第27話 桜花祭、開幕 3
御門さんの迷推理には、頭が痛くなってくる。だけどいつまでもこうして黙っているわけにもいかないし。
そんな事を考えていると、琴音ちゃんがおずおずと口を開く。
「あの、御門さん。ウチのクラスが和風喫茶をやるのに旭ちゃんは関係無くて、クラスの皆で話し合って決めた事なんですけど」
「騙されませんわ!春乃宮さんの手下であるアナタのクラスが飲食店をする、それが何よりの証拠ですわ!」
もう言ってる事が無茶苦茶だよ。あれ、御門さんが無茶苦茶言うのはいつもの事か。いや待てよ、さっき聞き捨てならない事を言っていたぞ。
「ちょっと、何言ってるの!琴音ちゃんはアタシの手下なんかじゃないよ!」
アタシ達は友達。上下関係なんて一切ない。しかし御門さんはフンと鼻を鳴らす。
「そんな細かいところはどうでもよろしくてよ。どちらにせよアナタが彼女を利用して代理戦争を仕掛けてきたことに変わりはありませんもの」
だから違うって。さっきから手下とか利用するとか、失礼な事ばかり言って。琴音ちゃんは気を悪くしていないだろうか。
「大丈夫、旭ちゃんがそんな風に思って無いって、ちゃんと分ってるから」
「琴音ちゃん……ありがとう!」
思わず胸が熱くなる。だけど御門さんはそんなアタシ達のやり取りなど御構い無しに暴言を吐き続ける。
「まあ直接自分で仕掛けてこなかったのは正解ですわね。勝ち目のない戦いですもの。彼女の言う和風喫茶だって敵ではありませんけどね。庶民のいるクラスのお店なんかに、このわたくしが負けるはずがございませんわ。天と地ほどの差を見せつけられ、ケチョンケチョンにされる姿が目に浮かびますわ」
「その通りです。御門様が負けるはずがございません」
「庶民のお店とは出来が違うのです」
「お二人とも、そんなに正直に言っては倉田さんが可哀想ですわよ。哀れな姿を想像すると、敵ながら同情してしまいますわ。おーっほっほっほ」
同情しているとは微塵も思えない笑い声。黙って聞いていれば好き勝手言って、もう我慢の限界だ。
「ちょっと、何始まる前から勝ち誇った顔をしてるのよ!琴音ちゃんはアンタなんかに負けないんだから!」
「はぁ?何ですって!」
御門さんの顔から笑みが消える。そして眉を吊り上げ、さっきとは違う怒りのこもった声で叫ぶ。
「和風喫茶なんて古臭い、しかも庶民なんかにわたくしが負けると仰るの⁉」
「そうやって見下していられるのも今のうちよ。琴音ちゃんは確かに庶民で、最初の頃はクラスでも浮いていたわ。けど徐々に打ち解けていって、今回のお店作りでは中心になって頑張ってきたのよ。クラスの人達も協力的で、毎日遅くまで学校に残って作業したり、休みの日にはみんなしてお店を巡って研究を重ねたりもしてきたわ。和風喫茶はそうしたみんなの想いが籠ったお店なの。御門さんがワガママで振り回しているクラスとは結束力が違うのよ。負けるはず無いじゃない!」
ゲームではこの桜花祭は、特待生ということで中々周囲と馴染めなかった琴音ちゃんがクラスの皆と一つになるという、一学期最大のイベントなのだ。なのにそんな琴音ちゃん達の頑張りを頭ごなしにバカにするだなんて許せない。抑えきれない想いを御門さんにぶつけてやった。
ただ、そんなアタシの熱弁を聞いた琴音ちゃんと山田君の反応はと言うと。
「あ、旭ちゃん。どうしてそんなに詳しく知ってるの?クラスも違うのに」
「ス、ストーカー?」
何とも微妙なものだった。
言っとくけど、ストーカーしたわけじゃないよ。前世で何十回もあな恋をプレイしていたから知っていただけだもん。こっそり後をつけて様子を観察した事なんて、ちょっとしかないから。
「とにかくそう言うわけだから、琴音ちゃんは勝つの!」
「何がそう言うわけですか!いくら庶民が頑張ったところで、象に立ち向かうアリのようなもの。勝てるはずがございませんん!」
「いいや勝つ!」
二人ともだんだんと声が大きくなり、ヒートアップしていく。しかし興奮しすぎたアタシは、ここでとんでもないミスを犯してしまうのだった。
「よろしいですわ。それではどちらのお店が売り上げで勝るか、勝負いたしましょう!」
「望むところよ!」
売り言葉に買い言葉。気が付けばそんな約束をしてしまっていた。アタシ自身は琴音ちゃんのクラスメイトでもないのに。
「あ、旭ちゃん。別に勝負はしなくても良いんじゃないかなあ。下手をするとクラスの皆も巻き込んじゃいそうだし」
「あ……」
しまった。つい御門さんに乗せられて勝負を飲んじゃった。やっぱり今のは無しで!
