第54話 もう一度友達に 4
グラウンドを見ると、体操着に着替えて校舎から出てきた生徒の数も大分増えてきている。
そんな中アタシは、隅っこにある木の影で日差しを避けながら、壮一と並んで立っていた。
こうして二人でいるのも久しぶりだ。以前は一緒にいるのが当たり前だったのに、今は互いに距離を測り合っている。
ちゃんと謝ろう。そう決心したアタシは壮一を探して、話をする為にここまで連れ出して来たのだけど。やっぱりいざとなると緊張してしまい、中々切り出せないでいた。
(何やってるの?こんな時にヘタレてどうする!)
心の中で自分に激を飛ばす。さあ、気合いは入れ直した。今こそ言うんだ!
覚悟を決めて、すうっと息を吸い込んだ。
「あのっ」
「ねえっ」
……声が重なってしまった。
なんてタイミングの悪い。思わず口を継ぐんで壮一を見ると、向こうもバツの悪そうな顔をしてこっちを見ている。
「何?」
「アタシは、後で良いよ。壮一こそ、何?」
出鼻を挫かれてしまっては仕方がない。気持ちを整え直すため、まずは発言を譲る。壮一の方も譲って来るかと思ったけどそんな事はなく、少しぎこちなさげに口を開いてきた。
「体調はどう?夏休みは寝込んでばかりだったけど、今日は大丈夫なの?」
「何言ってるの。もう全然平気よ」
元々仮病だったし。それに今日までの練習は問題無く出来てたんだ。今さらそんな事を心配しなくても……
(あ、違うや。壮一はそれを知らないんだった)
思えば休みが開けてからすぐに今みたいになってしまったのだ。その後もたぶん気に掛けてくれていただろうけど、まともに話せてはいなかったのだ。本当に大丈夫かどうかなんて分からないだろう。
ダメだなあ。そんな事にも気付かなかっただなんて。
「……ごめん」
気が付けばそんな声が漏れていた。壮一は驚いたみたいにアタシを見る。
「……何が?」
「色々。急に変な態度をとった事も、ずっと避けていたことも」
こうして話してみると、やはり緊張する。壮一はふうっとため息をついたかと思うと、ポンッとアタシの頭に手を置いた。
「そういう事は俺じゃなくて、倉田さんに言いなよ。彼女、ずっと気にしてるんだから」
「うん、知ってる」
知ってて何も言い出せなかった。だけど今日は違う。
壮一は頭から手を離すと、じっとアタシを見る。
「どうして急にあんな態度をとるようになったのか、何を考えているかは俺には分からない。けど、倉田さんを嫌いになった訳じゃないんだよね」
「当然よ!本当は今すぐ謝って、また仲良くできたらって思ってる。そりゃあ、虫の良い事言ってるとは思うけど」
「良いんじゃないの、それでも。ここで負い目を感じたって良いことなんて無いんだし、素直になっちゃえば。倉田さんだって同じ気持ちだよ」
「だと良いんだけど」
琴音ちゃんから愛想を尽かされてはいないとは思う。けど、絶対的な自信があるわけでは無い。もしかしから今更仲良くしたいなんて言っても迷惑なんじゃないか。そう考えると、やはりつい躊躇してしまうのだ。
けど、壮一は優しく言ってくる。
「平気だよ。あれから倉田さんが、どれだけ旭の事を気にしてたか知らないでしょ」
「琴音ちゃんが?そんなにアタシの事を気にしてくれてたの?」
「そりゃもう。毎日俺に相談してきたよ。気づかないうちに怒らせるようなことをしたんじゃないかとか、嫌われたく無いとか…って、旭?」
「うっ、うっ、琴音ちゃん……そんなにまでアタシの事を……」
ポロポロと涙が溢れてくる。悪いのはアタシなのに、まるで自分のせいみたいに思っていたんだね。涙を拭いながら嗚咽を漏らしていると、壮一はハンカチを差し出してくる。
「とりあえず拭きなよ。そんな顔してたら、話せるものも話せなくなるよ」
「うん…ありがとう」
「それで、いったい原因は何だったの?」
「それは聞かないで。言えない訳じゃないんだけど、話してもよく分からないと思うから。でも別に琴音ちゃんが何かしたって訳でも、アタシに何かあったわけでも無いの」
いくらちゃんと話をしようと決心したとはいえ、乙女ゲームの話とか、二人をくっつけようとして空回りしただなんて言えない。
「旭がそう言うならならこれ以上は聞かないけど、倉田さんとはちゃんと話せそう?きっかけが掴めないなら、俺が間に入ろうか?」
「ありがとう。でもいいの。これはアタシが何とかしなくちゃいけない事だから」
気持ちは嬉しいけど、これ以上甘えるわけにはいかない。こうして話をさせてもらったことで気持ちを吐き出すことができたし、空太にも沢山後推ししてもらった。だから今度は、アタシが頑張る番だ。
「琴音ちゃんと話してみるね。上手くできるかどうかは分からないけど」
「大丈夫だよ、旭なら。それに倉田さんも良い子だし、絶対に上手くいくって」
もう一度頭を撫でてくれる壮一。アタシは何度目になるかわからないありがとうを言いながら、それを受け入れる。
こうやって壮一の優しさに触れているとつくづく思う。やっぱり壮一の事を幸せにしたいって。
「ねえ、一つ聞いても良いかな?」
「何?」
「壮一は、琴音ちゃんの事は好き?」
「えっ?」
驚いたように目を開き、頭を撫でていた手が止まる。
「何でそんな事を?」
「何でも良いから、ちゃんと答えて。大事な事なの」
「そりゃまあ、もちろん好きだけど」
よし!
思わず心の中でガッツポーズをとる。この世界はあな恋とは違う。だけど、大まかな部分は共通している。
だから多分そうなのだろうなとは思っていたけど、聞けて良かった。やっぱり壮一は、琴音ちゃんの事が好きなのだ。
「この質問にいったい何の意味が?」
「何でもない。けど、壮一の気持ちが聞けて良かった」
「変な旭。まあ旭が笑っていてくれるのなら、俺はそれで良いんだけど」
そこまで言ったところで、チャイムの音が聞こえてきた。もう集合の時間だ。
「それじゃあ、今日はがんばろう。体育祭も、倉田さんの事も」
「もちろんよ」
アタシ達は頷き合ってグラウンドの中央へと掛けていく。さあ、体育祭の開幕である。
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