第22話 琴音ちゃんとお出かけ 2
待ち合わせの駅前についたのは、約束の十時より少し前。だけどいったいいつから待っていたのか、琴音ちゃんはすでにそこに来ていて、こちらに気付くと手を振ってくれた。
「ごめんね、待たせちゃって」
「ううん、大丈夫。私も今来たところだから」
そう挨拶を交わした後、琴音ちゃんはアタシの後ろに目を向ける。どうやらくっついてきた空太の事が気になっている様子。
「ああ、この子はアタシの従兄弟で、空太って言うの。今日の事を話したら行きたいって言いだしたから連れて来ちゃったんだけど、良かったかな?」
「全然かまわないよ。私は旭ちゃんの同級生で、倉田琴音って言います。今日はよろしくね」
琴音ちゃんが笑顔で自己紹介をする。
やっぱり可愛いなあ。だけどこんな笑顔を見ると、やっぱり空太が好きになってしまわないかつい心配になってしまう。アタシが男だったら間違いなくそうなるだろうし。空太、惚れるなよー。
「はじめまして。俺は日乃﨑空太って言います。いつもアサ姉がお世話に……本当にお世話になっています」
ちょっと引っかかる言い方だったけど、今重要なのはそこじゃない。万が一空太が琴音ちゃんの事を好きになってしまわないかと考えると、アタシは気が気じゃないのだ。
惚れるなよ空太。琴音ちゃんだけはダメなんだからね。
「とんでもない。私の方が旭ちゃんにお世話になってばっかりだよ」
惚れるなー、惚れるなー。
「まさか。アサ姉の事だから、きっと迷惑を掛けてばかりなんじゃないですか?って、アサ姉。さっきからなに鬼みたいな顔で睨んでるの?怖いんだけど」
惚れるな……女の子に向かって鬼みたいとは失礼な。アタシはただ心配していただけだもん。
「こんなアサ姉の御守りは大変でしょうけど、仲良くしてあげて下さい」
「こら空太、なんてこと言うの。まるで人をも問題児みたいに」
「事実でしょ。その突拍子も無い行動のせいで、今まで俺やソウ兄がどれだけ苦労してきたか。身内ならまだしも、人様にはあまり迷惑かけないでよね。春乃宮家の威信にも関わるし」
ううっ、そりゃあ突拍子もない行動を起こしてるって自覚が全くないわけじゃないけど、なにも琴音ちゃんの前でそんなこと言わなくてもいいじゃん。
「生意気な奴め―。背はあまり伸びないっていうのに、態度だけは大きくなっちゃってこの子は」
「背は関係ないでしょっ!」
こんなアタシ達のやり取りを見ながら、琴音ちゃんはクスクスと笑う。
「二人とも仲いいね。まるで姉弟みたい」
「こんな姉いりません」
「こら空太」
小さい頃はアタシの事をお姉ちゃんと呼びながら後ろをついてきたっていうのに、これはさすがに傷つくぞ。
「まあまあ旭ちゃん。空太君も照れてるだけだって。けど羨ましいなあ、身近にこんな仲の良い子がいて。私は一人っ子で、歳の近い親戚もいないからねえ」
「だったら琴音ちゃんも、空太の事を弟みたいにこき使って良いから。来年には高等部に上がって来るしさ」
何ならパシリにでもしちゃっていいから。
「う~ん、それはどうしようか。あれ、来年から高等部ってことは、空太君は今中学……」
「中学三年です。もうすぐ十五歳になります」
「あ、そうだったんだ」
少し驚いた様子の琴音ちゃん。これはきっと、空太をもうちょっと下の学年だと思っていたんだろうな。
ゲームで空太と琴音ちゃんが会うのは、来年になって空太が入学してきてから。その時は空太が新入生だって知っていたから年齢を間違えるってことは無かったけど、こうしてフライングして出会ったら、実年齢よりも幼く見えちゃったって訳か。
ゲームでは無かったやり取りが見られて、何だか得した気分。たまにはこんな風にあえてゲームとは違うことをして、前世では見る事の無かった展開を楽しんでみるのも良いかも。間違えられた空太はちょっと不満げな様子だけど。
「俺って、そんなに幼く見えますか?」
「う、ううん。そんなこと無いよ。ゴメンね、でもちょっと勘違いしちゃっただけだから、あまり気にしないで」
まあ間違えるのも仕方ないかな。アタシも前世で初めて空太を見た時、『え、この子十五歳?』って思ったし。
「空太はちっさいからねえ。今は身長百五十……いくつだっけ?」
「百六十一センチ!この間測ったらちゃんと伸びてたよ」
「うんうん、そうだねー。空太大きくなったもんねー」
「ちょっと、頭撫でないでよ。そうやってすぐ子ども扱いして」
空太はそう言うけど、実際子供だしね。けど安心して、あな恋基準では高校に入るまでの間に、あと三センチは背が伸びるはずだから。もっとも画面越しに見ていた空太も、やはり格好良よりは可愛いって言った方が似合う童顔だったけど。これは言わないでおいた方が良いだろうね。
「ほら、やっぱり仲良いじゃない」
じゃれ合うアタシ達を眺めながら、顔をほころばせる琴音ちゃん。空太は何か痛げな様子だったけど、言っても無駄だと思ったのか、観念したように息をつくのだった。
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