第12話 ゲーム開始 6
壮一はいずれ、琴音ちゃんの彼氏になるの。それなのにアタシと付き合ってるなんて誤解されてしまったら、幸先悪いどころの話ではない。
「違うっ!彼氏じゃない、彼氏じゃない!あたしと壮一はちっとも、これっぽっちもそういう関係じゃないからっ!」
「そ、そうなの?ごめんね、変な勘違いして」
良かった、どうやら琴音ちゃんも分かってくれたみたいだ。せっかく運命の相手に出会えたのにアタシなんかの彼氏と誤解されたら、壮一だってきっとショックだろうからね。
「ううん、琴音ちゃんは全然悪くないから。だけど本当に、壮一とアタシはそんな関係じゃないんだよ。壮一は勉強も運動もできて優しくて紳士的で、非の打ち所の無いような男の子だもの。もっといい相手と付き合って幸せになってもらわなくちゃ。だからやっぱり、壮一の相手に相応しいのは、アタシじゃなくて琴ネチャ――」
と、そこまで言いかけて慌てて自分の口を塞いだ。これ以上言うのは流石にマズいだろう。いくら二人がお似合いだろうと、会ったばかりで付き合うべきだなんて言っていいわけが無い。
「大丈夫?とりあえず,旭ちゃんと風見君が付き合って無いって事は分かったから、安心して。けど、仲は凄く良いんだね。ちょっと羨ましいかも」
屈託のない笑顔の琴音ちゃん。どうやら変な子だとは思われていないようでホッとする。
だけどこれ以上喋ったら失言してしまいそう。着替えも終わったことだし、さっさと壮一と合流しよう。アタシが熱弁するよりも、本人と話した方がきっと壮一の素晴らしさは伝わるだろうし。
そうして二人して更衣室を出ると、外では壮一が待っていてくれた。
「二人とも災難だったね。車を呼んで置いたけど、このまますぐに帰ってよかった?」
「いいよ、ありがとね壮一」
こんな事になったのでは、これ以上部活動紹介を見て回る気にはなれない。そもそもアタシは琴音ちゃんと会うのが目的だったのだから、それが達成できた以上、これ以上学校に残る理由は無かった。
アタシの返事を聞いた壮一は、次に琴音ちゃんの方を向く。
「君も家まで送っていくよ。旭、いいよね?」
「もちろん」
そんなのいいに決まっている。壮一が言わなければアタシが提案していたところだ。すると、それを聞いた琴音ちゃんは、慌てたように口を開く。
「そんな、悪いよ。私の家、そんなに離れていないから大丈夫だよ」
「離れていないのなら、寄っても手間にはならないよ」
「そうだよ。一緒に帰ろう」
って言うか、お願いですから一緒に帰って下さい。壮一と仲良くなるチャンスだし、アタシももっとお喋りしたいし。そう思いながら、願うような気持ちで琴音ちゃんの返事を待っていると。
「それじゃあ……よろしくお願いします」
照れた様子で、頷いてくれる琴音ちゃん。やった、一緒に帰れる。
琴音ちゃんを車で家へと送って行くというのは、ゲームでも選択肢次第でその展開に持っていくことができ、そうする事で旭様と壮一の好感度を上げる事が出来た。ここに来てようやく想定して板通りのイベントを起こすことができた。嬉しくて思わず心の中でガッツポーズをとった。
校門まで歩いてきたアタシ達は、迎えの車がやってくるまでの間に、壮一と琴音ちゃんが自己紹介を済ませる。
「俺は風見壮一。旭とは幼馴染なんだ」
「倉田琴音です。話は旭ちゃんから聞いています」
笑顔で言う事理ちゃんだけど、それを聞いて壮一はアタシに目を向けてくる。
「いったいどんな事を話したんだ?」
変な事を言われたとでも思ったのだろうか。微妙な表情を浮かべながらアタシを見据える。
その様子に、少々気圧されてしまう。知らないうちに自分の話をされるというのは複雑かもしれないけど、ちゃんと良い所しか言って無いから。
「あ、ありのままの壮一を話しただけだよ。頭がいいとか、努力家だとか、運動が得意とか…」
「旭、余計なことは言わなくていいからね」
微妙な表情から一転し、顔を赤らめながら抗議する壮一。でも嘘なんて何も言って無いし、これも好感度アップの為なんだよ。
「別に良いじゃない、全部本当の事なんだから」
「良くないよ。だいいち本当ってわけでも無いだろ」
「そんなこと無いよ。壮一は努力家だし、優しいし格好良いよ」
「…………」
何故か急に黙り込んで顔を伏せる壮一。何だか耳まで真っ赤になってるし、そんなに恥ずかしかったの?
