはその役割上、聖騎士団と深い関わりあいを持っている。なので何か嫌がらせを張り巡らされているかもしれない。冒険者ギルドに加入するにしても後で偵察をして、様子を見てからにしておきたいのだ。


「へぇー、それなら商業ギルドか市民ギルドで仕事を斡旋してもらうのが良いかな」


「えっと、ギルドを介さないで働くことは出来ないんですか?」


「そりゃ、商売をしている奴は必ずと言って良いほど商業ギルドに登録しているからな」


「このお店もですか?」


「当然! 他に何か仕事を誰かに頼みたい時は市民ギルドに頼むし、ギルドを通さずに働くことは難しいぞ」


「へぇー、そういう仕組みになっているんですね」


「普通の奴は知ってること何だがな。まぁ簡単に説明するとだな……」


 ということで亭主にギルドについて説明してもらった。


■■■□□□

 ギルドは4種類系統に分けられて、[スペード]、[ダイヤ]、[クローバー]、[ハート]の称号を与えられている。


 魔物を倒す冒険者[スペード]、商業をする商業ギルドは[ダイヤ]、人助けなどをする市民ギルドは[クローバー]、そして教会の依頼を行う聖騎士ギルドは[ハート]の称号を掲げているのだ。


 そして冒険者ギルドに行かないのであれば、[ダイヤ]を掲げた商業ギルドを勧められる。


 アヴラムは聖騎士団に繋がりがあるギルドは避けたいので、出来れば[ダイヤ]だけを掲げるギルドで、間違っても[ハート]を掲げた聖騎士ギルドには近付かないようにしなければいけない。


 ちなみに複数の称号を掲げている場合は、メインで行っている業務で、○○ギルドと称すことになるが、大体はハート>スペード>ダイヤ>クローバーの順がギルドとしての格なので、上の格の称号を名乗ることが殆んどである。

■■■□□□


「分かりました、では商業ギルドを探してみます」


「まぁ、待て。闇雲に探すのも大変だろう? 俺の知っているギルドの場所を教えてやるから、そこに行ってみな」


「本当ですか! それは助かります!」


 亭主に感謝しつつ場所を教えて貰い、食事を終えた所でその商業ギルド[クリフォート]に向かった。


■■■


 ギルド[クリフォート]はダイヤとクローバーを掲げていてハートを掲げていないので、聖騎士団との繋がりは無いはずであり、理想的なギルドに思われる。それに宿の亭主に聞いて教えてもらったギルドなので、悪い所ではないだろう。

 さっそくギルドの中に入り、受付を済ませることにした。


「すみません、仕事を受けたいのですが」


「えっと、ここに来られるのは初めてですよね? まずはギルドカードを見せて頂けますか?」


「え! ギルドカードが無ければ仕事が出来ないのですか?」


「もちろんです。ギルドに登録を終えていない方に仕事を斡旋することはできません。ギルドの信用に関わりますからね」


「へぇー、そうなんですか……」


 仕事を受けるためにはギルドとの契約をしなければいけないそうなのだが、ギルドのアーカイブに個人情報を登録すると、自分の居場所が漏れ伝わる可能性があるので避けたい。


「ギルドに登録をするつもりはないのですか?」


「うーん、まだ今後どうすべきか決めてないので今はまだ……」


「そうですか……それなら別の方法もありますよ」


 話を聞くと、保証金として金貨十枚を預ければ仕事が受けられる制度があるそうだ。それならばと簡易登録だけ済ませ、とりあえずはお試し契約を結ぶことにした。


 無事に仕事を受けられることになったとは言っても、念には念をを入れて行動をしておきたい。

 ギルドに入った時に別におかしな空気が流れることはなかったので、聖騎士団から嫌がらせがされているかもというのは杞憂に終わったのだが、それは今後を保証するものでは無いのだ。


 ちなみに受付で聞くところによると、保証金の金貨十枚はギルド都合で失敗した際の依頼の解約金で、特段高く設定している訳ではないらしい。預けたお金で保証できる依頼の分だけ一度に依頼を受けることが出来るという仕組みなので、『もっと預けてみますか?』と聞かれるが、まずは小手調べということで金貨十枚だけに留め、登録作業に移った。


■■■


 ギルドとの仮契約は書類上の簡易なものだけだったので数分で終わり、情報が登録されたカードを渡される。


――――――――――――――――――――

名前:[アヴラム]

ランク:[G]

称号:[仮契約]

所属:[無し]

――――――――――――――――――――


 簡易的なものだが、紛失すると預けたお金が帰ってこないらしいので気を付けなければいけない。

 しかしこれで仕事を受けることが出来るようになったので、早速どんな仕事があるのか探していく。


……結論から言うと、どれが自分に出来る仕事なのか分からなかった。


 依頼を受け付ける場合は、掲示板に貼り出された依頼の中から自分に適したものを探すので、しばらく掲示されている依頼を見ていたのだが、貼り出された依頼内容を見ただけでは自分に何が出来るのかが分からない。

