アタシの恋
第70話 恋愛相談 1
さて、順を追って考えてみよう。
アタシ、春乃宮旭は乙女ゲーム、『あなたと紡ぐ恋』の攻略対象キャラクター、旭様のポジョンに転生した。今いるこの世界がゲームの中の世界では無いにしても、そこは間違いないだろう。今まで多少の差はあれど私の人生、概ねゲームで描かれていた通りに進んでいるのだから。
しかし、しかしだ。ここに来てゲームとは大きくかけ離れた事態が起きてしまっている。
体育祭のあった日の放課後、空太がアタシにキ……その、なんだ。せ、接吻的な事をしてきた……よね。
自分がされたことが信じられなくて、おかしな夢でも見ているのかと思ったけど、いつまで経っても一向に目は覚めないしさ。これはもういい加減、現実を受け入れなきゃダメってことなのかな?
『こんな展開、あな恋には無かったでしょ』
キスした後、去り際に空太が言った言葉を思い出す。確かに無かった。あな恋の旭様は男子だったから、もしそんな展開があってたらBLになっていた。
それはそれで見てみたいとも思うけど。もしそんなアブノーマルな隠しルートがあったなら、きっと前世のアタシは何十回とやり込んでいたことだろう。そういえば同人誌即売会ではそんな薄い本を見かけたな。お小遣いが足りなくて結局は買わなかったけど、無理をしてでも手に入れておけば良か……って、今大事なのはそこじゃないの!
1人で悶々と頭を悩ませているアタシが今いるのは、自室のベッドの上。
昨日の体育祭の振替休日で、今日は学校は休み。だけどアタシはというと、ちっとも休めていなかった。
空太はいったい何を思って、私にキスなんてしたのだろう?いや、キスすることがどういうことか、わかってない訳じゃないよ。キスシーンなんてあな恋で何度も見たし、それが何を意味しているかはわかる。その……好意を持っている的な何かがあるからしたんだよね、一般論で考えると。
普通に考えたらやっぱりそうなるだろう。だけどあの空太が、よりによってアタシに好意を持っているというのが、どうしてもピンと来ない。
そりゃアタシだって空太のことは好きだけど、それはあくまで従兄弟に向ける、言わば友情としての好きだ。昔からよく後ろを着いてきていた空太は可愛い気があって、弟のように可愛がっていた。
だから空太がアタシに向けている気持ちも、それに近いものだと信じて疑っていなかった。しかしまさか、こんなことになるだなんて。
「空太のやつ、いったいいつからそんな風に思っていたんだろう?」
ベッドの上で寝返りを打つ。こんなことをしていると服がシワになるだろうけど、そんなの気にしている場合では無い。
キスから一晩明けてもなお気持ちの整理がつかないアタシは、一人で考えることに限界を感じていた。
こんな時今までなら空太が相談に乗ってくれていたけど、振り返休日では無い空太は学校に出掛けている。
もっともそうでなかったとしても、悩みの原因である本人に相談するわけにはいかないけれど。
だったら壮一にでも相談しようか?しかし生憎、いつも家に出入りしている壮一は、今日に限ってきていない。何でも体調が優れずに、家で寝込んでいると言う話だけど。
(……もしかしてそれってアタシのせい?)
空太が言うには、壮一もずっとアタシの事が好きだったそうだけど。そんな壮一の目の前で、アタシは御門さんに何て言ったっけ?
確か……確か『壮一をそんな風に見たことは一度も無い』、『変な勘違いをするなんて恥ずかしい』だったっけかな。空太の言っていた事には未だにリアリティーを持てずにいるけど、もし本当だったとしたら。もしかしてアタシは、相当酷いことを言ったんじゃないかなあ?
そう考えると血の気が引いてくる。うん、壮一に相談すると言うのはやっぱり無しだ。壮一がアタシを好きと言うのを鵜呑みにする訳じゃないけど、さすがに気軽に声をかける気にはなれない。いったいどの面下げて接する気だ?
「どうしてこうなっちゃったのかなあ?」
思い返してみればアタシの今までやって来たことは、ことごとく上手くいっていない。少し前までは琴音ちゃんと仲違いしていたし、それが解決したとたん今度は壮一と空太の問題が出てきた。
最初はただ、壮一を幸せにするために琴音ちゃんとくっつけさせようって思っていただけだったのに、ずいぶんと拗れたものだ。
あな恋のストーリーや起きるイベントは全て熟知しているからミッションは簡単、ぬるゲーだと思っていたけど、そんな事はなかった。もしかしたらアタシのそんな心の油断が、今回の事態を招いたのかもしれない。
空太に言われてここがゲームの世界では無いって理解したつもりでいたけど、どうやらまだまだ考え方が甘かったらしい。
ああ、これからどう動けばいいのだろう。まずは空太や壮一の本当の気持ちがどこにあるのかを知りたいけれど、その為の術が分からない。
乙女ゲームの中にはメニュー画面を開いて現在の好感度を確認できるものもあるけど、あな恋はその限りではない。だいたいこれは、ゲームじゃなくて現実だし。
ああ、リアルの恋愛って難しい。そもそもアタシは、ゲームでないリアルな恋愛というものをまるで知らない。
前世の頃からその手の話とは無縁で、誰かと恋バナをしたことさえ皆無だった。
そんなアタシが一人でいくら考えたところで、この状況を打破するのは難しいような気がする。せめて誰か、恋愛のエキスパートな友達でもいれば相談できるのに。生憎そんな都合のいい友達なんて……
「まてよ……」
ガバッと上半身を起こして、じっと考える。いるかもしれない、恋愛のエキスパート……
翌日、学校にて。
「お願い琴音ちゃん。どうかポンコツなアタシに、恋愛について教えて下さい!」
「えっ、どう言うこと?旭ちゃん、まずは顔を上げて。皆見てるよ」
追い詰められたアタシは、朝から琴音ちゃんの教室に乗り込んで助けを求めたのだった。誠心誠意気持ちを込めて、きちんと土下座しながら。
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