第28話 桜花祭、開幕 4
殺伐とした罰ゲームを考える御門さんには恐怖を覚えたけど、何とか思い止まってくれてよかった。
御門さんはスマホをスカートのポケットにしまうと、改めてアタシ達を見る。
「罰ゲームについてはおいおい考えるとしましょう。倉田さん、少しは頑張って下さいね。弱い者イジメなんて、わたくしの趣味ではございませんから」
「は、はい。頑張ります」
琴音ちゃんは一応返事をしたけど、アタシはその上から物言いにまた腹が立った。けど、ここで怒ってはいけない。下手に文句を言うとまた話が長くなる。
「それではわたくしは忙しいので、これにて失礼させていただきます。行きますよ、鳥さん牧さん」
「「はい、御門様!」」
いつもの締めの言葉を残して、ようやく去ってくれた御門さん達三人。
ああ、長かった。この朝の件、確かプロットでは『朝、御門さんに勝負を挑まれる』と言う短いものだったはずなのに、どうしてこんなに長くなっちゃったんだろう?一万文字くらいになったって作者がぼやいていた。
と、そんな内輪の事情はともかくとして、御門さん達の姿が見えなくなった後、残っていた山田君が申し訳なさそうに謝ってくる。
「すみません。うちの御門さんが大変な迷惑を掛けて」
「ううん、そんな事……無いとは間違っても言えないけど、君が気にすることじゃないよ。それにして火の輪くぐりだの電気椅子だの、よくあんな事本気で考えるよね」
前から知ってはいたけれど、やっぱりあの人頭おかしいよ。
「たぶん御門さんの事ですから、後夜祭用のパフォーマンスとして考えたんだと思います。うちの喫茶店でも予定しているんですよ。あんな感じのパフォーマンスを」
「ええっ、さっき言っていたようなパフォーマンスをするんですか⁉」
琴音ちゃんが息を呑む。驚いているのはアタシも同じだ。という事はどの道、死人が出るかもしれないってこと?
しかし山田君は首を横に振る。
「いえ、さすがに命に関わる系はしませんよ。皆死にたくは無いですからね」
そりゃそうだ。さすがに生死がかかっているとなると、相手が御門さんだろうとみんな反対するだろう。と、思ったのも束の間。
「俺達がやらなくちゃいけないのは、命を掛ける系のパフォーマンスです」
同じだよ!ちょっと言葉を変えただけだよ!
嫌だよこんな殺伐とした桜花祭!ゲームあな恋ではもっとウキウキするイベントだったはずなのに、どうしてこんな血生臭い話になっちゃってるの⁉山田君、人生を諦めたみたいな遠い目をしないで!
「俺、今日の桜花祭が終わったら、五体満足で家に帰るんだ」
「不吉なこと言わないで!それ絶対死亡フラグだから!そもそも五体満足って何⁉御門さんはいったい何をさせる気なの⁉」
すっごく気になったけど、山田君は答えてはくれなかった。もしかしたら聞かなくて正解だったかもしれないけど。気になる反面、聞くのがとても怖いもの。
山田君は「二人はどうかいつまでもお元気で」と、今生の別れのようなセリフを残した後、段ボールを抱えて去って行った。
死なないでね山田君。さっき知り合ったばかりの短い付き合いだけど、君の命がとても心配だよ。
さて。みんな行ってしまって、アタシは改めて琴音ちゃんと向き合う。
「琴音ちゃん、ホント―――にゴメンッ!アタシのせいで変な勝負に巻き込んじゃって」
「ううん、良いよ。実は私も、御門さんに酷い事を言われて嫌だなあって思ってたから。旭ちゃんが言ってくれて嬉しかったよ」
「ありがとう。けど、やっぱり責任は取らなくちゃ。琴音ちゃん、もしアタシにできることがあったら何でも言って。ビラ配りでも客引きでも、何でもするから」
罰ゲームの件は有耶無耶になったけど、あそこまで言われたのだ。絶対に勝って御門さんをギャフンと言わせたい。
両手で琴音ちゃんの手を取ると、琴音ちゃんも強く握り返してくる。
「ありがとう。私……ううん、私達頑張るよ。御門さんのクラスにも負けないような、最高の和風喫茶を作るから。旭ちゃんも良かったら来て」
「うん、絶対行くね!」
よし、後で壮一やクラスの皆にも声をかけておこう。それから空太、アイツも今日は来るって言ってたから、売り上げに貢献してもらうとしよう。
アタシにできることなんて、知り合いに声を掛ける事くらい。だけどどんな小さなことでも、やらないよりマシだ。少しでも勝率を上げるため、全力を尽くすのだ。
しかし、そんな決意をしながらも、ちょっぴり困惑している事もある。何かって?実はこの御門さんとの勝負そのものが、あな恋では無かった出来事なのである。
ゲームであったものならこの先何が起きるか分かるから、事を有利に運ぶことが出来ただろう。しかしこの勝負に関しては、情報が一切無いのだ。
こんな濃いイベント、あったのなら忘れるはずが無いんだけどなあ。前世のアタシは条件を満たさなければ発生しない隠しイベントも全て網羅していて、テキスト達成率は100%になっていたから、どうやらこの件は本当にあな恋には無い、今世だけのオリジナルの出来事のようだ。
一体どうしてこんなことになってしまったのだろう。どうやら今日の桜花祭はアタシの知っているあな恋であったそれとは違う、未知のものになりそうな予感がする。最初は休憩時間に誰と回るかなんて話をしていたけど、もしかしたらそれどころじゃないのかも。
こうして桜花祭は、全く先の読めないまま始まってしまったのである。
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