第69話 真実を知る時 2
その時の空太の顔と来たら。『しまった』という言葉がこれほど似合う表情というのも中々無いんじゃないだろうか。けど、まさかねえ。
頭に浮かんだソレを、アタシは即座に否定する。
「ごめんごめん。よく考えたら、ちょっと言い間違えただけだよね。いくらなんでもそれは無いもの」
「……はっ?」
「さっきはビックリしたけどさ、これだけ一緒にいるのに今までそんなそぶり全然無かったんだもの。ごめん、忘れていいから。話の腰を折っちゃったけど、気にせず続けて」
ああ恥ずかしい。何を勘違いしちゃったんだろう。
気を取り直して、改めて空太の話に耳を傾けようとする。しかし等の本人はプルプルと肩を震わせながら、絞り出すように一言。
「……何それ?」
「えっ?」
「わざと?もしかしてわざと言ってるの?無いって何が?アサ姉はさっき、あの言葉をどうとらえてたの?」
「ええっ、話さなきゃいけないの?ちょっと言い難いんだけど」
「ちゃんと言って。今すぐに!」
ずいぶんと難易度の高い要求をしてくる。だけどこの様子、話さなければ許されそうにみたい。
アタシは躊躇いながら、してしまった勘違いを口に出す。
「ええと、実はね。空太がアタシの事を好きだなんて一瞬思っちゃったり……したかな。ああ、でももうそんなわけ無いって分かってるから」
これで空太も納得してくれたかな。しかし、そんなアタシの思いとは裏腹に、依然ジトッとした目で見つめるのを止めてくれない。
「そんなわけ無い……ねえ。そう思う根拠は?」
「だって絶対にあり得ないもの。あな恋でだってそんな風には発展しなかったんだし」
そこまで言ったところで、今度はアタシがしまったと口を紡ぐ。
いけない。またあな恋を並べて考えてしまっていた。ゲームとは違うってもう分かっているのに、長年染み付いた癖は中々とれるものではない。
こんな事を言って、空太は気を悪くしていないだろうか?
「なるほど、よーく分かったよ。それがアサ姉の答えってわけね」
案の定。いや、思っていた以上の冷たい視線が突き刺さる。いくらなんでもそこまで怒らなくても良いじゃないとは思うけど…。
ううん、やっぱりこれは失礼か。ちゃんと謝っておこう。
「ごめん。またあな恋と比べちゃってた。直さなくちゃいけないって思ってはいるんだけど」
「それは良いよ。もうそういう問題でもないしね。あのねアサ姉」
「なに……よ……」
返事をしようとした。
けどいきなり、その口を塞がれてしまって、声が途切れた。
「―———―—ッン!」
目を白黒させながら、何が起きたのか理解しようと、必死に頭を回転させる。
アタシは今口を塞がれている。そして塞いでいるのは、空太の口だった。つまりこれって。
――————キスされてるって事!?
でもなんでいきなり。これは事故チューか何か?いや、それにしてはやけに長いような。もしかしてキスだと思ったのはアタシの勘違いで、実際は違うとか?けど、目の前に空太の顔もあるしなあ。
冷静だか混乱しているのか自分でもよく分からない頭で必死になって考えていると、ようやく唇が離れる。
「―——―——ふぁっ!」
大きく息を吸い、脳に酸素を送る。
これって、やっぱりキス?今世でも、たぶん前世でだってしたことがないけど、間違いないと思う。ってことはこれが、一生に一度どころか、二生に一度のファーストキスってこと?
けど、何でこんな事に?
「そ、空太……」
声を震わせながら、何とか名前を呼ぶ。
空太は相変わらずずっとアタシの目を見ながら、呟くように言う。
「さっきの話だけど、これが答えだから。俺がアサ姉の事を好きだって言うのは間違いでも、勘違いでも無いから」
「じょ……」
冗談でしょ。そう言おうとして、言葉を飲み込む。いやいや、冗談では普通キスまではしない。ということは…え、本当に?
慌てるアタシを見ながら、空太は再びゆっくりと顔を近づけてくる。
またキスをする気?慌てて後ろに逃げようとしたけれど、足が動かない。
もう逃れられない。そう思って目をつむったけど予期していた柔らかな感触はやってこなかった。そのかわり。
「……どう?」
「ひぅっ!?」
ふうっと耳にくすぐったい息がかかり、空太の声が届く。どうって、何が?
「これで、理解してくれたよね。こんな展開、あな恋には無かったでしょ?」
「あ…うぅ……」
口をパクパクさせながら、声にならない声を吐き出すことしかできない。空太はそんな返事もできないアタシをどう思ったのか、笑っているようにも怒っているようにも見える様子のまま、くるりと背中を向けた。
「今日はもう先に帰るよ。アサ姉も疲れているだろうから、早く帰った方がいいよ」
そうとだけ言うと、返事も聞かずに立ち去る空太。
疲れたのは誰のせいだ。そう言ってやろうかとも思ったけど、とてもまともに喋れなかった。
空太の言っていたことは全部本当で、実はアタシの事が好きだった。
その事実を受け止めきれないアタシは呆然としたまま、日が暮れるまで体育館裏で立ち尽くしていたのだった。
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