 これまで魔物を倒すことに特化した生活を送ってきたので、ここにあるどの依頼も畑違いであり、何から手をつけて良いのかが全くわからないのだ。商人のようなことどころか、普通の買い物の経験すら殆んど無かったので当然と言えば当然である。

 仕方がないので、ここまでなるべく印象に残らないよう避けておいたのだが、素直に受付の人に聞いてみることにした。


 仮契約のギルドカードで仕事をする人はかなり珍しいようなので、なるべく目立たず顔を覚えられないように受付の人との会話も最小限にしたかったが、そうも言ってられない。

 それでもわざわざ余計な人にまで仮契約で依頼を受けているのを知られる必要も無いので、先程ギルドへの仮契約をやってくれた受付嬢のルインの元に行く。


 決して銀髪で蒼目がキレイだからとかそういうやましい気持ちではない……。


 受付に向かうと、ルインの方からこちらに気付いてくれた。


「あら先程の方ですね? どうかされましたか?」


「えっと、自分にはどの依頼を受けてみれば良いか分からなくて」


「そうですか……では、一緒に探してみましょう」


 ということで、どの依頼を受ければ良いのか、ルインが一緒に考えてくれることになった。

 初めは自分のことを仮契約をしなければいけない訳ありの人ということで、ルインは初めは遠慮しがちだったのだが、話しているうちに『悪い人ではなさそうなので良かった』と言ってくれて、直ぐに打ち解けれた。

 ギルドに入ってきた時は警戒していたこともあり、変なやつかもって思うのも仕方がないだろう。なので心の中でごめんなさいと謝った。


 しばらくルインに、自分が何が出来るのかあれこれと聞かれて、考えた末にルインが選んだ仕事はこれだ。


――――――――――――――――――――

依頼:[ゴブリンの角の仕入れ]

[ランク:E][期限:今週中]


討伐難易度より、ドロップのしにくさから、ランクCに分類される[ゴブリンの角]を20本仕入れて欲しい。

本数は品質が上の物のみとする。


[ゴブリンの小さな角]と間違えた場合は報酬は支払わないので注意すること!

――――――――――――――――――――


 魔物の知識があるという点からこの依頼を持ってきてくれたらしい。

 素材のランクがCなのに依頼ランクが低いのは、売っていればお金を払えば普通に入手出来るからなのなのだろう。

 ランクが低い依頼を選んでくれたのは、ランクGでは依頼ランクEとFしか受けることが出来ないからなのだそうだ。

 ランクGは依頼を達成したことがない人という意味で、仕事を受ける上の扱いはランクFと変わらない。そして受けられる仕事ランクは、自分のランクの2つ上までらしい。


「よく分からないですが、やってみます」


「本当は仕入れ代金は先に渡すことが出来るんですけど、仮契約だと出来ないので……因みにお金は問題ないですよね?」


 まぁ仮契約だと信用がないから仕方がない。それにゴブリンの角なら、そんなに高くないだろうから問題ないだろう。


「それで構いません。所でなんですが、必ずしも購入してくる必要はないんですよね?」


 ゴブリンは簡単に倒せるので、売っているモノを探すより倒して入手した方が楽だ。万が一仕入れに失敗した場合に備えて確認する。


「えっと……確かに特にそういう指定はないので問題ないです。でも何か問題が、例えば怪我とかされても当ギルドは責任を取れませんよ?」


「ははっ! ゴブリンで怪我するわけないじゃないですか?」


「えっ!?」


「え?」


「…………もしかしてアヴラムさんってお強いんですか? それなら冒険者ギルドの方で稼いだ方がいいと思うんですが」


 冒険者ギルドだと素材の買い取りに加えて、討伐依頼が出てればその報酬も貰えるので、まさにその通りなのだが、今は行きたくない。


「いえ、その辺は事情があるということで……」


「そうでしたね……すみません、個人の事に立ち入りすぎました。今のは無かったことにしてください」


 聞いてはいけないことを聞いてしまったと思ってルインが頭を下げてきた。


「いやそこまで重い話ではなくて、俺が気にしているだけだから大丈夫ですよ。期を見て冒険者ギルドにも行く予定ですし……」


 そう、本当にただの杞憂に終わりそうなので一度様子を伺ったら冒険者ギルドに行く予定だ。

 それに今日、商業ギルドの依頼を見て分かったのだが、自分には魔物を倒す以外は能が無いみたいだ。


「そうですか……では本当はただの仕入れなのでこんなことを言う必要はないのですが、無事を願っています。お気を付けて行ってきて下さい」


「ありがとうございます」


 知らないことばかりなので色々と戸惑ったが、ルインの協力を得てなんとか自分に合うであろう依頼を受付ることが出来た。

 別に買い集めなくても刈って集めても良いらしいので気楽なものだ。


──まぁゴブリンの角ぐらいなんとかなるだろう。



 こうしてアヴラムは難しいことは考えず、ギルドを飛び出したのであった。

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