第36話 劇を終えて 2
御門さん、今度はいったい何の用だろう。もしかして喫茶店の勝負の話でもしに来たのだろうか。
だけど御門さんは、アタシが思っていたのとは違う事を口にした。
「先ほどのアナタのクラスの劇、拝見させていただきましたわ」
「え、見てくれたんだ。ありがとう御門さん」
わざわざ見てくれるだなんて思っていなかった。素直にお礼を言ったけど、何故か御門さんは不機嫌な様子。そして眉間にシワをよせて、怒ったような口調で言ってくる。
「春乃宮さん!アナタ、ちょっともてはやされたからって、いい気になってるんじゃありません事よ!」
「は?いったい何の話?」
もしかして劇が良い出来だったけど、それで調子に乗るなって言いたいのかな?
「別にいい気になってはいないよ。劇が成功したのはクラスの皆の頑張りのおかげだし、午後の公演に向けて気を引き締めなきゃだしね」
「そんな話をしているのではありません!風見さんとの事ですわ!」
「え、壮一?壮一がいったいどうしたの?」
何が言いたいのかさっぱり分からない。すると話を聞いていた空太がそっと口を開く。
「もしかして、ソウ兄と仲が良い所を見せつけられた気がして僻んでいるのかも。アサ姉は知らないだろうけど、劇を見た人は結構言ってたんだよ。二人はお似合いのカップルだって」
「ええっ!そんな風に言われてたの?そう言えばさっきそんな事を言っている子達がいたわねえ」
だとしたら、それこそいい気になるどころの話ではない。アタシは壮一と琴音ちゃんをくっつけたいのに、これではとんだ風評被害だ。
それにしても、御門さんもそんな話を真に受けて突っかかってくること無いのに。
「いくら自分に彼氏がいないからって、これじゃあいい迷惑よ」
「まあ彼氏がいないのも勿論だけど、アサ姉の相手がソウ兄っていうのも腹が立つ原因なんじゃないの?ほら、御門さんって昔、ソウ兄にフラれた事があったじゃない」
「ああ、そう言えばそんな事もあったね」
フラれたと言っても、御門さんが壮一の事を好きだったというのとはまた違う。
あれはまだあたし達が小学生の頃、アタシがイケメンで運動もできて頭も良い壮一を連れているのを羨ましがったのか、御門さんが壮一に言ったのだ。
『アナタ、わたくしの傍に置いてあげてもよろしくてよ』
何という上から目線だろうか。しかしこれに対して壮一は、笑顔でこう返したのだ。
『ごめん御門さん。俺は旭のそばにいるって決めているから』
『……えっ?』
それまで何もかも思い通りになってきた御門さんにとって、それは大きなショックだったようで。思えば御門さんが必要にアタシに絡むようになったのも、それからだったような気がする。
「つまり、アタシだけチヤホヤされているように見えて悔しいって事かな。実際はそう言うわけでも無いんだけどね」
「イケメンを連れているのが一種のステイタスみたいに思っていそうだから、独り身の現状に腹が立っているのかもしれないね」
空太と頷き合いながらため息をつく。そんな事で突っかかってこないでほしいのに。すると。
「あ~な~た~た~ち~」
まるで地獄の底から響いて来ているかのような、怨みのこもった声を出す御門さん。しまった、本人のいつ前で好き勝手言いすぎた。
そしてこれには、鳥さんや牧さんも黙ってはいなかった。
「アナタたち、どうしてくださるのですか!御門様の機嫌を損ねたりして!」
「気を悪くした御門様がどれほど面倒か、知らないわけじゃないでしょう!」
ハイ、それに関しては素直に反省します。
口は禍の元。考えなしにベラベラと喋るんじゃなかった。しかし今更後悔したところで後の祭り。御門さんの機嫌は治らない。
「キイイイイイイイイイィィィィィィイィィィィィィィィッ!」
まるで獣のような雄叫びを上げる御門さん。前にも同じような事があったけど、無駄に注目を浴びちゃうからやめてほしい。しかし御門さんは集まってくる視線などものともせずに、顔を真っ赤にして言い放つ。
「なあァァァァァんて失礼な!わたくしは彼氏がいないのではございません!作らないだけです!」
「あ、うん。そうだね。ごめん御門さん、アタシが悪かったわ」
ここは平謝りして怒りを鎮めるに限る。けど御門さんは腹の虫がおさまらなかったようで、さらに大きな声で叫ぶ。
「だいたいですねえ、彼氏なんて必要ありませんの。わざわざ一人に絞らなくてもわたくしくらいになると、男なんて毎日とっかえひっかえですのよ!」
とっかえひっかえって。わざわざ自らそんなビッチ発言をしなくても。
「「はい、その通りです御門様!」」
あんた等も肯定するな!どうせ嘘なんだろうし、ここは御門さんの名誉の為にも否定するべきだろう。その方が絶対良いって。
「もう結構。これ以上アナタと話していても時間の無駄ですわ」
自分から絡んできたくせに。激しくツッコミたかったけど、確かに時間の無駄なのでここはグッとこらえる 御門さんに関わったって、良いことなんて一つもないんだ。
「さあ、鳥さん牧さん。男あさりに行きますわよ」
「えっ?あっ、はい」
「か、かしこまりました、御門様」
慌てた様子で後を追う鳥さんと牧さん。御門さん、わざわざそんな訳のわからないアピールしなくて良いから。
本当に男あさりをしない事を祈るよ。絡まれた方も迷惑だろうし、桜咲の評判が落ちたらどうするんだ。
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