ろくじゅうきゅう粒め。

 血痰を吐いた。

 原因は多分、あれだ。

 部屋の雨戸の埃。


 大晦日にむけて、少しずつ掃除しようとして、喉がやられた。

 ちゃんとマスクしないからだよ? と過去の自分に言い聞かせる。

 遅いのだが、今、マスクをしてPCを打っている。


 昨夜はあまりの痛みに錯乱してか、窓から近くにあるベッドの上のクッション類を全部埃タタキした。

 おかげか、少しましになった。

 ベッドで寝られる程度には。


 けど、なんかつらいので、病院に行くことにした。

 トローチをなめると、吐き気がするし、風邪薬も効いているのかわからない。

 とにかく鼻がつまって仕方がない。


 幼い頃から鼻炎だったのは、部屋が埃っぽかったからかな。

 今更だけれど。

 粉塵アレルギーかもしれない。(そんなものあるの?)


 さて、偽田中一郎氏の許可もいただいたことだし。

 ネインくんの物語第二弾、いっちゃうか!?

 設定は前と同じ?

(ネインくん、こくんと頷く)

 じゃあ時は年の暮ってことでいい?

(ネインくん、こくん)

 そうね……今年は北日本くらいですって、雪が降るクリスマスは。

 前回がクリスマスだったから、こんどは除夜の鐘?

(ネインくん、あわあわしてる)

 どうしたの? 何か言いたそうね。

 除夜の鐘だめ?

(ネインくんこくん)

 なんで?

「帰りたい。まっすぐお家にかえりたい」

 偽田中一郎氏のところへ?

(ネインくんこくん)

 ふられたか。

 じゃあしかたない、なぜ除夜の鐘がダメなのかは不明なんだけど、帰りたいっていうんじゃなあ。

 じゃあ、ネインくんが作者のところへ戻る話にしようか?

(ネインくん、こくん)

 バトルにしなくちゃいけないんだね? うーん、と。


『ハレルヤ! ~時の戦士返り咲く~』


 バトルが書けないカクヨム作家のもとへ突如として君臨した、驚異の一歳児。(産まれてから一年ってことね)

 日ごろから鍛錬を欠かさない、その名もネイン!

 それがなんだか水木レナのもとへ来ている。


 お帰りなさいよと勧めても、いやだ、ここにいると言い張っていた彼。

 ここへきて里心がついたのか、急に帰ると言い始めた。

 キャラクターであるとともに、偽田中一郎氏の天の神でもあるネインくんは、偽田中一郎氏とともに年越しする契約を結んでいる。


 さて、ここで問題だ。

 1、ここでネインくんとおわかれ。

 2、決闘。(水木レナがどれだけバトルを書けるようになったのか、偽田中一郎氏の天の神に見てもらうため)


 当然、2だ。

 1などあり得ない。

 これはまたとないチャンス!


 ちょっと腕慣らししようか?

 上段の構えから打ち込んできたネインくんの剣を、真正面から受ける水木。

 まだまだ、こんなもんじゃないよね?


「チッチッ」と人差し指をふるネインくん。

 お次はどう来るの?

 気合一閃! 剣と一体になって凄い気迫で迫ってくる。


 とりあえず、逃げ!

 ネインくんは静かに中段の構えをとっている。

 戦いの天才に勝てるわけないじゃない! 弱気がでてくる水木。


 うわあ! やられた!! 水木がうつぶせると、ネインくんは垂直に剣を構えてとどめの姿勢。

 ううー! この!! 負けないぞ!!!


 はねのけて飛び退る水木。

 とにかく距離をおこう。

 腕慣らしでとどめさされちゃかなわないからね! どこまで本気なんだ……ネインくん。


 長剣を手放して、もう飽きたよ、というネインくん。

 そうか……水木じゃだめなんだね。

 涙をのんで、ネインくんを見送る水木。


 さようなら、さようなら。

 また遊びに来てね。

 ありがとう! グッバイ!!


 朝日に彩られながら、影のようにネインくんは素早く帰っていった。

 そして偽田中一郎氏とともに、新たな物語をつむぐ用意をするのだろう。

 ネインくん、あなたは強かった! それだけは憶えておくよ!!


 了


 じゃなくって! ネインくん、寝転がってるところ悪いけれど、水木は剣を振り下ろす。

 受けて、ネインくん。

 青いバスタードソード片手に、指先をふる。


「ええい! 除夜の鐘! 除夜の鐘!!」

 なんだかおかしい。

 顔をゆがめて、ネインくんは口元を抑えて俯いている。


「え? もしかして……ネインくんは除夜の鐘で消えちゃう?」

 ぴんぽんぴんぽーん、正解です、とアナウンスが入る。

「え? ネインくん、煩悩あつかいなのー?」


 しまった、ネインくんは顔を覆ってしまった。

「あ、ねえ。ごめんね? ごめんなさい。煩悩っていうより、ゆめだよね?」

 急に向き直るネインくん。


「ネインくんは、ゆめと希望のかたまりだもんね!」

 しっかり頷くネインくんだった。

「除夜の鐘で消えちゃったり、しないよね?」


 ちょっとだけこちらを向いて頷くネインくん。

「じゃあまた、逢えるでしょう?」

 茫洋とした目で黙るネインくん。


「だめなの?」

「失敗する。おまえのキャラクターは、崩壊する」

「もともと、女性の人格は、月に四回、変わるんだよ」


 あごに指をあてて思案する様子のネインくん。

「どうしようかな……」

 ? どうしようって?


「今までのように、恋人じゃないし」

 恋人……? そっか、今ヒロイン不在だね! 恐れ入りました。

「ヤブヘビだ……」


 ? わからないな。

 とりあえず、この企画は失敗ということで。

「しっぱいかー」


 オチがつかないでしょ?

「そうなんだよ……」

 ネインくんは、お正月を偽田中一郎氏と過ごすってことでよい?


 うん、と頷くので水木は彼の背を見送った。

 遠ざかる小さな背中。

 それでも水木を支えてくれた男の背中だ。


「好き……だよ。ネインくん」

 ぎゅば! っと戻ってきたネインくん、水木の両手を握りしめ、キラキラとした目で言った。

「お願いだから、その路線でいって!」

 乙女ゲーみたいなので?

「うん」


 パーン! と猫だましをくらわす水木。

「わたしはバトル書くって決めたんだよ」

 言って、しかたなく笑う水木だった。


 ネインくんはしゅばばば! と駆け去った。

 お正月はやっぱり、お年玉をもらうのかな、彼……とぼんやり思う水木なのだった。


(あれ? 甘くも辛くもないね? 終わりにしよう)


 了

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