だけどその時、私達のやり取りを見ていた琴音ちゃんが間に入った。
「ゴメンね風見君、忘れた方が良いなら忘れるから」
「いや、別に倉田さんが謝ることは無いよ」
そうだよ。それに忘れちゃだめだよ。壮一の良い所はちゃんと覚えておいてもらわないと。
「壮一は謙虚すぎ。もうちょっと自分のことアピールした方がいいよ」
「アピールって何?別に良いよそんなの」
「よくないよ。今好感度を上げる事で、今後の人生が幸せになるかどうかがかかっているんだから。ちゃんと頑張らなくちゃ」
「わけが分からない」
疲れた顔をする壮一。すると琴音ちゃんは何を思ったのか、話をするアタシと壮一の顔を見比べながら笑みを浮かべる。
「なんだか、楽しそうだね」
口元をおさえて再び小さく笑う。そんな仕草も可愛いな。
「うん、壮一と一緒にいると楽しいよ。ねえ、もし琴音ちゃんさえ良ければ、これからもこうして三人でお話ししたりしない?」
本当は壮一と二人きりにさせてあげたいのだけど、いきなり男子と二人きりでは琴音ちゃんがビックリするかもしれない。まあゲームで攻略する時も、最初は琴音ちゃんと壮一と旭様の三人で行動していたのだから、今はこれで問題ないだろう。
琴音ちゃんは少し驚いた様子だったけど、やがて照れた様子で返事をする。
「二人が良いのなら。私も、旭ちゃん達ともっと仲良くなりたいけど……いいかな?」
「勿論だよっ!」
元気よく返事をするアタシ。
その後少しして呼んでいた車が到着し、そのまま琴音ちゃんを家へと送って行った。琴音ちゃんはうちの車とその内装を見てとても驚き、緊張した様子だったけど、前世で多分庶民だったアタシからすれば、その反応は凄くよくわかる。
だけどいずれはそんな緊張なんて無い、もっと気軽に付き合えるような関係になりたいな。と言うか、絶対にそうなってやる。
それを実現させるためにも、壮一の好感度アップを含めてもっとたくさんのイベントを起しいこう。
アタシ達は他愛も無いお喋りをしながら車に揺られていたけど、あっという間に琴音ちゃんの家へ到着して。
車から降りた琴音ちゃんはくるりとこちらを振り返る。
「今日は本当にありがとう」
「良いよ、それよりも明日、またお話しようね。また学校でねー」
窓から手を振ると、琴音ちゃんもそれに応えるように手を振り返す。アタシ達は車が発進した後も、お互いに手を振り続ける。
角を曲がり、姿が見えなくなったところでようやく手を振るのを止め、シートに座り直したところで壮一が言ってくる。
「ずいぶんあの子のことが気に入ったみたいだな」
「わかる?」
「そりゃあね。旭が初めて会った人にあそこまで砕けた態度をとるなんて珍しいからな」
まあ、ずっと会えるのを待ち焦がれていた人だからね。気にいるどころか、崇拝していると言って良いレベルだろう。
「壮一だってきっと気に入るよ」
というか、いずれは恋人同士にさせるんだけどね。全てゲーム通りとはいって無いけど、無事出会い果たせたし。これからフラグを立てていけば問題無いはずだ。その為にもこれからますます頑張らないと。
改めて気合を入れ直すと、壮一と琴音ちゃんのさらなる進展を期待しながら、すでに見えなくなっている彼女の家の方へともう一度目を向けたのだった。
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