第42話 桜花祭の結末 3
桜花祭も無事に終わって、時刻は夜の9時になろうという頃。アタシは自宅の自分の部屋で、空太と二人して会議を開いていた。
「って、会議って何?俺明日学校があるんだけど」
振り替え休日があるアタシ達と違って、中等部の空太は休みではない。だけどゴメン、どうしても知恵を借りたいの。
「お願いだから協力して。今夜は泊まっていっていいから。緊急事態かもしれないの」
「そこまで言うのならとりあえず話は聞くけど、いったい何があったって言うの?」
よくぞ聞いてくれました。
今まで割りと順調に進んでいると思われていた『壮一×琴音ちゃんラブラブ大作戦』。しかし今日、ちょっとおかしな事が起きてしまったのだ。
「桜花祭が終わった後、琴音ちゃんと一番好感度が高いキャラが教室で会うって話はしたよね。 けど、あんたも見たでしょ。舞台となる教室に、誰も来なかったのを」
もしかしたらアタシ達が教室を出た後で、少し遅れて誰かが来たのかもとも思ったけど。しばらく残って隠れていた空太の話だと、やはりそのようなことはなかったっていうし。今までほぼほぼゲーム通りに進んできた今世において、これはイレギュラーと言っていい。
「ひょっとして、攻略対象キャラ全員の好感度があまり高くなかったとか?だから問題の場面がきても何も起きなかったんじゃないの?」
流石空太。アタシのあな恋話についていく為に多数の乙女ゲームをプレイさせただけあって、 ゲームシステムを踏まえた推理を展開させてくれる。しかし。
「たぶんそれはないわね。アタシの知る限りでは例え全員の好感度が低くても、誰かしら教室を訪れることになっているはずだから。前世で何パターンもゲームを繰り返してきたけど、誰も来なかった事なんて無かったわ」
件のイベントは好感度の数字ではなく、各キャラクターの順位が関係してくる。もし仮に好感度一位が複数いた場合でも、キャラクター毎に優先順位が設定されていて、より上位の人が教室に来ることになっている…はずだ。さすがにゲームをやり込んだアタシでも、どんなプログラムを組まれていたかまでは確証はもてないけど。でも経験上そうと見てまず間違いないだろう。
「そもそも好感度が低いってことも考え難いのよね。ちゃんと壮一の好感度が上がるよう頑張っていたんだし」
今日は二人で桜花祭を回らせる事が出来なかったり、琴音ちゃんを劇に出せなかったりと失敗もしたけど、今まではちゃんとイベントはこなしてきた。壮一の好感度が低いなんて事はあり得ない。
「それって、本当に上手くやれてたの?アサ姉お得意の勘違いって事は無いの?」
「そんなはず無いわよ。ゲーム通りに動くよう働きかけてきたわ。その為に琴音ちゃんと仲良くなって、壮一との接点が増えるようにしてたんだもの」
それだけではない。ゲーム以外の事も起こりうる今世では、独自の行動で好感度が上げられないかと思って色々行動を起こしてきたのだ。
「例えばテスト前に一緒に勉強したこともあったわ。アタシと琴音ちゃんで勉強してると、後から壮一がやって来たり。他にも放課後や休みの日に会ったりもしてたし」
「う~ん、話を聞く限りでは確かに問題無さそうに聞こえるけど……あれ?ちょっと待って。そういえばソウ兄と琴音さんが一緒にいる時、アサ姉はどうしてるの?」
「大抵の場合は側にいるわね。何せラブラブになっていく二人を間近で見るのが生き甲斐なんだから」
「それじゃあソウ兄がいない時、琴音さんと二人で会ったりはする?」
「そりゃするわよ。まずはアタシが仲良くならないと、二人の仲を取り持つなんてできないものね」
しかしこれだけ頑張っていると言うのに、いったい何がいけなかったのだろう?もしかしてとんでもないバグがあったとか?
頭を捻っていると、そんなアタシをじっと見つめながら空太が口を開いた。
「……あのさあ、話を聞いてると、何だかソウ兄よりもアサ姉の方が、琴音さんと一緒にいることが多いように聞こえるんだけど」
「そうかもね。壮一とくっつけたいとは思うけど、女の子同士の方が一緒にいやすいし。それにアタシも、琴音ちゃんと仲良くなりたいしね」
けど、それがどうしたと言うのだろう?すると空太は言いにくそうに、ゆっくりと口を開く。
「……それってさ、アサ姉の好感度が一番高くなってるってことにならない?」
「……えっ?」
何を言っているのかなこの子は?
好感度が設定されているのは攻略対象キャラのみ。女の子のアタシにそんなものがあるはずが無い。無いんだけど……
「あり得ない話じゃ無いと思うけど。今回のイベントで教室に来るのって、好感度一位のキャラなんだよね。って事は、もちろんアサ姉の立ち位置にいた旭様が来るってパターンもあったんでしょ」
「そ、そりゃあったわよ。だって旭様は攻略対象キャラだもの。ん?そういえば今日教室で琴音ちゃんと会ったのって…」
「アサ姉だよね」
「―――ッ!」
いやいやいや、それはおかしい。いくらアタシが旭様のポジションにいると言っても、女の子だよ。攻略対象のわけないじゃない。あな恋は百合ゲームじゃないんだよ。
だけど待てよ。琴音ちゃんは今日の休憩時間に誰と一緒に回るか聞いた時、アタシを指名してきてたって。ゲームで選択肢にあったのは攻略対象キャラだけ。つまり、旭様がアタシになってもなお、攻略設定は生きてるって事?
「そ、それじゃあ、教室には誰も来なかったんじゃなくて……」
「アサ姉が来たって事だね。もっとも正確には、アサ姉の方が先に来てたんだけど、細かい所はこの際いいよね。って、アサ姉?おーい、聞いてるー?」
空太が何か言っているけど、もはや耳に入っていない。アタシにも好感度が設定されていて、現在一位って事はだよ……
「えっと、つまりなに?壮一と琴音ちゃんをくっくけようと頑張った結果、壮一の好感度よりアタシの好感度の方が高くなっちゃって、女の子同士なのに横恋慕してるっていう変な状態になって、このままじゃ壮一と琴音ちゃんはラブラブにはなれずに、壮一を幸せにすることはできなくて、しかも原因は全てお邪魔虫であるアタシにあるって事で……」
「アサ姉、ショックなのはわかるけどまずは落ち着いて!」
これが落ち着いていられるはずが無い。頭の中で『壮一×琴音ちゃんラブラブ大作戦』がガラガラと音を立てて崩れていく。
これから挽回するにはどうすれば良い?やっぱり壮一の好感度を上げつつ、アタシの好感度を下げるしかないよね。だけどその為には、いったい何をすれば良いの?
壮一と琴音ちゃんの仲を取り持とうとすれば今までみたいにアタシの好感度も一緒に上がりそうだし。
アタシの好感度が下がりそうなことと言えば、例えば悪役令嬢のように琴音ちゃんに意地悪をするとか?そんなことできるはずが無いじゃない!それじゃあ、それじゃあ……
「アサ姉…アサ姉!聞こえてる!」
遠くで空太が何か言っているような気がするけど、声がとても小さくて聞き取れない。あ、今度は目の前が真っ暗になってきた。まあいいや、それよりも壮一と琴音ちゃんの事だよ。何とか……何とかしなくっちゃ……
「ちょっと、誰でも良いから来て!アサ姉が倒れた!」
壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん壮一と琴音ちゃん………
二人をくっつける方法を模索しながら、アタシはしだいに意識を失っていくのだった。
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