第53話 もう一度友達に 3
ついに迎えた体育祭当日。
空は雲一つ無い青空。今年は残暑が厳しいから、少しは曇ってくれていた方が良かったなと思いながら、アタシはグラウンドに出る。
照りつける日差しが、容赦無く襲ってくる。未だモヤモヤを抱えたアタシには眩しすぎるな。
「ごきげんよう春乃宮さん」
結局今日まで、壮一とも琴音ちゃんとも、ギクシャクしたままだった。
「ついにこの日がやって来ましたわね」
努力はしたよ。さっきも琴音ちゃんに、日焼け止めスプレーを貸そうと思って声をかけようとした。琴音ちゃん、肌が綺麗なのに、あんまりそういうの使おうとしないからなあ。
「お互い死力を尽くして頑張りましょう。もっとも勝つのは、わたくし達赤組ですけどね」
「「はい、その通りです、御門様!」」
けど何て言って声を掛ければ良いかと思ってモタモタしているうちに、タイミングを逃してしまった。アタシはいつも、肝心な時に思い切りが悪い。
「ちょっと!春乃宮さん!聞いてらっしゃいますの!?」
……そろそろ限界か。アタシは諦めて、御門さん達の方を見る。
まったく。この人達に絡まれては、おちおち悩む事も出来ない。
「御門さんおはよー。今日はお互い頑張ろー」
中身の無い返事だったけど、反応があった事が嬉しかったのか、御門さんは笑みを浮かべる。含みのあるような、どこか不吉な笑みだったけど。
「長年付けられなかったアナタとの決着、今日ついに付けることが出来ますわね」
「えっ?アタシ達って、そんなに何年も決着の付かない勝負なんてしてたっけ?」
「何ですってー!?」
途端に目を見開く御門さん。まるでメラメラと怒りの炎をたぎらせているようだ。けど、本当に覚えが無いんだもの。
そりゃ過去にはテニスで試合をしたり、テストの点数を見せあったりした事はあったけど、それらはちゃんと決着が付いてたし。確かアタシが勝ったかな。
だけどハテナを浮かべているのが癪に触ったのか御門さんは益々不機嫌になり、例のごとく後ろに控えていた鳥さんと牧さんも口を酸っぱくして言ってくる。
「何て事を言うんですか!御門様が独りよがりをしていたと仰りたいのですか!?」
「都合の悪い事は全てうやむやにする御門様をバカにするおつもりですか!?」
なるほど、やっぱりそう言う事だったか。何となく想像は付いてたけど、二人とも言ってやるなよ。
こんな風に恥を暴露されたら、御門さんますます不機嫌になっちゃうよ。
「鳥さん牧さん、もっと言っておやりなさい!」
えっ、良いの?相変わらず御門さんの考えていることはアタシの理解を越えている。
「まったく。アナタがそんなだから決着が長引いているのですよ。そう言えば、せっかくチームが分かれたと言うのにアナタ、わたくしと同じ競技には出られませんよね」
そうなのである。アタシも御門さんも、出場する競技で被っているものは一つと無い。
「もしかして春乃宮さん、恐れをなして逃げたのではございませんか?」
怪訝な顔をする御門さん。けど、実は大正解。アタシは逃げたのである。
本当なら御門さんがどの競技に出るかなんて分からないから逃げようがないのだけど、アタシにはあな恋の知識がある。
ここがゲームの世界でなくとも、概ねゲームで起きた出来事にそって物事が進むのは間違いない。だからゲームで御門さんがどの競技に出ていたかを考えながら、アタシはそれ以外の競技を選んだのだ。
だって壮一と琴音ちゃんのことでいっぱいいっぱいなのに、面倒事なんて増やしたくないよ。
「競技が被らなかったのは偶然だよ。出る競技が分かって無いのに、避けられるわけないでしょ」
シレッと嘘を言ってやったけど、このカラクリがバレるはずもない。御門さんは言い返すことができず、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「別に良いじゃん、チームの勝敗だけで。あ、でもくれぐれも、赤組の人達を変に煽ったりはしないこと。壮一と約束したよね、他の人を巻き込まないって」
「そんな事分かっていますわ。だいたいわたくし、人の迷惑を省みないような非常識な真似は致しません」
「えっ?」
「「えっ?」」
アタシだけでなく、鳥さんと牧さんも思わず声をもらす。無自覚って恐ろしいなあ。
「とにかくわたくしは全力で挑みますから、アナタも手を抜かないで下さいね。後で本気じゃなかったなんて言われても困りますよ」
「わかった。わかったから。続きは体育祭が終わった後にしよう。今あれこれ言っても仕方がないでしょ」
「そうですわね。ですが終わったらちゃんと聞いてもらいますわよ。わたくしの勝利宣言を!」
「りょうかいりょうかーい。ただし手短にね」
「ふふふっ、いよいよ勝利の時が訪れるのですね。今日まで長かったですわ。思い起こせば、あれは小学校の頃……」
ちょっと。続きは後でって言ったのに、何語り出してるの?長いのは今までじゃなくて御門さんの話だよ。
「あの、御門様。もうそろそろ……」
「そうしてわたくしと春乃宮さんの長きに渡る因縁が始まったのです。そしてそれから程なくして……」
「春乃宮さん、とりあえず御門様は連れていきますので、また後程」
耐えかねた鳥さんと牧さんが御門さんの手を取って引っ張って行くが、等の本人は語るのに夢中になっていてそれに気づいていない。
「ああ、ごめんね、任せちゃって」
「いえいえ、これくらい慣れています」
「伊達に長年取り巻きをやっていませんもの」
そうして御門さんを連れていってくれた鳥さんと牧さん。
二人ともたくましいなあ。アタシだったら御門さんの取り巻きなんて三日ももたないだろう。というか、もたせたくない。
まあ御門さんは特別手間がかかるにしても、誰かについてお世話するってやっぱり大変なのだろう。って、待てよ。
(その理屈で言えば壮一も、大変な想いをしてアタシの世話をしてたって事になるよね)
何も今まで考えが及ばなかった訳じゃない。旭さまではなくアタシに付き合ってくれる……いや、立場上付き合わざるを得ない壮一を大変に思った事はもちろんある。
だからせめて、できる限りの感謝の意は示したいって思っていた。けど、今のアタシはどうだろう?
勝手に迷惑かけて、謝ることも出来ないままだ。
(やっぱり、体育祭が始まる前に謝らなきゃ)
もう先伸ばしにしたくはない。壮一、白組のテントの所にいるかな?今度こそちゃんと話さなきゃ。
開始までもうあまり時間が無い。アタシは決意を胸に駆け出した。
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