第77話 空太の気持ち 1
「良かったね旭ちゃん。風見君と、ちゃんと仲直りできたんだ」
「仲直り、なのかなあ?元々喧嘩してたわけでもないんだけどね」
昼休み。いつものように琴音ちゃんと一緒に中庭のベンチに腰かけて昼食をとりながら、アタシは昨日から今日にかけて起きたことの報告をしていた。
一時は本当に壮一との関係が完全に壊れるものと覚悟していたけど、そんなことはなくて。正直ホッとしていることを告げる。
「もしかして、琴音ちゃんはこうなるって分かってたの?だからあんな強引な手を使ったんじゃ?」
「さあ、どうかな?」
イタズラっぽく笑う様に、こりゃ確信犯だと苦笑する。
「でもよかった。ちゃんと話してくれて。でなきゃ本当に風見君に旭ちゃんと空太君の事を教えて、無理にでも動いてもらわなきゃいけなかったよ」
「それだけは本当に止めて。いきなりあんなことされたって聞いたら、壮一なにするか分からないもの」
この一件で、壮一が腹に色んな物を抱えている奴だって事が分かった。もしキスされたなんて知ったら、いったいどんな行動をとるか?もしかしたら空太を締め上げて落とし前をつけるなんて言うかもしれない。
「まあそれはそれで構わないか」
「え、何の話?」
「ちょっと空太のことを考えてね。あいつ、いっぺん痛い目見て反省すればいいのにって思って」
壮一の事は決着がついたけど、空太の事はまだ未解決。でもね、人に告白紛いの事をしておいて他の子といちゃついてた昨日の事を、まだ許した訳じゃないから。
イライラしながら、パックのカフェオレに口をつける。
「もう空太は放っておいてもいいかな。あれは一時期の気の迷いかもしれないし。少しすれば他の子に目がいくかもだし」
「旭ちゃん、空太君のことになるととたんに厳しくなるね」
そんなこと無いと思うけどな。だけど琴音ちゃんは、そうとは思っていないようだ。
「厳しくなるのは、やっぱり望む物が多いから?」
「どういうこと?」
「空太君を独り占めしたいから、他の子と仲良くするのが許せないってことだよ」
ぶはっ!
飲んでいたカフェオレを吹き出しかけた。いきなり何を言い出すかなあ!?
「な、何言ってるの?それじゃあまるでアタシが、空太にヤキモチ焼いてるみたいじゃない」
「違うの?」
「断じて!」
いったいどうしてそんな誤解をしたのだろう?
そういえば昨日壮一も、アタシが空太と仲が良いって言ってたっけ?旗から見れば、そんな風に映るのかなあ?
「私ね、最初旭ちゃんは、風見君を好きなんだと思ってた。でも今は……空太君のこと、意識していない?」
「そんなわけ無いじゃない」
「そう?じゃあ例えば、空太君が誰かと付き合うことになっちゃったら、それでも平気?」
「それは……」
おかしいな。平気と即答できない。それになんだか、胸の辺りがチクッととする。
何で?相手は空太なのに?
考えてみても答えがでなくて、頭をモヤモヤさせていると……
「鳥さん牧さん、早く来るのです」
「「はい、御門様!」」
聞き覚えのある声と共に、校舎から出てくる人影が三つ。ああ、御門さん達だ。
三人は何だか慌てた様子で時々後ろを振り返りながら、こっちへ向かって走ってくる。
「早く逃げないと追い付かれますわよ。まったく、なんたって私がこのようなことに。これも全てあの春乃宮さんのせいですわ」
「何?アタシがどうかした?」
「ななっ!?」
よほど慌てていたのか、いつもなら目の敵にしているアタシに気づいていなかったらしい。突然声をかけられた御門さんは、ビックリして足を止めている。
「春乃宮さん、どうしてここに?生憎ですが、今私はアナタに構っている暇はございませんの」
普段はどんなに嫌がっても絡んでくるのに、これは珍しい。別にこっちも用なんて無いから良いんだけどさ、何をそんなに慌てているのだろう?
すると、琴音ちゃんも同じことを思ったようだ。
「鳥さん牧さん、いったい何があったの?ずいぶん急いでるみたいだけど」
「よくぞ聞いてくださいました倉田さん!」
「私達は今、罰掃除から逃げている最中なのでございます!」
ちょっと、堂々と言ってるけど、サボっちゃダメでしょ。琴音ちゃんも続く言葉が見つからずに困っている様子。
「何やってるのよ。そもそも罰掃除って、今度はいったい何をやらかしたの?」
「春乃宮さん!まるでしょっちゅう騒動を起こしているみたいな言い方は止めてください!」
そんなこと言われても事実だし。
「だいたい、こうなったのも全てアナタのせいですわよ!」
えっ、アタシ?そう言えばさっきもそんなことを言ってた気がするけど。
首を傾げていると、鳥さんと牧さんがそれを察してくれる。
「ほら、この前のあれですよ。私たちが風見さんと倉田さんを体育館倉庫に閉じ込めた」
「その事が先生にバレてしまい、こっ酷く怒られてしまったのです」
ため息をつく鳥さんと牧さん。しかし。
「そりゃ怒られるよ!アタシだってまだ怒ってるんだから。」
「私も風見君も、すっごく大変だったんだから!」
「「その節は本当に申し訳ございませんでした!」」
深々と頭を下げる二人。しかし、全く反省してない人が一人。
「お二人とも、鳥さんと牧さんをあんまり責めないでくれませんか」
「諸悪の根元が何を言ってるの?さっきはアタシが悪いみたいなことを言ってたけど、御門さんの自業自得じゃん」
「お黙りなさい!元々はアナタと風見さんを破局させるためにしたことですのよ。それが何ですか、好きと思ったことは一度も無いとか。傷ついた風見さんと、わたくし達の苦労はどうしてくださいますの!?」
「壮一の事はともかく、御門さんのことは知らないよ!こっちこそどうしてくれんのさっ!?」
相変わらず言っている事が無茶苦茶すぎるよ。まともに話を進めることもできないことを嘆きながら、ため息をつく。
「そういやさ、アタシってそんなに壮一を好きそうに見えてたの?仲が良かったとは思うけど、恋人だと思われてたって知った時はビックリしたんだけど」
「見えるに決まっていますわ。今でも信じられないくらいです」
「「はい。今回に限っては、珍しく御門様の言う通りです!」」
どうやらアタシは本当に、無意識のうちに思わせ振りな態度をとっていたらしい。壮一とは和解したけど、これからはやはり言動に気を付けた方がよさそうだ。
「本当にあれは仲むつまじく、見ていて羨ましかったですわ」
「よく一緒にいた日乃崎君が、可哀想になるくらいでしたもの」
「えっ、空太がどうかしたの?」
すると鳥さんと牧さんは「えっ?」っと顔を見合わせる。
「何を言っているのですか?まさかあの子がずっとアナタの事を慕っていたことに、気づいてないわけでは無いですよね?」
「それなのに近くであんなラブラブな様子を見せつけられていては、さぞ辛かったでしょう」
そうなの!?
思わぬ言葉に、胸が痛くなる。いやいや、でもそんなのは考えすぎだって。
「あ、それは私も思ってた。」
「琴音ちゃんまで……で、でも空太は、アタシが壮一を好きな訳じゃないってちゃんと知ってたんだから。親友だと思ってるって話を、何度もしてたし。だから辛くはなかったはずだよ」
「春乃宮さん、アナタそれ、本気で言ってますの?だとしたらとんだおバカさんですわね」
「なっ!?」
御門さんにバカって言われるなんて、凄く屈辱なんだけど。
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