第31話 桜花祭、開幕 7

 空太の失礼な物言いに怒っていると、琴音ちゃんがアタシの分の抹茶ミルクをもってやってきた。


「はい、どうぞ」

「ありがとう……ああー、美味しい。さすが琴音ちゃん、こんなおいしい抹茶ミルク飲んだこと無いよ」

「ありがとう。けどそれ、作ったのは別の子で。私は運んできただけだから」

「琴音ちゃんみたいなかわいい子に運んでもらったら味も格別だよ」

「発言が完全に美人に酌をされたオヤジだね」


 空太のツッコミはスルーするとして、気になるのはお店の売り上げ。御門さんのクラスに勝つにはどれだけ売り上げればいいのか想像もつかない。


「ねえ、売上って今どうなってるの?」

「悪くないよ。お昼になったら、きっともっとお客さんも増えると思う」

「そっかー、だったら案外余裕で勝てるかもね」


 ホッとしながら抹茶ミルクを飲んだ。しかし空太は眉間にシワをよせる。


「安心するのは早いんじゃないの?こっちの調子は悪くなくても、向こうがより多く売り上げたら負けちゃうんだから」


 気分が良かったところに水を差される。けど言ってることはもっともかも。そもそも御門さんのクラスがどれだけ繁盛しているのかも知らないわけだし。


「だ、だったらもっと売り上げを増やせばいいんだよ。琴音ちゃん、何か作戦は無いの?大々的に宣伝をするとか」

「一応みんなでビラ配りしようって話はしているけど、それじゃあちょっと弱いかな?」

「それくらいならどこもやってるだろうしね。あとSNSを使っての宣伝も殆どのクラスがやってるね。もっと他がやってない、この店だけの強みをアピールできればいいんだけど」


 確かに。アタシはメニューを開いて、何かいい方法は無いか考える。幸い和風喫茶をやっているのはこのクラスだけだから他と差別化は図れているけど、もうちょっと何か無いかな?

 もうしばらくしたらお昼になるから、飲み物だけでなく軽食をアピールするとか?メニューに書かれている品は金平ごぼうに肉じゃがにカボチャの煮付けに……


(……まてよ、これって)


 メニューを眺めていると、ふとアイディアが浮かんだ。もしかしたらいい宣伝になるかも。


「どうしたのアサ姉。難しい顔をして」

「ちょっと思ったんだけどね。もしかしたらうちのクラスの劇を使って、ここの商品を宣伝できるかもしれない」

「え、どうするの?」

「それはねえ……」


 アタシは思いついたそのアイディアを二人に話す。


「それは確かに効果あるかも。双方のクラスの許可がとれるかが問題だけど」

「互いに損は無い事だし、大丈夫なんじゃないの?」

「そうだね。ちょっと皆に聞いてくる」


 琴音ちゃんは席を外してクラスの子達の相談しに行き、ほどなくして戻ってくる。


「うちの方はOKだって。宣伝になるなら助かるって言われた。あとは旭ちゃんのクラスだけど」

「それはこれから話してみる。たぶんいけるとは思うけど」

「だったら私も良く。ちょうど休憩に入る所だし、旭ちゃんのクラスの劇もそろそろでしょ。見に行こうって思ってたし」


 うん、琴音ちゃんに来てもらわないとこっちも困る。多分今頃クラスでは、佐藤さんが劇に出られなくてどうしようって事になってるはずだから。

 考えてみればそんなクラスのピンチを琴音ちゃんが救うんだ。お願いなんて本当に楽に通るかも。


「それじゃあ急ごう。あ、空太はどうする?せっかくだから楽屋裏を見学してみる?」

「そうだね、行ってみるよ。それに……」


 空太は琴音ちゃんに聞こえないよう、小声で囁く。


「今からある劇って前にアサ姉が言ってたやつだよね。ヒロインの子が出られなくなって、代わりに琴音さんが代役を任されるっていう」

「そうだよ。よく覚えているね」

「耳ダコになるくらい聞かされたからね。だったら尚の事行った方が良いかな。アサ姉が暴走したら止めなきゃだし」

「どういう意味よ?」


 失礼な事を言う空太を小突いてやった後、残っていた抹茶ミルクを飲み干す。

 さて、向うはアタシの教室。桜花祭が始まってから、何故か予定通りに事が進んでいないけど、今度こそどうにかしたいものである。

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