第13話 反省会 1
琴音ちゃんと別れ、家に帰ったアタシは、自室で今日の出来事を振り返っていた。
多少のイレギュラーはあった。だけど琴音ちゃんとはバッチリ仲良くなれたわけだから、計画はおおむね順調……多分ね。悩んでも仕方が無いから、ここはポジティブに考えることにしよう。
さて、ここからどうやって壮一と琴音ちゃんをくっつけるかだけど、今日の事を思うに必ずしもゲーム通りに事が運ぶとは限らない。
アタシがポンコツなため、本来の旭様なら絶対にしないであろう失敗をやらかしてしまう可能性は十分にある。
これはある意味仕方が無い。所詮アタシが旭様の代わりをつとめようなど、無理な話なのである。このままでは壮一の高感度を上手く上げられないのではないか、そんな不安がよぎる。
いや、アタシが旭様のポジションについてるという事は、何も悪いことばかりでは無いはずだ。女同士である利点を生かせば、ゲーム以上に琴音ちゃんと接点を持つことができるかもしれない。
そうして琴音ちゃんとどんどん仲良くなって、事あるごとに壮一アピールをしていけば、琴音ちゃんはきっと壮一の事を好きになってくれるはずだ。
互いを思い合い、見つめ合う壮一と琴音ちゃん。アタシはその様子を、誰よりも近くで愛でてやるんだ。
「ぐふふふふ」
想像すると思わず笑いが込み上げてくる。しかしそんなアタシに心ない言葉が投げ掛けられた。
「キモい」
誰だそんな事を言う奴は?
声のした方に目を向けると、いつの間に部屋に入ってきたのか。そこには空太がいて、ジトっとした目でアタシを見ていた。
「空太、いつからそこに?部屋に入る時はノックをしてって……」
「だから何度もしたよ。でもアサ姉、妄想に浸っている時はいつも気づかないじゃないか。今日はあな恋本編が始まる日だって張り切っていたから、きっとテンションがおかしなことになっていると思って心配して様子を見に来たんだけど、案の定だよ」
そうか、心配してくれたのか。だけど大丈夫、アタシは今絶好調だから。
「それで、今回はいったいどんなヘンテコなシチュエーションをイメージしていたの?」
「ヘンテコとは何よ。アタシはただ壮一と琴音ちゃんがイチャコラしている所を思い浮かべていただけよ」
「ソウ兄ねえ。前から思っていたけどそんなにソウ兄が好きなら、自分がくっつきたいとは考えないわけ?」
「え、アタシが壮一と?」
そんなこと考えた事も無かった。ちょっと想像してみる。仲睦まじく見つめ合う壮一と旭様…
「び、BLだ!」
「BLじゃないから!アサ姉は女の子でしょう!」
「ああそうか。今のアタシの事を言っているんだっけ。つい前世で画面越しに見ていた神々しい旭様のお姿を思い浮かべちゃったよ。でも壮一と旭様かぁ、それはそれでアリかも。って言うか……尊い」
実際前世ではそんな二人の同人誌も作られていたっけ。もちろんアタシは即買いしていた。尊かったな、あれは。
「『アリかも』じゃないよ!尊いって何?ソウ兄が可哀そうだとは思わないの?早く前世フィルターを外して!」
ええーっ、もうちょっとこの妄想を楽しみたかったのに。だけど前世フィルターを外すという事は、今のアタシと壮一が並んでいるということになるよね。そうなると……
「釣り合わないわね。片やイケメン、片やモブ顔でしょ。これじゃあまるで絵にならないわよ」
「モブ顔ねえ。確かにアサ姉の顔は地味だけど……いてっ」
一発小突いててやった。自分で言う分には構わないけど、人から指摘されるとやっぱ少しムカついてしまう。気にしていることなのに。
「悪かったよ。けど俺は、アサ姉とソウ兄もそう悪くないと思うけどなあ」
「それは見慣れているからでしょ。傍から見たら、やっぱりアタシと壮一は釣り合ってなんかいないんだから」
今日学校でアタシ達を見て誰かが言った、どうして一緒にいるのかという心ない言葉が思い出される。アタシが悪く言われる分には構わないけど、そのせいで壮一の株まで下げてしまうのは心苦しい。
「何にせよ、アタシと壮一がくっつくなんてありえないわ。横恋慕なんてするつもりはないもの」
「横恋慕ねえ。相変わらずアサ姉の思考は何と言うか、ソウ兄が可哀そうになってくるよ。まあ俺には関係ない事だけど」
空太が何の事を言っているのかはよく分からなかったけど、そこで話すのをやめてしまったから。アタシも追及はしなかった。
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