しかし御門さんはニッと不吉な笑みを浮かべる。
「今更撤回なんて受け付けませんわ。倉田さん、アナタのクラスの和風喫茶なんて、ギッタンンギッタンにのしてさしあげますわ」
「そんな……あの、もし負けたらどうなるのでしょうか?事情を知らないクラスの人達は巻き込みたくないんですけど」
すると御門さんは腕を組み、少し考える。
「そうですわね、分かりました。わたくしも鬼ではありません。アナタのクラスの方々には、迷惑のかからないよう致しますわ」
良かった。これでクラスの人達に迷惑がかかってしまったら、琴音ちゃんの立場が悪くなるかもしれない。さすがにその辺りの良識はあるようだ。
ホッとしていると御門さんはスマホを取り出し、何かを調べ始めた。
「さて、クラスの方々はともかく、アナタには負けたらいったい何をしてもらいましょうか?火の輪くぐりに紐無しバンジー、クレーンで吊るされた巨大鉄球を顔面でキャッチ。あと他には……」
ちょっとちょっと、いったい何を調べてるの?
良識があるなんて思ったアタシが馬鹿だった。見れば琴音ちゃんはガクガクと震えているし、山田君も顔色が悪い。
「御門さん、まさかとは思うけど鉄球の顔面キャッチなんて、本気で言って無いよね。もしそっちが負けたら、御門さんがやらなきゃいけないんだよ」
「あら、わたくしが負けるはずが無いではありませんか。春乃宮さんは負けるのが怖いのですか?」
怖いよ!あと本気でそんな事をさせようと考えている御門さんはもっと怖いよ!
もし勝てたとしても、相手にそんな結末が待っているとなるとちっとも喜べない。御門さんが紐無しバンジーをする所なんて、別に見たくないし。しかし不安がるアタシ達をよそに、御門さんはさらに検索を続ける。
「ダイナマイトに電気椅子。これらは化学部や工業科の協力が必要になりますね」
やめよう、そんな物騒な罰ゲーム。協力を頼まれた化学部や工業科もいい迷惑だよ。
するとこれは流石にマズいと思ったのか、普段は御門さんに従ってばかりの鳥さんと牧さんも動いた。
「あ、あの、御門様。今日はせっかくの晴れの日でございますから、命に関わる系の罰ゲームは控えませんか?」
「御門様が主役の桜花祭でもし死亡事故でも起きては、汚点になってしまいますもの」
まさかこの二人がフォローに回ってくれるとは。だけどこれはチャンス、アタシ達も一気にたたみかける。
「そうだよ、死んじゃうのは良くないよ」
「ダイナマイトなんて爆発させても、きっと面白くないよ。みんな引いちゃうよ」
「誰も得なんてしません。得られる物が無いうえに危険だなんて、最悪じゃないですか」
みんな一丸となって御門さんの説得を試みる。もともと今日の桜花祭はみんなで協力して行うものだけど、まさかこんな形で心を一つにすることになるとは思わなかった。出来ればもうちょっとマシなシチュエーションで一つになりたかったよ。
「なるほど、皆さんの言う事ももっともですわね。分かりました、命にかかわる系は無しにしましょう」
良かった。とりあえず思い止まってくれた。アタシや琴音ちゃんはホッと胸を撫で下ろし、鳥さんと巻さんは嬉しそうに手を取り合っている。
「わたくしも死亡事故なんて汚点を残すのは本意ではありませんからね。やっぱり桜花祭では、みんな笑顔になってほしいですもの」
どの口が言うか!ちなみにもし本当に実行して誰かが死んじゃっても、きっと事故死ではなく殺人事件として扱われる事だろう。汚点どころか前科が付く事になるんだろうな。
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