第4話 事情を知る者 2
だけどいくらここがあな恋の世界とは言っても、そこに住む人達にその自覚は無く、自分達がゲームのキャラクターだなんて夢にも思っていない。自覚があるのはそれこそ、前世の記憶を持った転生者のアタシくらいのものだろう。
ではなぜ空太があな恋の事とかアタシの前世の事を知っているのか。話は今から二年前に遡る。
中学二年に上がったばかりのその日、アタシはあるパーティーに出席していた。本当はお金持ちが愛想笑いを浮かべるだけのパーティーなんて興味は無かったのだけど、春乃宮家の娘としてバックレるわけにはいかない。旭様なら例え気がのらなくても、きっと家のためを思って出席するはずだし。
と言うわけで旭様の名を汚さぬようパーティー会場に来たまでは良かったのだけど、そこで誤ってシャンパンを飲んでしまうという失敗を犯してしまったのである。
未成年なのだから当たり前だけど、どうやらアタシはお酒に弱かったようで。すぐに気分が悪くなった。
普段ならそばにいるはず壮一が介抱してくれる所だけど、生憎この日は都合が悪くて来ていなくて。 代わりに介抱してくれたのが、アタシと同じくパーティー会場に来ていた、当時中学生になったばかりの空太だったのだ。
会場を離れ、用意された部屋のベッドで横になる。空太はそんなアタシを、心配そうに見つめてくれていた。
「大丈夫アサ姉?だいぶ顔が赤いけど」
「らいしょーふらいしょーふ。あたしはしぇんしぇんへーきだよ~」
「うん。これは完全に出来上がってるね。呂律も回って無いし、まるでコントに出てくる酔っぱらいみたいになっているよ」
後で思い返してみると、確かにバッチリしっかり酔っぱらっていたのだろう。だけど当時のアタシは、その事を認めようとしなかった。
「にゃにいってるにょ~。アタシはまったくよってにゃいよ~」
「酔っぱらいはみんなそう言う。シャンパン一杯でこんなになっちゃうなんて、どれだけ酒に弱いの?ほら、水を飲んで」
「う~ん、ありがと~」
差し出された冷たい水を飲むと、火照っていた頭が冷えて少し落ち着いてきた。
「空太は優しいね~。よ~し、そんな空太に、お姉ちゃんのとっておきの秘密を教えちゃうぞ~」
「何さ秘密って?」
「よくじょ聞いてくれました~。実はアタシには、前世の記憶がありゅのれ~す」
いくら酔った勢いとは言え、本当にとっておきの秘密を暴露しちゃったのだから目も当てられな。だけど空太はそんなアタシに、妙に冷めた視線を送ってくる。
「アサ姉、中二になったからって、必ず中二病を発症させなきゃいけないわけじゃないからね」
「まあ聞きにゃしゃい。実はこの世界はね~」
そうしてアタシはここが乙女ゲーム、あな恋の世界だという事。元々の旭様は男で、それは素晴らしい方だという事を熱く語った。すると。
「いくら酔っていても、他の人にはいわない方が良いよ。おかしくなったと思われたら、春乃宮家の未来は暗いから」
「にゃによその反応~。しゃては信じてにゃいにゃ~。よーし、それなら一つ予言をしてみせよ~」
「はいはい。いいから今は休んでいようね」
無理やり話を終わらせようとする空太。そんな態度に腹が立ったアタシは頭痛がしていたのも忘れ、構わず喋り続けた。
「こら~、いいから聞きにゃさ~い。今度アタシのピアノの発表会があるでしょ」
「ああ、あるね。アサ姉、ピアノ得意じゃないのに、一生懸命頑張ってるんもんね。いい結果が出るよう応援しているよ」
天使のような笑顔を見せてくれる空太。
そりゃ頑張るよ。本当の旭様と違ってアタシに才能は無いけど、少しでも旭様に近づきたいから……いや、今言いたいのはそれじゃなくて。
「そにょ日ににぇ、壮一の御両親が乗った車が事故に遭っちゃってにぇ、二人とも亡くなっちゃうにょ」
「ちょっと、いくら何でも縁起でもない」
空太の言いたい事はよく分かる。アタシだって、アタシだってとても悲しいんだ。
「ああーっ!分かってる!アタシだって事故を防ぎたいよぉー。だってそうしなきゃ、壮一が一人になっちゃうんだもん。壮一が悲しむところにゃんてみたくないよぉー」
悲しい気持ちが溢れてきて、わんわん泣き始めたアタシを、空太は呆れたような目で見ていた。
「分かった。分かったから、とにかく酔いを冷まそうね」
「うう~、おいたわしや壮一~、アタシが必ず何とかするから~」
とまあそんなことがあって。しかしこの時はまだ、空太はアタシの言う事を酔っぱらいの戯言としか思っていなかったようで。翌日からはそんな話をした事など忘れてしまったように振る舞っていた。
まあ当然だよね。いきなりこんな突拍子もない事を言われたって、真に受ける方がどうかしてるって思うもの。
そんな空太の心境に転機が訪れたのは、アタシのピアノの発表会のすぐ後。壮一の御両親の葬儀の時だった。
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