第37話 劇を終えて 3

「あ、そういえば御門さんのクラスのお店、調子はどんなものか聞いておいた方がよかったかな?」


 気になっていたはずなのに話が思わぬ方向に行っちゃったから、つい聞くのを忘れていた。しかしこれに対して空太は。


「別に良いんじゃないの。偵察に行ってるソウ兄の報告を待てば。わざわざ御門さんから話を聞くこともないでしょ」

「それもそうね。御門さんから聞こうとしたら、無駄に時間が掛っちゃうからね」


 あの人と話すと本当に長くなる。壮一とは和風喫茶で落ち合う手はずになっているから、先に行って待つことにしよう。


「アタシはもう一度琴音ちゃんのクラスに行くけど、あんたはどうする?別の所回ってみる?」


 できることなら空太も連れて行って売り上げに貢献させたいところだけど、もう一回行ってるし。無理に誘うのは良くないだろう。しかし空太は首を横にふる。


「俺も行くよ。俺だって勝負がどうなるかは気になるし。それに例のカボチャの煮付けも食べてみたいし」

「おお、来てくれるか。ありがとう。あ、さてはカボチャの煮付けを食べて、好きな子と近づけたらとか思っちゃったんだな。可愛いところあるじゃない」


 空太の頭をわしゃわしゃと撫でる。カボチャの煮付け目当てみたいな事を言いはしたけど、何も本気で言ったわけじゃない。空太に好きな人がいるなんて話は聞いたことないし。だけど。


「……そ、そんなわけないだろ!」


 ん、何か今間があったような。これはもしかして、本当に好きな子がいるとか?まさかね。空太そう言うの、まだ興味無さそうだし。いや待てよ。


「だ、ダメだから!」


 気がつけばアタシは両手で、空太の肩をガッシリと掴んでいた。空太はキョトンとしたようだったけど、そんな風にとぼけても無駄だからね。お姉ちゃんはちゃーんとわかったんだよ。


「そりゃあ気持ちはわかるよ。あんなに可愛くて気立ても良い子が近くにいるんだもの。それに、空太だって攻略対象キャラだし」

「ちょっと待った。アサ姉、いったい何の話をしてるの?」

「いいよ、隠さなくても。腹を割って話そう。まあアタシも悪いとは思ってるよ。壮一とくっつけたいから諦めてくれなんて言われても、納得がいかないってのはわかる。でも、でもねえ。琴音ちゃん――」

「を好きな訳じゃないから」

「――だけはダメ……って、え?あれ?」


 え、違うの?てっきり好きな子と言うのは琴音ちゃんの事だって思っちゃった。いや、この期に及んでまだとぼけているだけかもしれない。しかし空太はジトッとした目でアタシを見る。


「そんなわけないでしょ。アサ姉が二人をくっつけようとしてるって分かってるし。そりゃ琴音さんは良い人だとは思うけど、そういう風に見たことは無いから」

「無いって、そんなまさか。相手はあの琴音ちゃんなんだよ」

「アサ姉は俺が琴音さんを好きになってほしいの?ほしくないの?」

「それは…好きになっちゃったら困るけど」

「だったら良いじゃない。そう言うのじゃないから」


 確かにその通り。空太の態度を見る限り嘘を言っているようにも見えないし、どうやら本当にアタシの勘違いだったようだ。


「けど待って。それじゃあいったい空太の好きな人って誰なのよ?」

「だからそれ事態が勘違いだって。俺は好きな人がいるなんて一言も言ってないけど」


 まあそうなんだけどね。最初に好きな子云々の話をした時の空太の慌てよう、あれは本当に動揺してたっぽかったけどなあ。でも本人がこう言っているし、これ以上は追及できない。


「分かったわ。けどもしいつか好きな人ができたら、その時はちゃんと教えてね」

「断る」

「何でよっ⁉」


 ここは「分かった」って言う流れでしょ。しかし空太は嫌そうな顔で言う。


「何でわざわざアサ姉に言わなくちゃいけないわけ?」

「そりゃあ、空太には壮一と琴音ちゃんの事で色々相談にのってもらってるから、今度はアタシが空太の相談にのって力になりたいわけよ」

「力になる?アサ姉が?はッ!」


 鼻で笑われた⁉

 酷いよ空太。アタシだって何もふざけてこんなこと言ってるわけじゃないんだよ。


「アサ姉には無理だよ」

「む、無理じゃないもん。これはまだ言ったことなかったけど、アタシ前世では恋のキューピッドの異名をもつくらい恋愛に関しては…」

「すぐバレる嘘つかない。そんな恋愛の達人なら、ソウ兄達の事で何度も俺に相談したりしないでしょ」

「うっ。す、鋭い」

「普通わかるよ。そんな恋愛の達人が、乙女ゲームなんかに発狂するほどのめり込むわけが無いでしょ」

「い、今全ての乙女ゲーマーを敵に回した!」

「更に言うと、前にあな恋以外の記憶はあんまり残って無いって言ってたよね。明らかに矛盾してるよ」


 こうも簡単に論破されるなんて、賢いなあ空太は。けどそう簡単に引いたら、姉貴分としての威厳を無くしかねない。


「元々無くすような威厳なんて無いんだけどね」

「心を読まないで!」

「はいはい。もうさっさと和風喫茶行くよ。さっきの劇での宣伝効果が出てるとしたら、混んでるかも知れないしね」

「あ、そうだった。御門さんに絡まれたせいですっかり遅くなっちゃったね」

「遅くなった理由の半分は、アサ姉が変な事を言い出したからでしょ」


 それはしょうがないでしょ。だって空太に好きな人がいるかもしれないんだよ。気になるに決まってるじゃない。

 しかし等の本人はアタシの気なんて知らずに、疲れたような顔をしている。


「まったく、俺は何でこんな人を…」

 空太が何か呟いたようだったけど、喧騒にかき消されてよく聞こえなかった。

 まあ良いか。とりあえず今は、琴音ちゃんのクラスに行かないとね。

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